初級編(発注業務編) 最終話 必要な財庫、不要な罪庫 ~なくせない誤差をどう業務に組み込んでいくか~コラム
公開日:2021年9月16日
在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。
そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需給計画の基本を分かりやすく解説します。
需給計画の中の発注業務をテーマに、発注業務の問題点と抑えておきたいポイントを見ていきましょう。
必要な財庫、不要な罪庫
発注業務の問題点をテーマとしたコラムも、いよいよ今回が最終話となりましたね。前回は、『なくせる誤差』と『なくせない誤差』のうち、なくせる誤差についてお話させていただきました。今回は、なくせない誤差をどう業務に組み込んでいくのか、について考えてみたいと思います。
では、最終話の進行を『スーパーおおした』のおおした店長と、アルバイトのいろはさんに手伝ってもらいましょう。
ブレる需要と安全在庫
ある日のバイト終わり。
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いろは「お疲れ様でーす」
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店長「おー、おつかれー…そうだ、いろはさん、いつまでバイトに来れるんだっけー?」
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いろは「えーっと、今月末までです。そろそろ受験勉強頑張らないとー」
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店長「そっかー…いろいろ助けてもらってるから、いなくなると正直きついけど、進路は大事やからねー…頑張りやー!」
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いろは「はい!…あ、店長、そういえば最近バックヤードがビールでいっぱいですけど…どうしたんですか?」
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店長「あー、ほら、もうすっかり暑くなってきたし、ビールが売れる時期やからいつもより多めに発注しといてん」
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いろは「へー…今年はいつもより売れそうなんですかー?」
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店長「そういうわけやないけど、お酒やからすぐに賞味期限がきれることもないし、いつかは売れるから廃棄にもならんし。売り損なっちゃう心配も、発注の手間も減るから、一石二鳥ちゃう?」
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いろは「…そうですかー…あ、もうこんな時間だ!そろそろ失礼しますねー」
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店長「おー!気を付けて帰りやー」
数日後。
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いろは「店長…なんかまたバックヤードの商品増えてませんか…?商品が山積みで、崩れたりしたら危ないんじゃ…」
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店長「そやねん…新商品の清涼飲料水が予想以上に売れてるから、あわてて発注したんやけど、ビールがあることすっかり忘れてて…とりあえず場所がないから積んだけど、確かに危ないからすぐになんとかするわー…しかし、やっぱり新商品の販売数を予測するのは難しいよなー…」
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いろは「確かにそうですねー。似た商品があれば、ある程度予測することはできるかもしれませんけど、今回の新商品はあまり似た感じの商品がないですからねー。だから予測に頼って発注するのには、限界があるのかもしれませんね…」
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店長「ん?どういうこと?」
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いろは「えっと、つまり新商品とか予測が難しい商品は、予測が外れることを想定して品切れしないよう多めに発注しておいて、逆にいつも通り売れるビールとかは予測が当たりやすいから、余分に発注しなければいいんじゃないですかねー?わかんないですけど」
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店長「…なるほど」
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いろは「新商品を品切れさせなければ売り損なうこともないですし、人気の新商品が買えたらお客さんもうれしいですよねー。それに余分な在庫が減ればバックヤードも広くなって安全だし、新しいビールが飲めたほうがお客さんもハッピーじゃないですかねー。まさに、一石四鳥?(笑)」
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店長「うっ…確かにそうかも…発注の手間を考えて、サボろうとしてごめんなさい…以後気を付けます…」
解説
さて、いかがだったでしょうか。なくせない誤差をどう業務に組み込んでいくのか、いろはさんは何となくわかったようですね。
そうです、答えは『安全在庫』を適正に持つ、ということです。
安全在庫には、下の表の通りいろいろな考え方があります。
在庫管理に関連するホームページや書籍では、よく③の考え方を見かけますが、いろはさんの考え方は④でしたね。計算式もよく似ていますが、違いについて少し補足したいと思います。
販売実績のバラつきから計算する方法
販売実績のバラつきを使用した安全在庫の計算式は以下の通りです。
このとき、商品A と商品B のケースでどうなるか考えてみましょう。
商品AもBも同じ計算式ですが、販売実績のバラつきに応じた安全在庫を持つことで、欠品を防止できていることがわかると思います。
予測誤差のバラつきから計算する方法
では次に、いろはさんの言っていた予測誤差のバラつきから計算する方法を考えてみましょう。計算式は次の通りです。
同じように、商品A と商品B のケースで考えてみます。
このように、予測誤差の標準偏差を使用した場合も、予測誤差のバラつきに応じて安全在庫を持つことで、欠品を防止することができることがわかるかと思います。
では、次のような商品C のケースはどうなるでしょうか?
商品C のように季節性があるような場合、一般的には
となる傾向があるため、予測誤差の標準偏差を使用したほうが、安全在庫が少なくなることがわかるかと思います。
以上で、発注業務の問題点をテーマとしたコラムは終了となります。これまでご愛読いただきありがとうございました。本コラムが読者の皆様のお役に立ちましたら幸いです。
また機会がありましたら、お会いしましょう。
エピローグ
いろはさんのバイト最終日。
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店長「いろはさんも、今日でバイトおわりかー…進路希望は決まってるん?」
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いろは「はい。ただ、地元には希望する学科のある大学がないので、今の家を出て下宿することになると思いますー。だから、アルバイトはするつもりですけど、このスーパーでは働けないですねー」
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店長「そっかー…それは残念だ…まー、こっちに戻ってきたらまた顔出してやー!」
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いろは「はい!わかんないですけど!」
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店長「いや、そこはわかっとこうよ…(汗)」
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いろは「では、またー!」
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筆者紹介
- 大下 吾朗(おおした ごろう)
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R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。
需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
主に在庫補充量計算に関する機能設計・開発を担当。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
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