初級編(需給業務編) 第1話 販売計画は当たらない ~様々な立場から販売計画を考える~コラム
公開日:2022年2月3日
在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。
そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需要予測・需給計画の基本を分かりやすく解説します。
今回は需給業務をテーマに、直面しやすい課題と抑えておきたいポイントを見ていきましょう。
販売計画は当たらない
皆さんこんにちは。キヤノンITソリューションズの大下です。前編は『発注業務編』として、だれでもイメージしやすいように、スーパーマーケットを舞台としたストーリー仕立てで発注業務の問題点について考えてみました。
本編は『需給業務編』ということで、『需要と供給のバランスを考えながら、いつ何をどれだけ在庫すべきか考える業務』をテーマに、いろはさんが地元にある文具メーカーに就職して、工場長とともにいろいろな需給業務の問題点にぶつかっていくストーリーで進めていきたいと思います。
前編と同じく、計6話を予定しております。
まだ発注業務編をご覧いただいていない方は、まずそちらをご覧いただければ、よりお楽しみいただけるのではないかと思います。
第1話では、様々な性質を持つ販売計画について考えていきたいと思います。
何のための販売計画か
大学卒業後、地元の文具メーカーに就職したいろはさん。この会社では、これまで工場で生産計画を立案していましたが、全社的に在庫削減に取り組むことが決まり、全社の需給を調整する部門としてSCM部門が新設されました。そのSCM部門に配属された、いろはさん。
さっそくこれまで生産計画を担当していた工場長に話を聞きに行ったようです。
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いろは「初めまして!新しくSCM部門に配属されました、いろはです!これからこの工場の生産計画を担当することになりました。まだまだ分からないことばかりですけど、よろしくお願いいたします!」
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工場長「おー、新人さんがこの工場の生産計画を担当するんか。まー、今月の生産計画はもう立て終わってるから、来月の生産計画からしっかり頼むわ」
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いろは「(新人さん・・・)はい、それでは、今月末までに来月の生産計画を作成しておきますね。ちなみに、これまで生産計画を立てるときは、どの販売計画を使われていましたか?」
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工場長「どの販売計画?どーゆーこっちゃ?」
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いろは「え?えっと、経営陣から発信されている年間販売計画とか、営業部門から発信される担当別販売計画とか、いろいろあると思いますけど・・・」
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工場長「あーあれな、使ってないわ」
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いろは「え?使ってない?」
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工場長「おー、使ってない。だって、当たらへんやん、あんなん。せやから自分たちの経験とかカンとかで計画してたわ」
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いろは「(わー・・・昭和って感じ・・・)そうですか、わかりました。では、ちょっとこちらでも考えてみますね」
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工場長「おー、頼むわ」
そして月末。
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いろは「工場長!スミマセン!ちょっとご相談が・・・」
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工場長「おー、新人さん、やっぱり来たな」
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いろは「このままじゃ欠品しそうな商品があって、緊急で生産してもらえないかと・・・え?というか、もしかしてわかっていたんですか?」
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工場長「まーなー、これまで自分のカンでやって来てたから、この前生産計画見たとき違和感を感じてなー、これじゃ少ないやろなーって」
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いろは「え?だって、ちゃんと営業の担当別販売計画をもとに考えたし、そんなはずはないと思うんですけど・・・」
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工場長「だから言ったやん、当たらんって。そもそも、営業がみんなストライク狙ってるとは限らんやろ?」
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いろは「え?どういうことですか?」
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工場長「ヒントは教えたんやし、すこしは自分で考えてみー。それより、この商品は逆に売れてないんちゃう?計画入れ替えて、足りん商品を先に作ろか」
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いろは「・・・気づきませんでした、たしかにこの商品は計画より売れてないですね、それでお願いします・・・販売計画が外れた原因も、自分なりに考えてみます・・・」
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工場長「まー、がんばりやー」
次の月末。
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いろは「工場長、来月の生産計画を持ってきたので、確認してもらえますか」
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工場長「おー、新人さん、どれどれ・・・へー、だいぶ違和感なくなったやん、どうしたん?」
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いろは「(やったー!)えっと、いろいろ考えたんですが、工場長が言ってた『ストライク』って販売実績に近いってことかなって思って。で、前にバイトしてた時のことを思い出して、過去の販売実績からパソコンで予測してみたんです。そしたら、営業の担当別販売計画とギャップが大きいところがあって、確認したら根拠がある計画もありましたけど、わざと高めや低めに計画している担当もいて・・・」
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工場長「へー、予測ねー・・・やるやん。ちゃんとヒントから、販売計画がなんで当たらんか分かったみたいやし。次からもあんじょう頼むわ、いろはさん」
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いろは「(やっと名前で・・・)はい!頑張ります!」
解説
皆さん、どうでしょう?工場長のヒントはわかりましたか?そうです、販売計画は立場や目的によって、どのような意志が反映されるかわからない、ということです。3つの立場を例に、もう少し詳しく見ていきましょう。
① 経営者の立場ならどうでしょうか。
当然業績を上げたいはずですので、実績より高めの販売計画を立てるでしょう。過度な期待を込めた販売計画だと、思ったより売れず在庫過剰になる可能性があります。
② 営業の立場ならどうでしょうか。
商談の際に在庫がないと機会損失になりますので、多めの販売計画が設定されるケースもあります。
その一方、自分のノルマとしての販売計画だと、達成しやすいように少し低めに設定するケースもあるかもしれません。
前者の場合は在庫過剰になりやすいですが、後者だと欠品のリスクが高くなりますよね。
③ 生産の立場ならどうでしょうか。
過剰な在庫は品質の劣化や保管コストの増加につながりますし、逆に少ないと欠品による機会損失や緊急生産などによるコストの増加につながります。
また、適正な安全在庫を設定するためにも、実際の需要に見合った販売計画が望ましいですね。
このように、販売計画にはいろいろな性質をもった計画が存在します。誰が何のために立てた販売計画なのか、しっかり考えて使用していくことが必要ですね。
次回の第2話では、『急になくなる在庫』についてお話したいと思います。
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筆者紹介
- 大下 吾朗(おおした ごろう)
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R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。 需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。 主に在庫補充量計算に関する機能設計・開発を担当。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
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