ホーム > コラム・レポート > コラム > コラム|初級編(需給業務編) 第2話 そして在庫はなくなった
~「特需」における在庫不足を考える~[2022.03.03]
  • コラム

コラム|初級編(需給業務編) 第2話 そして在庫はなくなった
~「特需」における在庫不足を考える~[2022.03.03]

需要予測・需給計画ソリューション「FOREMAST」連載コラム それゆけ!いろは(受給業務編)

在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。

そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需要予測・需給計画の基本を分かりやすく解説します。
今回は需給業務をテーマに、直面しやすい課題と抑えておきたいポイントを見ていきましょう。

そして在庫はなくなった

前回は、販売計画にはいろいろな性質をもった計画が存在するので、誰が何のために立てた販売計画なのか、しっかり考えて使用していくことが重要であるということをお話しました。『ストライクを狙っていない』という工場長の言葉に、共感された方も少なからずいたのではないでしょうか。

今回は、しっかり販売計画を立てたにもかかわらず、それでも急になくなる在庫について考えてみたいと思います。
それでは、お話の進行をいろはさんと工場長にお願いしましょう。

その在庫、誰の在庫?

新設されたSCM部門も、試行錯誤しながら業務も定着化してきているようです。いろはさん、今日はSCM部門と生産部門で月初に行われる生販会議に出席しているようですね。

工場長といろは

いろは

「・・・というわけで、過去の販売実績から予測した数量をベースに、営業の見込みを考慮しながら、来月の販売計画は資料の通りになると考えています。したがって、いまの在庫を考えると各商品の生産はそれぞれこれくらいでお願いしたいと思っていますが、どうでしょうか?」

工場長

「・・・」

いろは

「(返事ないなー)・・・工場長、なにか気になるところ、ありますか?」

工場長

「・・・いや、販売計画は過去の実績をもとに決めてるからええと思うねんけどな・・・。この時期ノベルティとかの採用って突発ではいるやん?例えばこの商品とか、ほんまにこんだけの生産でええんか?」

いろは

「えっと、ノベルティも営業に確認して、その分は販売計画に反映しているので大丈夫だと考えていますが・・・」

工場長

「・・・ふーん、そういうならこの計画でいくしかないなー」

いろは

「(やったー!)はい、よろしくお願いします!」

工場長は一旦納得したようですが、釈然としていない様子です。そして半月後・・・。

いろは

「工場長!スミマセン!ちょっとご相談が・・・」

工場長

「なんや・・・その慌て方からして、緊急の生産依頼とかか?」

いろは

「え!?なんでわかったんですか?」

工場長

「まーなー、この時期はそーゆーの多いしなー、この前の生販会議で、今月もくるかもなーと思っててん」

いろは

「えー?だって、ちゃんと営業情報も聞いて確認したのに・・・不安に思うことはなかったと思うんですけど・・・なんでそう思ったんですか?」

工場長

「これも経験やけどな、この時期ノベルティ多いって話はしたやろ?仮にやで?『どの商品でもいいからノベルティで使える商品が欲しい』って注文きたら、営業はどうすると思う?」

いろは

「えっと・・・売れないと機会損失になるし・・・なんでも良いのなら、在庫がある商品を探して『この商品なら在庫あるので、どうですか?』って提案すると思います」

工場長

「まー、そうやろなー。けどな、その営業が見た在庫って、誰のための在庫やと思う?」

いろは

「!・・・それは、過去の販売実績をもとに考えた、ノベルティの採用を含まない計画に対する在庫です・・・」

工場長

「そやろ?それが急になくなったら、当然、緊急生産するしかなくなるわなー」

いろは

「・・・原因はわかりましたけど、こんなの、どうすれば防げるんですか?営業だって、在庫があったら断りませんよね?」

工場長

「完全には防げんやろうけど、マシにはできるんちゃうか?今回は在庫がなくなってから気づいたんやろうけど、営業が注文受けた段階で相談してもらってたら、もうすこし余裕をもって計画変更とかで対応できたんちゃうか?」

