初級編(需給業務編)最終話 在庫過剰なのに欠品するというパラドックス ~その製品、本当に作る必要ある?~コラム
公開日:2022年7月7日
在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。
そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需要予測・需給計画の基本を分かりやすく解説します。
今回は需給業務をテーマに、直面しやすい課題と抑えておきたいポイントを見ていきましょう。
在庫過剰なのに欠品するというパラドックス
需給業務の問題点をテーマとしたコラムも、今回で最終話となりました。今回は『在庫過剰なのに欠品するというパラドックス(矛盾)』について考えてみたいと思います。
では、いつものように最終話の進行をいろはさんと工場長に手伝ってもらいましょう。
在庫偏在
いつもの生販会議。工場長はそろそろ定年退職のようですね。
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いろは「工場長は今月末で定年退職なので、生販会議はこれで最後になりますねー。お疲れさまでしたー!」
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工場長「・・・まだ終わってへんけどなー。ところでこの商品、先月多めに生産したばっかりやけど今月もいるんか?」
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いろは「あ、それなんですけど、東京支店から欠品してるから至急生産してほしいって連絡がありまして、工場の在庫もほとんどないですし、追加で計画に入れさせてもらった商品なんです・・・無理そうですか?」
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工場長「いや、資材もあるし作れるっちゃ作れるんやけど・・・まぁええか、今月はこの計画でいくわー」
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いろは「はい!よろしくお願いします!」
工場長、何か違和感があるようですね。そして数日後・・・。
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いろは「工場長!あ、あの、先日の生販会議で東京支店から連絡のあった商品、もう作っちゃいました!?」
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工場長「おー、いろはさん、どうしてん?そんな慌てて・・・ちょうどこれから作るところやけど・・・」
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いろは「はー、よかった・・・これ以上在庫増えるとまずいところでした・・・」
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工場長「ん?この前は欠品してるっていうてたやん?それが今度は在庫が多すぎるって?どういうこっちゃ?」
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いろは「えっと、この前は生販会議のぎりぎりに東京支店から連絡があって、なにも気にせず計画に追加したんですけど、実はさっき名古屋支店に同じ商品の在庫がたくさんあることが分かって・・・それなら新しく作るよりそこから転送したほうが良いかなーと・・・」
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工場長「そういえば、先月作った分は名古屋支店から要望があったヤツやったなー。思ったほど売れへんくて、在庫過剰になってたんやろなー・・・」
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いろは「そっか・・・いつもは工場にある在庫を見て生産計画を考えていますけど、実際は支店ごとにも在庫を持っていて、しかもその在庫バランスが違うので、在庫が足りない支店もあれば多い支店もあるんですね・・・でも、こんなのどうやって気づけばいいんでしょうか?」
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工場長「そうやなー・・・工場だけじゃなくて、会社全体の在庫を見たらええんちゃうか?会社全体で足りてるってことは、どこかに在庫があるってことやし・・・」
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いろは「確かにそうですね・・・でも、そのどこかって、どうやって調べればいいんでしょう?」
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工場長「うーん・・・それは工場や支店ごとの在庫日数があればいいんちゃうか?」
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いろは「なるほど!そうすればどの支店の在庫が多いか、少ないか、一発でわかりますね!あ、でも支店ごとに在庫日数を計算するには、支店ごとの販売計画も重要になってきますね!?」
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工場長「お、おう、まーそういうこっちゃ。まぁ、オレはもうおらんくなるけど、これからもがんばりやー」
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いろは「はい、早速来月の生産計画から見直してみます!今までありがとうございました!」
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工場長「・・・いや、だから、まだ今月末までおるって・・・」
解説
皆さん、どうでしたか?すこし分かりにくかったかもしれませんので、図を見ながら整理していきましょう。
今回、東京支店で欠品が発生したため、工場から補充しようとしましたが、工場の在庫も少なかったため、生産することになりましたね。しかし、実は名古屋支店にはたくさんの在庫があり、それを転送すれば生産せずに済む、というお話でした。
では、こういったケースに対し、どのように対応すればよいのでしょうか?
皆さんはご存じですよね。そうです、工場長が言っていた2つの管理です。では、詳しく見てみましょう。
① エシェロン在庫管理
1つ目は、会社全体の在庫を見て過不足を計算する方法で、エシェロン在庫管理と呼ばれています。流通在庫を含めたサプライチェーン全体での在庫管理ができるため、生産計画の立案によく用いられますが、支店ごとの管理には向きません。
② 支店別在庫管理
もう一つは支店別在庫管理で、主に補給計画の立案に用いられます。
支店ごとに適正な在庫管理をすることができますが、それぞれの支店で安全在庫を持つため、全社的に見ると在庫過剰になりやすいという欠点もあります。
以上のように、どちらの管理方法もメリット・デメリットがありますので、工場長が言っていたように、どちらか一方だけでなく2つの方法を使い分けることが大事です。
さて、発注業務編に続き、需給業務編の問題点をテーマとしたコラムも以上で終了となりました。
また面白そうなお話があれば、ぜひ皆さんと一緒に考えてみたいですね。2編を通してご愛読いただき、誠にありがとうございました。
エピローグ
工場長最後の出勤日
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いろは「工場長、今日で勤務最後ですねー・・・寂しくなりますねー・・・今まで本当にお世話になりました!」
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工場長「おー、いろはさん、こっちこそいろいろ勉強させてもらったわ。ウチの会社、若いうちにいろんな部署を経験させる風習があるから、いろはさんも部署異動あるかもしれんけど、これからも・・・」
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いろは「はい!あんじょうやらせてもらいます!」
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工場長「はっはっは!そうやな、あんじょうやりやー!」
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初級編(発注業務編)
初級編(番外編)
筆者紹介
- 大下 吾朗(おおした ごろう)
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R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。
需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
主に在庫補充量計算に関する機能設計・開発を担当。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
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