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第3回 テレワークを活用した人材確保[2023.11.24]
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コラム|日本テレワーク協会によるテレワークトレンド解説 Vol.2
第3回 テレワークを活用した人材確保[2023.11.24]

日本テレワーク協会によるテレワークトレンド解説 Vol.2

日本のテレワークと2024年問題

総務省によると、国別のテレワークの利用状況は【図表1】の通り、感染症対策として一気に普及したとはいえ米国や中国、ドイツと比較するとまだまだといえます。一方、円安の影響もあり、【図表2】の通り日本の一人当たりのGDPは24位となっています。

【図表1】テレワークの利用状況(国別)

【図表1】テレワークの利用状況(国別)

(出典)総務省(2022)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」

【図表2】1人あたりGDP(日本生産性本部)

【図表2】1人あたりGDP(日本生産性本部)

そして、こちらの【図表1】と【図表2】を相互にご覧いただくと、テレワークが普及している国はGDPも高いということがわかります。表現を変えると、日本はまだ「伸びしろ」がある、ともいえます。2023年10月には国別GDPでドイツに抜かれて3位から4位になってしまうのではという報道がありました。ドイツの人口は日本の4分の3であり、4人がかりでがんばっても3人に勝てない、というのはかなり悲しい現実であるといえます。そのドイツの働き方について調べてみると、ドイツでは経営側とワークスカウンシルという従業員の代表者が協議をして労働協約を結ぶ傾向があるということがわかりました。(※1)この協約により従業員は仕事の柔軟性という点において大幅な自由を与えられているようです。

例えば、

  • 勤務時間の20%はオフィス外で過ごすことができる(スポーツメーカー)
  • 3分の2の従業員は、技術・業務上不可能である場合を除き、自宅で働く権利を有する(自動車メーカー)
  • テレワークで働く場合、チームリーダーにSMSなどで知らせるだけでよい(ソフトウェア)
  • 上司に相談の上、勤務時間と勤務場所を自分で決めることができる(自動車メーカー)
  • など、大幅な自由を与えたり、自宅で働く“権利”を認める、というところは、ヨーロッパでは一般的なようで、文化の違いを感じるところです。


    さて、大幅な自由からはほど遠い日本において、昨今話題になっている2024年問題について、触れさせていただきます。まず、建設業での時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが、来年4月からは適用となります。【図表3】(※2)の通り、厚生労働省が解りやすく解説されていますので、大丈夫と思っておられる方も確認の意味も含めぜひご一読いただければ幸いです。同時期に、自動車運転者の労働時間などの改善のための基準についても、昨年改正された内容が適用となります。【図表4】(※3)のリーフレットは、トラック運転者向けになりますが、タクシー・ハイヤーやバス運転者向けのものも提供されていますので、これらを参考に準備を進める必要があります。

    【図表3】建設業の時間外労働に関する上限規制わかりやすい解説(厚生労働省)

    【図表3】建設業の時間外労働に関する上限規制わかりやすい解説(厚生労働省)

    【図表4】トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント(厚生労働省)

    【図表4】トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント(厚生労働省)

    運送業のテレワークの取組事例

    2024年問題への対応が迫られている運輸業のテレワークの事例をご紹介させていただきます。山崎運輸株式会社(※4)は、静岡市にある運輸や在庫管理などを行っている創造・物流企業です。乗務職員の残業時間上限が960時間までになることを前提に、これまで個別に運用していたデジタルタコグラフ、アルコールチェッカー、勤怠管理ツールをクラウドサービスで連携する等の改革を進めてきました。デジタルタコグラフはトラックの運行状態を記録する装置でかねてより搭載が義務づけられています。基本的には速度や時間、距離などが記録されるのですが、運転者の氏名、日時、運転開始及び終了時間なども乗務の記録として残さなければならないため、運転日報の作成が必要となっています。システムの導入と併せて運転日報もデジタル化したことで、安全運転の点数評価もできるようになりました。また、アルコールチェックをデジタル化することで検知結果や点呼記録が一括保存され、本社と拠点を結んだ点呼業務が遠隔で実施できるようになりました。

    運輸業は勤務時間がばらばらな上に、拘束時間の管理も必要です。2日を平均した1日当たりの運転時間や2週間を平均した1週間当たりの運転時間の管理、連続運転時間、運転の中断など、かなり複雑な勤務管理が求められます。そこで、運輸業に特化した勤務管理ツールを導入し、リアルタイムに乗務職員の勤務時間を把握することで、法令順守はもちろん残業時間の削減につながったそうです。

    このように、勤務管理システムをデジタル化し、さらにクラウド化することで、離れた場所からでも状況を把握できる、離れた場所でつながって一斉に点呼できるなど、テレワークが実現されました。

    テレワークと人材確保

    テレワークによる人材確保というと、特に新卒や若年層のテレワークのできる会社に就職したいという意向であったり、コロナウィルス感染症の5類移行に伴い原則出社とした企業からの転職が話題になったりと、人材流動に関することが中心でした。人材確保においては、テレワークの導入により出産や育児、介護などのライフイベントでの退社が無くなったという事例は事欠きません。ここからは、テレワークの活用によって、年配の熟練者継続雇用に結びついた、人生100年時代にふさわしい事例についてご紹介させていただきます。

