初級編(発注業務編) 第4話 当たる予測、外れる予測 ~需要を予測するためのポイントとは~コラム
公開日:2021年6月17日
在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。
そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需給計画の基本を分かりやすく解説します。
需給計画の中の発注業務をテーマに、発注業務の問題点と抑えておきたいポイントを見ていきましょう。
当たる予測、外れる予測
前回のおわりに、品切れしている商品について、POSデータから最終販売時刻を抽出し、『もし品切れしていなけば売れていたであろう数量』を予測するという『需要予測』の事例について紹介させていただきました。
今回は、もう少し基本的な需要予測について考えていきたいと思います。では、さっそくいつものように、お話の進行を『スーパーおおした』のおおした店長と、アルバイトのいろはさんに手伝ってもらいましょう。
需要予測と発注
ある日のバイト終わり。
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いろは「お先でーす・・・あれ?店長、何やってるんですか?」
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店長「おー、おつかれー。ん、これ?来週発注する量をある程度把握しておこうと思って、来週分の販売数を予測しててん」
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いろは「へー、どうやって予測してるんですか?」
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店長「んー、特に決まったやり方はないんやけど、勘?かな・・・売れてる商品はなんとなくわかるんやけど、それ以外の商品は数が多いし、どれだけ売れてるかもよくわかんなくてねー・・・結構大変やわー・・・」
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いろは「えー?でも商品の販売実績データは、そのパソコンで見れるんですよね?だったら、過去の販売実績から、どれくらい売れたのかすぐわかるんじゃないですか?」
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店長「おー、確かに!それならあまり売れていない商品の販売傾向も確認できるし、商品数が多くても、表計算のソフトを使ったら簡単に予測できるかも!ありがとう、さっそくやってみるわ!」
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いろは「いえー、じゃー失礼しますねー」
翌週末、金曜日のバイト終わり、バックヤードにて。
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いろは「あれ?店長、ポテチ売り場の棚はスカスカで空いてるのに、バックヤードにはポテチがたくさん積んでありますよ?」
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店長「そーやねん。空いてる棚は新商品のポテチの棚で、今日一気に売り切れちゃって…追加分は明日入荷する予定やねんけど…そこに積んでるポテチは前から売ってる商品で、先週教えてもらったように最近の販売実績をみたら、ほとんど毎週同じくらい売れていたから、平均値で予測してその通り発注したんやけど…なぜか今週はあまり売れずに余ってしまって…なんでなんやろ?」
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いろは「新商品のポテチは、どうやって販売数を予測したんですか?先週時点ではまだ販売実績はなかったですよね?」
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店長「うん、それはちょっと考えて、似たような商品の販売実績を参考にしたのと、あと、ほら、新商品って最初は目新しくてよく売れるやん?だからちょっと多めに予測してん…今日一気に売れなかったら、ちょうどいい感じの予測やったんやけどなー…」
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いろは「へー、考えましたねー。…ポテチ系の発注は週に3回ありますよね?今週分の予測はどう3 回に分けたんですか?」
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店長「3等分して3回に分けて発注したんやけど…なんかまずかったかな…?」
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いろは「…もしかして、それが原因なのかなー。ほら、今日は金曜で、明日から週末じゃないですか?毎日同じペースで売れるのじゃなくて、週末はお家で過ごす人たちが多くなるから売れやすい傾向があるのかも…」
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店長「なるほど!確かにそうかも…でも、なんで今までのポテチはこれまでみたいに売れんかったんやろ?」
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いろは「…やっぱり、お客さんが今までのポテチの代わりに新商品を買ったからじゃないですかねー…新商品がなかったら、売れてたのかもしれませんねー…」
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店長「…なるほど…そうかも…」
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いろは「なので、『週のどのタイミングで売れるのか』とか、『新商品が売れると逆に売れなくなる商品はないか』とか、いろいろ考えて発注しないといけないのかな?わかんないですけど」
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店長「確かにそうやなー…よし、さっそく来週も新商品が発売になるから、今から考えてみるわ!」
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いろは「もうすぐ夏で暑くなってくるから、飲料とかの売り上げも直近の販売実績より売れそうですよねー…あ、でも去年の販売実績を見れば、どれくらい増えるかとか傾向はわかりますよね!」
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店長「…そやね…なんか、いっぱい考えんといかんね…頑張るわー…」
解説
さて、いかがだったでしょうか。
今回は、たくさん考えないといけないことがあって、おおした店長も苦労しそうですね。では、お話のポイントについてひとつずつ整理していきましょう。
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①将来の販売数は、過去の販売実績から予測することができる
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②販売実績がない新商品は、類似商品や旧商品の販売実績をもとに予測することができる
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③新商品が売れると、カニバリ※1によって、逆に売れなくなる商品もある
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④発注するためには、週や月単位での需要予測だけでなく、曜日変動や月内変動などを考慮した日単位の需要予測も重要である
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⑤季節性を考慮するためには、直近の販売実績だけで予測するのではなく、前年・前々年の販売実績も考慮する必要がある
また、おおした店長は単純な平均値で予測していましたが、実際にはいくつかの需要予測モデルが存在するため、
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⑥需要パターンごとに適した予測モデルで予測することが重要である
と言えます。今回は入門編という位置づけなので、難しいお話は避けますが、いくつかの予測モデルとその特徴について簡単に紹介しておきますので、興味がある方はぜひ調べてみてください。
モデル名 | 概要 |
---|---|
単純移動平均モデル | ある一定区間ごとの平均値を、区間をずらしながら計算して予測値とする手法 |
移動平均(MA)モデル | 将来の予測値を、過去の予測値と実績値との誤差により決定する手法 |
指数平滑モデル | 直近の実績値に大きな重みを、過去になるほど小さな重みをつけて、移動平均を計算する手法 |
ウィンターズモデル | 指数平滑モデルにおえる時系列の変動に加え、季節変動とトレンドを考慮した手法 |
自己回帰(AR)モデル | 現在の値を過去のデータを用いて回帰するモデルで、時間の変化に対し規則的に値が変化するケースに用いられる手法 |
自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデル | 過去の実績値(AR)と過去の誤差(MA)に加え、トレンド(I:和分)を考慮した手法 |
今回、需要を予測する際の考慮すべき点を6つ紹介しましたが、もちろんこれらがすべてではありません。実際は、すべての商品が通常通り売れることはほとんどなく必ずイレギュラーが発生します。
次回の第5話では、そういったイレギュラーに対応するためのもう少しだけ高度な需要予測について考えてみたいと思います。
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※1
カニバリ…カニバリゼーション(Cannibalization)の略で、『共食い』の意味。マーケティング用語としては、同じ会社による新商品導入の結果、商品同士が競合し、既存商品の売り上げを奪ってしまうということを指す
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筆者紹介
- 大下 吾朗(おおした ごろう)
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R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。
需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
主に在庫補充量計算に関する機能設計・開発を担当。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
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