初級編(調達業務編) 最終話 選定の覚悟~「買い物の設計」ソーシングとは?~コラム
選定の覚悟
皆さんこんにちは。キヤノンITソリューションズの大下です。前回は企業の調達プロセスのパーチェシングを取り上げ、「必要な物を切らさない」難しさを見てきました。
最終話となる今回は、上流の戦略活動であるソーシングを題材に進めていきます。
合理の矛、調和の盾
―SCM部門時代の経験を活かし、分納の影響を即座に判断して生産に間に合う調達をやり遂げたいろはさん。主任から評価も受けましたが、まだあの「50点」の残りにたどり着けていないことが心に引っかかっています。そんないろはさんに次のミッションが―

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主任「来年度発売の新商品がきまった。今回の新商品は、これまでの商品とは全く違うコンセプトで、新たな年齢層をターゲットにしているらしい。使用される原材料も、これまで扱ったことがないモノが含まれている。仕様は大体できているから、あとはサプライヤーの選定と価格交渉だが…どう?いろはさん、やってみない?」
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いろは「えっ?!わたしですか?でも、まだこの前の残りの半分、よくわかっていませんが…」
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主任「だったらなおさらどう?リベンジマッチってことで。まー今回は新商品だし、私もちゃんと確認するからやってみてよ」
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いろは「…は、はいっ!わかりました!」
―まるで心の中を見透かされたように感じたいろはさんでしたが、「残りの答え」を知りたい気持ちが背中を押しました。さっそく既存の取引先の中から、新商品に必要な原材料を扱うサプライヤーを調べ始めます。そして数日後―
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いろは「ふー、やっと必要な原材料を取り扱っているサプライヤーを見つけることができたけど、さてここからどう選定しよう?前回はコストより管理のしやすさを優先して失敗したから、やっぱりコストは重要ってことよね?でも、そもそも品質も大事よね?よっし…ここは一回QCDの視点で評価してみるか!」
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いろは「過去の取引実績を見る限り、大体こんな感じかなー…コストでみると安井ケミカルと早瀬樹脂なんだけど、早瀬樹脂は品質がちょっと劣るし…となるとやっぱり安井ケミカルが正解?でもコストを優先することだけが主任が求めている答えなんだろうか?なんか違うと思うんだよなー…うーん」
―サプライヤー候補は見つかったものの、最終選定に悩むいろはさん。主任の期待に応えられているのか不安を抱えたまま、いよいよ選定結果を報告する日が―
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主任「どう?いろはさん。サプライヤーは決まった?」
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いろは「…はい、安井ケミカルにしようと思います」
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主任「へー…ほかにも何社か候補はあったでしょ?理由は?」
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いろは「はい(QCDの一覧を見せながら)おっしゃる通り3社が候補に挙がりましたが、過去の取引実績からQCDで評価し安井ケミカルが一番良いと判断しました」
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主任「ふーん…まぁ、いいんじゃない?じゃー、安井ケミカルに決定ってことでいいかな?」
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いろは「(やっぱり…)あの、実はもう1社、良永化学にも頼もうと思ってます」
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主任「ん?つまり安井ケミカルと良永化学の2社に頼むってこと?それはなぜ?」
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いろは「確かに安井ケミカルはコスト評価が高いですが、納期評価で良永化学に負けています。つまり安くても、安定した生産を行うには不安があります。そこで、安井ケミカルと良永化学から調達することで、生産が止まるリスクが減らせるかと考えました。」
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主任「うん、確かにそうだけど、良永化学から調達する分、コストは高くなるでしょ?」
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いろは「はい、ただしそれは関西の本社工場で調達する場合です。今回の原材料は新商品向けなので長期契約になり、輸送費は元払いを想定しています。ただ、良永化学は関東の会社なので、関東工場への輸送コストは下げてもらえるよう交渉しようと思っています。コストが同程度なら2社調達が可能で、安井ケミカルに納期トラブルがあっても関東工場で生産できます。主任のおっしゃっていた『プロフィットセンター』の意味は、単に安いところから調達するってだけじゃなくて、品質の良いモノを安定して調達・生産して販売し、企業価値を高めることも含まれるんじゃないかって考えました」
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主任「へー、そこまでちゃんと考えていたのか、噂通りやるねー。満点…ってわけじゃないけど、予想以上の回答だよ。早速そのプランで進めようか」
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いろは「(やったー!)はい!では早速交渉に入りますね!」
解説
いかがでしたか?皆さんなら、どのサプライヤーを選びますか?いろはさんはQCDで評価しましたが、実務では次のような観点もよく使われます。

いろはさんは明確に言語化できていませんでしたが、過去の取引実績から安井ケミカルの納期に不安を感じたのは、まさに「信頼性・実績」や「リスク管理」の観点が働いていたと言えます。近年は、環境負荷低減や人権尊重を通じて企業の社会的責任を果たすサステナビリティ調達や、大規模災害・地政学リスクを踏まえた分散調達が重視され、「安い・早い・品質」のQCDだけでなく、リスクと持続性を含めた総合評価が求められています。評価軸は固定ではなく、自社の方針や環境変化に合わせて定期的に見直すことが重要ですね。
さて、「発注業務編」「需給業務編」に続く「調達業務編」はこれでひと区切りです。SCMにはまだ多くのテーマがありますので、また機会があれば皆さんと一緒に考えていければと思います。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
エピローグ
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いろは「そういえば、私ってそんなに社内で噂されているんですか?」
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主任「社内で?いや、聞いたことないけど?」
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いろは「え?だって『噂通り』って…」
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主任「ああ、あれはうちの親父からね…もう定年で退職したけど、もともと工場長をやってたんだよ…知ってるでしょ?」
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いろは「アァ…ナルホド…ソウイウコトデスカ(…眉毛、ですか…)」
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筆者紹介
執筆:大下 吾朗(おおした ごろう)
キヤノンITソリューションズ株式会社 ビジネスイノベーション推進センター ビジネスサイエンス部所属
2003年に関西大学大学院 総合情報学研究科 知識情報学専攻を修了後、同社へ入社
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(PMP)資格保有
R&D本部 数理技術部にて需要予測・需給計画ソリューション FOREMASTの開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
2024年に現所属部門へ異動し、現在はデータサイエンス領域のコンサルティングを担当。
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事例で解決!SCMを成功に導く需給マネジメント
キヤノンITソリューションズ株式会社数理技術部[編]
五島 悠輝、多ヶ谷 有、永井 杏奈、八鳥 真弥 他、計14名[著]
- 出版社:日刊工業新聞社
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