    VIVエンジニアリング株式会社(※5)は、大阪府堺市に本社があり、岐阜県海津市と中国の山東省にも工場を持つ切削・板金・樹脂成型と多岐にわたる製造を行う会社です。海津にある岐阜支社は山奥に立地しているため、採用希望者が訪れると辞退されることもあったそうです。また、品質管理上現場仕事が必須であることに加え、測定検査には一朝一夕には習得できない専門的な技術が必要です。それに加え図面などの基礎資料が社内の書庫に保管されていたことから、出勤しなければ仕事にならない状態にありました。加えて高度なスキルを持つ品質管理の責任者が高齢であることも課題になっていました。そこで、【図表5】の通り、品質管理責任者が自宅に居ながら、現場職員のウェアラブルカメラの映像を確認し、作業工程や内容を確認できるしくみを作りました。画像では大きさが解りにくいため、画像寸法測定器を導入し、測定検査の属人化から脱却。測定データが熟練先任者の自宅PCへ転送されるため、寸法に狂いがありません。これだけにとどまらず図面などの基礎資料をデータ化してクラウドに保存することで、自宅の熟練責任者が参照することができるようになりました。これらのテレワーク品質管理システムを主な製造現場である中国工場にも応用し、日本から品質管理を行うことで品質向上はもちろん、検査の手間や不良品廃棄の削減にも役立っています。これだけに留まらず、テレワークを営業やバックオフィスにも拡大することで、子育て中の生産管理担当者や営業担当の通勤時間を削減し、働きやすい環境構築に役立てました。現在は製造業ながらテレワーク率は40%。求人サイトでテレワーク営業職を募集すると15日間で200名の応募があったそうです。長尾社長は、テレワークの課題であるコミュニケーションのためにバーチャルオフィスも導入、勤務管理もクラウド化し、セキュリティを強化するなど、様々な創意工夫を継続中です。テレワークによって、新規人材の獲得はもとより優秀な熟練工の継続雇用が実現された、これからの高齢化社会に役立つ事例であるといえます。

    【図表5】テレワークで優良人材の長期雇用を実現!

    【図表5】テレワークで優良人材の長期雇用を実現!

    人材確保について考えよう

    人材不足は、長年の中小企業の課題としてあげられてきました。中小企業のIT化が進んでいない原因としてITがわかる人材がいない、というのも現実です。筆者は中小企業診断士としてコンサルティングをすることがありますが、中小企業の経営者は経営のプロであり、コンサルティングといっても話し相手に留まっていることもあります。一方、ITに関しては年齢にもよりますが苦手な方が多く、経営や企業のコアコンピタンスを活かすこととITスキルには相関関係がないと感じているところです。既に多くのIT企業で副業や兼業が解禁されていますので、そういった人材の活用も有効です。いずれにしても、超高齢化社会、労働力人口減少を目の当たりにしている日本において、テレワークなら就業を継続できる熟練の職人さんにはできる限り長く働いていただきたいですし、年間10万人と推定されている介護離職も防ぐことができます。さらには新規で人材を採用する際の採用稼働、採用した人材が果たして自社に合う方なのかというリスクを考えると、テレワークを導入することで離職率の低下につながることは令和の時代において重要な取り組みであるといえます。

    働き方の多様化については、次回のテーマとしてお話させていただく予定ですが、基本的に「目の前で平日の朝から夕方まで座って働いてくれる人」を探す時代ではなくなりました。それだけでなく無人店舗や自動レジ、配膳ロボット、タブレット注文が身近なものになっている今、不足しているところを補うのは人材に限らないケースもあります。VIVエンジニアリング株式会社のテレワーク営業職のように、離れたところで活動してもらうことが前提の職種も増えています。第1回コラムでご紹介した海外の人材を活用している株式会社イマクリエでは、日本企業が海外在住の人材を活用していますが、その一方で、今後日本に居る人材が海外へ流出することも懸念されています。企業の課題に対しては、「人が何人居たら解決できるのか」、ではなく、何ができれば解決できるのか、それができるのはしくみなのかツールなのか人手なのか、人手だとしたらどこでも行えるのか、いつ行わなくてはならないのか、から考え始める必要があります。実際には、いつまでに行わなくてはいけないという仕事の方が多いですから、上手にスケジューリングできれば、場所や時間にとらわれない働き方を実践でき、それは、人材確保の近道でもあります。就業者としてもドイツにならって勤務時間のいくらかを職場の外で過ごしたり、幅広い働き方の選択肢を権利として行使できるようになっていくことでGDP向上にもつなげていただければと思います。

    筆者紹介

    一般社団法人日本テレワーク協会 事務局長 村田瑞枝

    村田 瑞枝(むらた みずえ)

    一般社団法人日本テレワーク協会 事務局長

    1991年日本電信電話株式会社入社。人事部人材開発室を経て、マルチメディアビジネス開発部に所属。以降、25年間WEB戦略策定及び実施サポート、システム構築、デジタルマーケティングなどインターネット関連業務に携わる。中小企業診断士。1級ファイナンシャルプランニング技能士。ファイナンシャルプランナー(CFP)、WEB解析士、ロングステイアドバイザー。2020年4月より現職。

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