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第4回 多様な働き方の活用[2024.1.18]
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コラム|日本テレワーク協会によるテレワークトレンド解説 Vol.2
第4回 多様な働き方の活用[2024.1.18]

日本テレワーク協会によるテレワークトレンド解説 Vol.2

近未来の労働力構造

東京工業大学名誉教授 比嘉邦彦先生の予測によると近未来の労働力構造は、【図表1】の通りです。簡単に申し上げると三角形の上が難しい仕事、下がスキルや専門性を有しなくてもできる仕事です。薄いグレーが正規雇用といわれる社内の人材、濃いグレーは契約や外部委託などで賄っている部分です。2023年は左の三角形ように3分の2から4分の3程度は内部の正規雇用で行っています。そして、16年後の2039年には、右の三角形のようにピンクの部分であるAI・Robotが台頭してきます。Singularity(精度がどのくらい向上するか)のタイミング次第と書かれていますが、現在のAIを使ってみると、作業内容によっては人並みというよりそれ以上の結果を出す場合も多く、処理速度は完全に人が負けているといえます。もちろん、時々明らかな間違いも見受けられますが、補助的に使ってみると、いつの間にか無くてはならない存在になっています。また、ファミリーレストランで配膳しているRobotを頻繁に見かけるようになりました。健康保険も労災保険も不要で、勤務時間の管理も残業代も要りません。先日、御徒町のファミリーレストランの厨房近くの席に座ったのですが、筆者の席には店員さんが自ら配膳して下さり、厨房から遠いところの配膳をロボットに指示(具体的にはテーブル番号をINPUT)していました。(人間だったら)遠くの席ばかり自分に押し付けて・・という文句が出ないところも見逃せません。

【図表1】東京工業大学名誉教授 比嘉邦彦先の予想

【図表1】東京工業大学名誉教授 比嘉邦彦先の予想

また、日本電信電話株式会社を訪問すると、タブレットをもったロボットが会議室に案内してくれます。タブレットを介して遠くにいる障がい者の方とお話をすることができ、打ち合わせ前のリラックスには最適です。コラム|日本テレワーク協会によるテレワークトレンド解説【第6回】広がる、働き方の選択肢[2023.4.5]の【図表6】で、得意なところをやる業務分担を示しましたが、その一例として、ロボットが先導して会議室に案内し、障がい者の方がコミュニケーションを取ってくださるというのは、まさに得意なところを活かした最適なソリューションであるといえます。

多様な働き方の事例

「テレワークトップランナー2023 総務大臣賞」を受賞した株式会社キャリア・マムの山本紀与さんは、そもそも家族の体調が優れなかったため、同社の在宅ワーカーとして仕事をしていました。株式会社キャリア・マムは、全国で11万人の登録者を抱える在宅ワーク中心の人材会社です。在宅ワークといっても、個人で請け負うものに限らず、チームを組んでマネージャーからの指示を受けながら複数人で一つの仕事に取り組む業務もあります。そのため、急に病院に呼び出されても、マネージャーを通じて、できなかった仕事の再割り振りが可能となり、気兼ねなく家族を優先することができたそうです。仕事の報酬が業務量に応じて支払われていることも、気兼ねしなくてよいポイントだったそうです。その後、ご家族の病状に左右されることが無くなったため、正社員として就業するようになしました。このようにライフステージに合わせて働き方を変えることで、仕事を継続することができ、その時の自分に大事なことに集中できる環境がより広まると、年間10万人といわれる介護離職も減少するといえます。

コラム|日本テレワーク協会によるテレワークトレンド解説【第2回】テレワークの導入事例[2022.6.22]でもご紹介した、テレワークが多くなったため小田原にUターンした渡辺将大さんは、小田原もくもく・ワーケーション会を立ち上げました。実際にこの会が主催するイベントに参加して、渡辺さんに小田原駅周辺のコワーキングや、仕事のできる宿泊先を案内していただきましたが、副業・兼業での取組とは思えない顔の広さと情報の多さに驚きました。しっかり本業に従事しながら地域のためにワーケーションを促進していく、新しい働き方の一つといえます。

先月、NTTコミュニケーションズが主催するOPEN HUBのセミナーに出させていただきました。セミナーの声掛けをいただいた松田大岳さんは、副業でテニスのコーチをされており、登壇された牛島卓さんは、三島に家族で移住されていました。新幹線通勤です。セミナーのテーマは「ハイブリッドワークで組織力向上!従業員エンゲージメントを高めるための秘訣」だったのですが、主催者側はすでにハイブリッドワークをフル活用していて、働き方改革から生き方改革へ一歩進んでいることを実感しました。

移住までいかなくても、ワーケーションやブリージャーで人生の楽しみ方の選択肢を増やしている方もいます。大手電機メーカーのご夫婦は、ワーケーションで全国をまわっています。お二人のそのモットーは「どこで仕事をしても1ミリも生産性を落とさない」だそうです。確かにワーケーションだからと言って効率を上げなければならないことはないですし、そもそも就業者一人一人が生産性について考えてくれるとしたら、経営者にとってこれほどありがたいことは無いでしょう。

