初級編(発注業務編) 第5話 なくせる誤差、なくせない誤差 ~需要予測の精度を改善する方法とは~コラム
公開日:2021年7月15日
在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。
そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需給計画の基本を分かりやすく解説します。
需給計画の中の発注業務をテーマに、発注業務の問題点と抑えておきたいポイントを見ていきましょう。
なくせる誤差、なくせない誤差
前回は、需要予測の基本的な6つのポイントについて紹介させていただきました。
ただし、実際は需要予測の通りに売れることはほとんどなく、必ず誤差(外れ)が発生しますよね。今回は、この誤差を少しでも減らし、需要予測の精度を改善する方法について考えてみたいと思います。
では、さっそくいつものように、お話の進行を『スーパーおおした』のおおした店長と、アルバイトのいろはさんに手伝ってもらいましょう。
異常な販売実績と需要予測
ある日のバイト終わり。
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いろは「お先でーす…あ、店長、また来週分の販売数を予測してるんですか?」
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店長「おー、おつかれー。そうやんねん、でもなー…」
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いろは「なんか難しそうな顔してますね?どうしたんですか?」
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店長「ん一、いつも通りに過去の販売実績を見ながら来週の販売数を予測したんやけど、『いやいやいや、そんなに売れんやろー』って商品があって、ちょっと原因を探しててん…」
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いろは「ヘー、どんな商品ですか?」
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店長「んーと、水とか、カップラーメンとかかなー。この時期、こんなに売れるとは思えへんねんけど、なんか異常に予測が高くなってんねん。念のためここ数週間の販売実績も確認したんやけど、売り上げが伸びてきてる感じもないんだよな一…。なんでやろな一…」
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いろは「(… !) そういえば店長、この前、予測するときに去年の販売実績も見て計算するように変えてましたよね?もしかして、去年のこの時期にお水とかカップラーメンが売れてたんじゃないですか?」
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店長「えー…(パソコンを操作して去年の販売実績を調べながら)そんなことないやろー… わっ!めっちゃ売れとるわっ!なんでなんっ?」
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いろは「ほら店長、去年のこの時期、近所で停電があったじゃないですか一、大雨で。そのときは買い出しに来るお客さんでバタバタしてた記憶しかなくて、お水やカップラーメンが売れてたかまで覚えてなかったけど、それが原因なんじゃ…」
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店長「ホンマや…でも、こんなんどう予測したらええんやろ…?」
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いろは「去年の販売実績は異常で、停電がなかったら通常通り、つまリ前々年の同じ時期や、前週または翌週と同じ売れ方をしたと思うので、その販売実績から補正してあげるといいのかも…わかんないですけど」
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店長「…くっ、また徹夜か…うん…頑張ってみる…」
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いろは「…あれ?ビールも売れてますけど、停電の時、大人の人はビールを飲みたくなるんですか?」
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店長「…いや、むしろ飲まないと思うよ、危ないもん…なんで売れたんやろ?」
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いろは「…そういえば、去年ちょうど停電のあった次の日に、地元のお祭りがあリましたね!友達と『お祭りの日じゃなくてよかったねー』って話ながら屋台を回ってた記憶があります。大人の人たちは、集まってお酒飲んだりしてたから、それが原因かも…」
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店長「じゃー、ビールは毎年お祭りのあるこの時期に売れてるから、補正しなくてもこまのまでいいよね」
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いろは「あっ!でも今年は神社の改修工事で、1週間後ろにズレるって友達が言ってましたよー」
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店長「え、ホンマなん!?ちょっと最近忙しくて商店街の寄合とか出れてなかったから…確認してみるわ!」
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いろは「ほかにも、近所のイベントなんかによって、商品の売れ方が変わるかもしれないので、なるべくイベント情報は正確に知っておいたほうが良いですねー」
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店長「…はい、次の寄合から、サボらずに行ってきます…」
解説
さて、いかがだったでしょうか。
今回のお話の最初に『需要予測には、必ず誤差が発生する』というお話をしましたが、実は誤差には『なくせる誤差』と『なくせない誤差』が存在します。
今回はこのうちの、なくせる誤差について考えてみたいと思います。
ではいつものように、今回のポイントを振り返ってみましょう。
①異常な販売実績をもとに需要予測をすると、需要予測も異常になる
今回のように、停電などの災害時や増税時などには、通常とは異なる販売傾向になりやすい商品があります。こういった販売実績をもとに需要予測をすると、おおした店長のように感覚と一致しない異常な需要予測になってしまいます。それを回避するには、異常な販売実績を見つけて(異常値検出)、『通常ならどれくらいか』という数値に補正(異常値補正)することで、予測精度を向上させることが可能です。(異常値検出や異常値補正の仕組みについては、上級編コラム『需要予測における異常値対応』をご覧ください)。
②イベント情報などの将来の外部要因を考慮することで、予測精度が良くなる
イベント情報など将来の外部要因は、過去の販売実績から予測することは不可能です。したがって、サボらず寄合に参加したり、アンテナを張って情報を集めて需要予測に反映していくことがとても重要になってきます。『お祭りが1週間ズレる』というごとが事前にわかれば、過去のお祭りの時期の販売実績から、どれくらい需要が増減するのかは計算することができますので、予測精度を向上させることが可能です。
また、今回のお話にはありませんでしたが、①と②を同時に考慮しないといけないケースもあります。例えば、下図のようなケースです。
ビールのような『暑いと売れる』『涼しいと売れない』というような商品を考えたとき、過去の販売実績と気温の実績から回帰分析※1などにより補正係数を求めておくことで、『通常ならこれくらい売れた』というデータに補正することができます。この補正データをもとに予測すると、『通常ならこれくらい売れる』という需要予測ができますので、今度は気温の予報をともに補正係数を用いて補正すると、気温を考慮した需要予測が可能になります。
今回の第5話では、なくせる誤差の予測精度向上の方法について、いくつか考えてみました。
次回の最終話では、なくせない誤差をどう業務に組み込んでいくのか、について考えてみたいと思います。
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※1
回帰分析...結果となる目的変数と、要因と考えらえる説明変数の影響関係を分析する手法。説明変数が1つなら単回帰分析、複数なら重回帰分析という
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筆者紹介
- 大下 吾朗(おおした ごろう)
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R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。
需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
主に在庫補充量計算に関する機能設計・開発を担当。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
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