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初級編(調達業務編) 第1話 NOと言う部門~企業における調達プロセスの役割とは?~コラム

公開日:2025年12月18日

在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。

そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需要予測・需給計画の基本を分かりやすく解説します。
​今回は調達業務における需給の課題や押さえておきたいポイントについて見ていきましょう。

NOと言う部門

皆さんこんにちは。キヤノンITソリューションズの大下です。前回は『需給業務編』で、需要と供給のバランスから「いつ・何を・どれだけ在庫すべきか」を考える難しさを取り上げました。

今回は『調達業務編』。企業活動に必要なモノやサービスを、最適条件で外部から手配する難しさを、全3話で一緒に考えます。まだ需給業務編をご覧になっていない方は、そちらからお読みいただくと、より理解が深まります。

第1話では、企業における調達プロセスの役割と重要性について考えてみたいと思います。

異動は突然に

―入社5年。SCM部門で経験を積み、後輩の仁保くんにも頼られる存在になったいろはさん。自信がつき、仕事にも余裕が出てきた頃、突然の異動辞令が届きます。新天地は社内で「NOと言う部門」と揶揄される調達部門。予算やサプライヤー規程の制約を告げる場面が多く、「何でも断る部門」と誤解されがちな部門です。とはいえ、需給や生産計画を担当してきた自信があるいろはさんは「調達もなんとかなるっしょ!」と前向きに新しい配属先へ向かいます。

いろはと主任
  • いろは
    「初めまして!今日から配属されました、いろはです!以前はSCM部門で生産計画を担当していました。調達業務は分からないことばかりですけど、よろしくお願いいたします!」
  • 主任
    「おー、キミがいろはさんかー。SCM部門じゃ需要予測を使いこなして、優秀だって聞いているよ。これまでの業務と違うから戸惑うと思うけど、ここでも活躍できるように頑張ってね」
  • いろは
    「(え?優秀?そんなに噂になっているの?照れるなー)はい!頑張ります!さっそくですが、私は何をすればいいですか?」
  • 主任
    「お?やる気満々だねー。そうだな、ちょうどうちの会社の設立25周年記念として、従業員向けに既存商品と違ったデザインの万年筆を作ろうって話が決まったから、それに使う資材調達を担当してもらおうかなー。既存商品の原材料はすでに発注済みだから、今回の分だけ追加で発注しておいて。うちの従業員数は200名くらいだから、少し余裕見て調達しておけば大丈夫だろう。だからー・・・」
  • いろは
    「はい、わかりました!万年筆200本に余裕5%を見たとして、計210本分を原材料に展開して追加発注すればよろしいですね?!」
  • 主任
    「・・・うん、そうだね。部品表もできているはずだから、それですすめてみて」
  • いろは
    「はい!(かんたん、かんたん!よーし、がんばるぞー!)」

―主任から「優秀だって聞いている」と言われちょっといい気になっているいろはさん。早速、原材料の発注を進めるのでした。

  • いろは
    「生産数も決まっている。あとはそれをもとに原材料の必要数に展開して発注するだけ。このサプライヤーで原材料はほとんど揃うなー・・・ん?ペン先だけ別サプライヤーだけど、同じサプライヤーでも取り扱いがあるから一本化したほうが管理も楽か・・・まー調達できればどこでもいいよね?よし、全部まとめて発注!楽勝!」

―いろはさんは同じサプライヤーから調達したほうが何かと便利だろうと思い、すべての原材料を同じサプライヤーへ発注したようですね。その数日後、主任から呼び出されたいろはさん。

  • 主任
    「記念万年筆の原材料の発注、全部同じサプライヤーに出したんだね。理由は?」
  • いろは
    「あ、それですか?入荷管理が楽で効率的だと思いまして。必要な原材料はすべて取り扱いがありましたので」
  • 主任
    「確かにそうだけど、うちの万年筆は普及モデルが多くて、ペン先の原材料はステンレスがほとんどでしょ?今回君はチタンで発注している。高くなるけど、その比較はした?」
  • いろは
    「たしかにステンレスのほうが安価ですが、一割ほどでしたのでそれほど大差ないかと。部品表にも『どちらでも可』とありましたし、調達部門としては生産を止めないようにしっかり発注残を管理することのほうが重要だと思いまして・・・」
  • 主任
    「・・・優秀だって聞いていたけど、まー初めはこんなものか・・・」
  • いろは
    「え?・・・なにかまずかったでしょうか?」
  • 主任
    「いろはさんが考えている調達部門の役割は多めに見ても50点くらいだっていうこと。確かに生産を止めないために原材料を確実に調達することは大事だけど、他にも大事なことがあるんだよ」
  • いろは
    「・・・50点、半分ですか・・・何が足りていないのでしょう?」
  • 主任
    「いろはさんはこの部門は管理業務主体の部門だと思っているでしょ?でも私は利益創出部門、つまりプロフィットセンターだと思ってるってことかな」
  • いろは
    「プロフィットセンター・・・ですか(なんかカッコいい!)それはつまりどういう・・・」
  • 主任
    「ここまでヒントをあげたんだから、あとは自分で考えてみようか。まー、ペン先をチタンにしたのは記念品ということで上には話しておくから」
  • いろは
    「はい・・・考えてみます・・・」

