初級編(発注業務編) 第1話 楽な発注、しんどい発注 ~商品ごとに発注方式を変えた方がよいのか~コラム
公開日:2021年2月18日
在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。
そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需要予測・需給計画の基本を分かりやすく解説します。
需給計画の中の発注業務をテーマに、発注業務の問題点と抑えておきたいポイントを見ていきましょう。
楽な発注、しんどい発注
皆さんはじめまして。キヤノンITソリューションズの大下です。発注業務の問題点をテーマとしたコラムを担当させていただくことになりました。計6話を予定しております。よろしくお願いいたします。
『発注』は、ビジネス上の業務だけでなく、私たち一人ひとりが普段の生活の中で、無意識のうちに適切な方法を考えて行っている、とても身近な行為です。例えば10月に子供の運動会があるとき、それまでに新しい運動靴が欲しいと思ったら、半年前から発注する人はいないでしょうし、また逆に、前日に注文する人もいないでしょう。なぜなら、早く頼みすぎてしまうと、その間に子供が成長してサイズアウトして使えなくなったり、逆に直前すぎると調達が間に合わなくなったりするからです。
このように、本コラムでは、身近な例を挙げて、発注業務に関する入門編的な位置づけで、どなたでも気軽に読んでいただけるよう、わかりやすいストーリー仕立てで進めていこうと考えています。
『発注』という業務を想像したとき、誰もがイメージしやすいよう、とある個人経営の『スーパーおおした』を舞台にして、お話の進行をおおした店長と、アルバイトのいろはさんに手伝っていただきます。
第1話では、商品を発注するいろいろなやり方について考えていきたいと思います。
発注方式のいろいろ
『スーパーおおした』は小さな個人経営のスーパーで、社員はおおした店長のみ、昼間は主婦のパートさんと、夕暮れ時の忙しい時間帯は、学校帰りの高校生のアルバイトさんに手伝ってもらっています。今日もそろそろ学校が終わる頃、いろはさんがバイトにやってきました。
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いろは「お疲れ様でーす…」
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店長「おー、おつかれー。…あれ、なんか元気ないね、どうしたん?テストの点でも悪かった?」
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いろは「いやー、今日は火曜日じゃないですかー、火曜と木曜のバイトって、しんどいんですよねー…だからちょっと憂鬱で」
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店長「へー、そうなん?(ウチの店、火曜と木曜って売上よかったっけ?)でも、今日はいろはさんの発注担当の日やろ?大変やけど、お願いねー」
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いろは「はーい」
気になったおおした店長はバックヤードにあるデスクに戻ってパソコンを起動し、最近の売上を確認してみましたが、特に火曜と木曜に売り上げが上がっている様子はありませんでした。
次の日(水曜日)のバイト終わり。
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いろは「お先でーす、失礼しまーす」
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店長「あ、いろはさん、昨日はしんどいて言ってたけど、今日は大丈夫やった?」
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いろは「はい、今日は楽でしたねー」
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店長「えー?でも、昨日も今日もあまりお客さんの数は変わんなかったと思うけど…?」
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いろは「あ、ちがいますちがいます、レジ打ちじゃなくて、火木は検品と品出しする商品の種類が多くてしんどいんですよー、ちょっとずつが、たくさんあるので」
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店長「え、そうなん!?そういわれると、確かに昨日入荷したプラコン※1 には、いろんな種類の商品が少しずつ入っていた気がするな…逆に今日は同じ商品がある程度まとまって入ってて、量は多かったけど商品の種類はそれほどでもなかった気が…なんでやろ?」
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いろは「今日入ってきた商品は私が昨日発注しましたけど、火木に入ってくる商品を発注するのは店長ですよね?いつもどう発注してるんですかー?」
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店長「え?どうって、普通に売れた分だけ発注するようにしてるけど??いろはさんはちがうん?」
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いろは「私は棚の奥を見て、半分くらい商品が減ったら、奥いっぱいになるよう発注してますよー。だから、1,2個売れても、発注してないです。それが原因なのかなー、わかんないですけど」
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店長「え、そうなの?…だったら楽なほうがいいから、オレも次からそうしようかな…なんか今までゴメン…」
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※1
プラコン…プラスチックコンテナの略。主に物流の現場で商品を保管したり輸送したりするときに使用する。返却時はスペース取らないよう、折りたためるようになっているものもある。
解説
皆さん、どうでしたか?もうお分かりですよね。発注方式によって、作業負荷が変わってくる、という一例でした。
発注方式には、下表のようなものがあります。おおした店長は、売れた分だけ発注する、セルワンバイワンと呼ばれる発注方式を使っていました。
発注方式 | 概要 |
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定期発注方式 | 一定期間(例:週に1回)で発注する間隔を定めておき、その都度発注する量を決定する方式です。 |
定量発注方式 | 在庫がある一定の基準まで下がったとき、定められた量を発注する方式です。発注点方式、発注点補充点方式などがあります。 |
簡易発注方式 | 品目数が多いが重要度が低い商品を、なるべく発注コストをかけずに発注するための方式です。ダブルビン方式、セルワンバイワン(補充方式)などがあります。 |
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分類方法には諸説あります
セルワンバイワン(補充方式)は、
- ロジックが単純で発注作業にかかる時間を短縮できる
- 売れた分だけ発注されるので発注モレによる欠品も少ない
というメリットがありますが、
- 多品種小数発注になりがちで、検品や品出し作業に時間がかかる
- 需要が低下した商品は過剰在庫になりやすい
- 在庫を見ていないため、廃棄や万引きなどの影響を考慮できない
というデメリットがあります。
対していろはさんは、発注点(= 棚の半分)を下回ったら、補充点(= 棚いっぱい)までの量を発注する、発注点補充点方式を使っていました。この方式は
- 発注頻度が下がるため、発注コストを軽減できる
- 少品種に絞って発注できるため、検品や品出し作業時間が短縮できる
というメリットがある反面、実は
- 一定のペースで売れ続けることを前提にしているため、需要の変動に弱い
といったデメリットもあります。
発注方式は、どれが正しい、というものではありません。業種や商品の特性などによって、発注のやり方を考えることが重要ですね。
次回の第2話では、『廃棄と発注』についてお話したいと思います。
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筆者紹介
- 大下 吾朗(おおした ごろう)
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R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。
需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
主に在庫補充量計算に関する機能設計・開発を担当。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
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