幸せな働き方を探ろう

さて、【図表2】の通り一人一人の幸せな働き方を実現することによって、仕事の効率があがり、企業の業績もあがり、それが就業者に還元され、このサイクルが回転することが本当のテレワークであるというのは、従前から申し上げてきました。セミナーや研修をさせていただく際にも、ご自身の幸せな働き方を考えていただくようにしているのですが、時々「自分自身の幸せな働き方が解らない」という方も居られます。その際は【図表3】の通り、縦軸に仕事の量や労働時間、仕事の難易度、居住地の田舎度合い(=都会度合いでもOK)、テレワークの頻度、そして幸福度を感覚でよいので描いてみてください。横軸は時間です。【図表3】は筆者の例なのでずいぶん長い年月になっていますが、若い方でしたら、3か月単位、半年単位でも構いません。筆者の場合、ある一定の業務量までは幸福感に影響はないのですが、ある閾値を超えると一気に不幸になることが解ります。また、業務の充実度と記載しているのは難易度でもあるのですが、やや難しいと感じるくらいがよい、というのが解ります。

【図表2】テレワークとは

【図表2】テレワークとは

【図表3】幸せな働き方の見つけ方(例)

【図表3】幸せな働き方の見つけ方(例)

一方、ファイナンシャルプランニングの観点からは、そもそも、人はお金を稼ぐために働くわけです。どれだけ稼がないといけないのかと申しますと、人生における生きるリスクと死ぬリスクに対応するだけ稼げばよいといえます(【図表4】)。扶養家族のおられる方は死ぬリスクに備える必要がありますし、筆者は死んでも旦那が僅かな財産を引継ぐだけですので、生きるリスクの方に備える必要があります。筆者の家系は女性が長生きで、ライフプラン表(※1)を作成してみると、少なくとも65歳までは働かなければ90代で累積赤字、生きるためのお金がなくなることが解りました。みなさんにもライフイベントの転機には、ライフプラン表を作成してみられることをお勧めします。優秀な社員でも、働き過ぎて体を壊したので、派遣社員でしか働ないことに決めた方も居られれば、扶養家族の上限枠が緩和されても週3日以上は働きたくない、という方もいらっしゃいます。集中して働いてお金を貯める時期と、旅行や趣味に没頭する時期を決めて計画的に仕事をされている事例もあります。

【図表4】ファイナンシャルプランニングの側面からの働く意味

【図表4】ファイナンシャルプランニングの側面からの働く意味

テレワークをうまく活用されて業績を伸ばしておられる企業さんの取り組みとして、1on1の際に、10年後に自分はどうありたいかを確認し、そのためには今何ができないといけないか、だからどの業務に取り組むかを就業者と経営者で話し合っていると聞いています。将来的にはたとえ今の会社に居ないとしても自身の将来像の実現のための相談ができるわけです。これは、離職防止に効果的です。

これからの多様な働き方の可能性

幸せな働き方というのは人それぞれ、また、人生のライフステージによっても変わってきます。厚生労働省の審議会では、2歳未満の子どもを育てながら働く人の時短勤務による給与減額を補填する方針が議論されているようです。子が3歳までの両立支援としてテレワークを努力義務化することも含め、このような働き方の選択肢を増やすことは、単なる該当する就業者の支援に留まらないことに目を向けるべきといえます。これらは、企業の雇用に関する制約等ではなく、様々な有能な人材を活用できるチャンスだからです。

筆者の経験上も、短時間勤務の方の方がフルタイムの方よりも業務をしっかりやってもらえ、業績も上がっていた例も少なくありません。留意した点は、社内外に関わらず同席してもらう打ち合わせの時間設定において早朝や遅い時間を避けることのみといえます。なお、打ち合わせそのものも、集合型からチャットの会議室利用に変えることで、発言ログで主旨をしっかり把握できるほか、むしろ意見をいいやすく、議論が活性化したという事例も出ていますので、一堂に会する必要がるかも含めて見直すと、さらなる効率化につなげることができます。

過去を振り返って残念であったのは、一部ではあるものの短時間勤務社員を避けたいというマネージャーが存在したことです。目の前にいて、自分と同じ時間を共有してもらうことよりも、一つ一つの仕事の意味や結果を重視することで、これからの多様な働き方を十二分に活用し、成果につなげることに目を向けるべきです。

三人寄れば文殊の知恵、自分と同じではなく違った人が集まることで未来に向けたイノベーションが生まれます。多様性受容で一人一人の幸せな働き方が実現され、企業や組織、さらには社会の発展につながっていくということがいえます。

  • (※1) ライフプラン表横軸に年、縦軸に収入と支出を項目ごとに記載し、生涯における単年度収支や累積収支を確認するための表。一般的な表計算ソフトで作成されるケースが多く、適宜アップデートしていくことが肝要。

筆者紹介

一般社団法人日本テレワーク協会 事務局長 村田瑞枝

村田 瑞枝(むらた みずえ)

一般社団法人日本テレワーク協会 事務局長

1991年日本電信電話株式会社入社。人事部人材開発室を経て、マルチメディアビジネス開発部に所属。以降、25年間WEB戦略策定及び実施サポート、システム構築、デジタルマーケティングなどインターネット関連業務に携わる。中小企業診断士。1級ファイナンシャルプランニング技能士。ファイナンシャルプランナー(CFP)、WEB解析士、ロングステイアドバイザー。2020年4月より現職。

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