解説

皆さん、調達業務編第1話『NOという部門』はどうでしたか?異動で役割が変わり戸惑う経験、覚えがある方も多いでしょう。かく言う私も以前とは違う部門で、このコラムを書いていますからね(笑)。

さて、みなさんは調達部門の役割は何だと思いますか。発注・受入・支払いを粛々と回す管理部門、と思っていませんか。調達部門の役割は時代とともに拡張し、現代においては大きく次の2つの機能があると言われています。​

1つ目はパーチェシング。企業が必要とする原材料やサービスを外部から購入する実務です。いろはさんのイメージは主にここ。
2つ目はソーシング。何を、誰から、どのように調達するかを設計する上流の戦略活動です。サプライヤー選定、契約、コスト構造やリスクの設計などが含まれます。

図1:調達の2本柱
パーチェシング:品質・価格・時期・量を決定し、外部からモノやサービスを購入・管理 ソーシング:仕様・コスト・納期を適正に作りこみサプライヤーと契約

では、主任の言う「プロフィットセンター」とはどういうことか、例で考えましょう。
販売価格2,200円、原価2,000円の万年筆は、利益が1本あたり200円。利益を2倍にする最も単純な発想は「2倍売る」。しかし、原価を10%下げて1,800円にできれば、利益は2,200-1,800=400円で同じく2倍。売上拡大だけでなく、調達で原価・条件・リスクを設計することでも利益を直接押し上げられる。これが調達が利益創出に関与すると言われる所以です。

図2:利益を2倍にする方法
現状:利益200、原価2,000 利益を二倍にしたい 2倍売る:利益400、原価4,000 利益は同じ 安く仕入れる:利益400、原価1,800

仕入れに関する名言はいくつかありますが、特に表1の2つは示唆に富みます。どちらも現代版ソーシングに通じるものがありますね。
​調達は「必要物を切らさない」ためのパーチェシングに加え、「どこから・どう買うか」を設計するソーシングという二本柱で成り立っていることがわかりました。前者は製造貢献が目に見えやすいため優先されがちですが、後者こそ利益・品質・納期・リスク・サステナビリティを左右する戦略領域です。いろはさんの誤解も、ここに原因があったようですね。

表1:仕入れに関する名言
利は仕入れにあり:江戸時代の商人(越後屋、船場商人):商売の利益は仕入れの質にかかっている 利は元にあり:松下幸之助(パナソニック株式会社の創業者):適正な仕入れと信頼関係が利益を生む

次回の第2話では、まずパーチェシングである『サプライチェーンにおける調達』にフォーカスしてお話したいと思います。

  • 印刷用PDFは下記よりダウンロードいただけます。

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筆者紹介

大下 吾朗

大下 吾朗(おおした ごろう)

キヤノンITソリューションズ株式会社 ビジネスイノベーション推進センター ビジネスサイエンス部所属
​2003年に関西大学大学院 総合情報学研究科 知識情報学専攻を修了後、同社へ入社
​米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(PMP)資格保有

R&D本部 数理技術部にて需要予測・需給計画ソリューション FOREMASTの開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
2024年に現所属部門へ異動し、現在はデータサイエンス領域のコンサルティングを担当。

関連書籍など

在庫管理のための需要予測入門

FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
​どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。

在庫管理のための需要予測入門
キヤノンシステムソリューションズ株式会社数理技術部[編]
淺田 克暢+岩崎 哲也+青山 行宏[著]

  • 出版社:東洋経済新報社
  • 発売日:2004年12月22日
  • ISBN:4492531874
  • 価格(税込):1,980円

事例で解決!SCMを成功に導く需給マネジメント

FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需給マネジメントの仕組みに関する実務視点の解説書です。
​サプライチェーンにおける需給バランスの維持/適正化にお悩みの方のために、需給コンサルティングのエキスパートが、事例をベースにケースに適した需給マネジメントの仕組みを解説しています。

事例で解決!SCMを成功に導く需給マネジメント
キヤノンITソリューションズ株式会社数理技術部[編]
五島 悠輝、多ヶ谷 有、永井 杏奈、八鳥 真弥 他、計14名[著]

  • 出版社:日刊工業新聞社
  • 発売日:2024年12月26日
  • ISBN:9784526083617
  • 価格(税込):3,080円

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