いろは

「そっかー、そうですね・・・まだ入社したばかりで顔も覚えてもらってないかもしれないし、営業さんにも早く顔を覚えてもらって、ちょっとしたことでも連絡もらえるような関係を築くことが大事なんですね・・・」

工場長

「お、おぅ・・・そういうことやな・・・ま、次はあんじょう頼むわ、いろはさん」

いろは

「はい!頑張ります!」

解説

皆さん、どうでしたか?皆さんなら、まったく計画外の需要、つまり『特需』には、どう対応すべきだと思いますか?
今回のケースをもとに、どういったことが改善できそうか、考えてみましょう。

  • ① 営業情報の共有 需要に一番敏感なのは、やはり営業になりますよね。工場長の言う通り、在庫がなくなる前に相談してもらっていたら、緊急生産ではなく計画変更で済んでいたかもしれません。
    いろはさんは気づいたようですが、円滑なコミュニケーションが取れるルールや関係性の構築が重要だと言えます。
    また、在庫がないと売れないので、販売計画が増えそうな情報は連携されやすいですが、大口顧客との取引がなくなるなど、販売計画が減りそうな情報は連携されにくいという性質があります。その場合、無駄な生産をして過剰な在庫を抱えてしまった、という事態になりかねませんので、販売計画が増える要因だけでなく、減る要因もしっかり共有するルール作りが必要ですね。
  • ② 販売計画に対する責任の所在 いろはさんの会社では、SCM部門が販売計画を考えているので、その責任の所在はSCM部門にあると言えますが、はたしてそれが正しいのでしょうか?
    前述した通り、営業にしかわかり得ない特需もありますので、販売計画の責任は営業部門も担うべきなのかもしれません。責任の所在が明確になると、計画の精度が上がるので、しっかり決めておくことが重要だと言えます。
  • ③会議体の重要性 まだ運用が始まったばかりのようですが、月初の生販会議にはSCM部門と生産部門が参加しているようです。それぞれの部門間で計画に対し合意をとることは、責任の所在を明確にするためにも、とても重要だと言えます。
    では、生販会議の参加者を見るとどうでしょう?もうお気づきだと思いますが、いろはさんの会社では営業部門が参加してませんでしたね。
    今回のような特需は営業もわからなかったかもしれませんが、仮に参加していれば『もしかしたら、〇〇の受注がくるかも・・・』といったような情報だけでも伝わっていたかもしれません。営業部門も販売計画の責任を担うのであれば、参加してもらったほうが良いですね。

まったく計画外の需要による在庫不足をどう防ぐか。工場長の言う通り完全に防ぐことは難しいですが、緩和することはできるはずです(安全在庫を無限に持つ、生産リードタイムをゼロにする、なども考えられますが、どれも現実的ではありません)。少しでも早く、突発的な需要の変化に対応できる仕組みを構築しておくことが大事ですね。

次回の第3話では、『生産性と適正在庫』についてお話したいと思います。

  • 印刷用PDFは下記よりダウンロードいただけます。

【需給初心者向けコラム】の記事一覧

初級編(需給業務編)

初級編(発注業務編)

初級編(番外編)

筆者紹介

大下 吾朗(おおした ごろう)

R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト

米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。
需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
主に在庫補充量計算に関する機能設計・開発を担当。

関連書籍など

在庫管理のための需要予測入門

FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。

在庫管理のための需要予測入門

キヤノンシステムソリューションズ株式会社数理技術部[編]
淺田 克暢+岩崎 哲也+青山 行宏[著]
■出版社:東洋経済新報社
■発売日:2004年12月22日
■ISBN:4492531874
■価格(税込):1,980円

関連するソリューション・製品

ホーム > コラム・レポート > コラム > コラム|初級編(需給業務編) 第2話 そして在庫はなくなった
~「特需」における在庫不足を考える~[2022.03.03]