- コラム
コラム|初級編(需給業務編) 第3話 安くて美味しい料理を探せ
~適正在庫と生産効率を両立させるポイントとは~[2022.04.07]
在庫削減や適正化など、多くの企業にとって重要な経営課題である需要予測・需給計画。
需給計画においては、コツやポイントを知らないままでいると、余計な作業負担や在庫過多といった問題に直面してしまいます。
そこで本コラムでは、はじめて需給担当者になった方やこれから需給について学びたい方向けに、需要予測・需給計画の基本を分かりやすく解説します。
今回は需給業務をテーマに、直面しやすい課題と抑えておきたいポイントを見ていきましょう。
安くて美味しい料理を探せ
前回は、しっかり販売計画を立てたにもかかわらず、それでも急になくなる在庫について考えてみました。
今回は、効率よく生産しようとするほど、意図せず増えていく在庫について考えてみたいと思います。ではいつも通り、いろはさんと工場長にお話の進行をお願いしましょう。
生産性と適正在庫
月初に行われる生販会議の日。SCM部門と生産部門に加え、今月から営業部門も参加することになったようです。
いろは
「・・・というわけで、営業部門の情報を考慮したうえで、来月の販売計画は資料の通りなると考えています。それと、今月から各商品の販売ボリュームに応じた在庫過不足を表す指標として、在庫日数を加えてみました。在庫日数が少ない商品は欠品しないように優先して作らないといけないので、これらの状況を考えると今月生産する商品はこの通りお願いしたいと考えています。・・・工場長、どうでしょうか?」
工場長
「へー・・・在庫日数ねー・・・今まではこういうのなくて、単純に在庫量で多い少ないって議論してたけど、これやったら商品ごとの販売ボリュームに応じた在庫バランスがわかるようになるし、いいんちゃう?」
いろは
「(やったー!)ありがとうございます!」
工場長
「ただ、これまで通り生産する量は、工場の都合でちょっと変更させてもらうけど、ええかなー?」
いろは
「はい!よろしくお願いします!」
いろはさん、工場長に褒められて上機嫌になり、『工場の都合による計画の変更』についてあまり気に留めていないようです。そして数週間後・・・。
いろは
「工場長!スミマセン!ちょっと確認したいことがありまして・・・この商品なんですが、前回の生販会議で提示した数量より多く生産されていますよね?どういうことでしょうか?」
工場長
「なんや、そんなに慌てて・・・あぁそれか、その商品は設備の切り替えが面倒やから、生産するならするでそんだけまとめて作ったほうが効率がええねん。いつも作るときはそうしてるけど、なんかまずかったんか?」
いろは
「えっと、この前話した在庫日数ですけど、毎週見直すようにしてまして・・・ほら、これ見てください!いきなりこの商品の在庫日数が飛びぬけて多くなったからつい慌てちゃって・・・」
工場長
「なにっ?おー、ホンマやなー・・・これはちょっと多すぎるなー・・・今まで気にしてなかったけど、次から何とかせんとアカンなー・・・」
いろは
「えっ?でも、何とかするって、どうするんですか?生産効率が落ちるんじゃないんですか?」
工場長
「そやなー・・・安くて美味しい料理、探せばええんちゃう?」
いろは
「え?おなか減ったんですか?お昼はまだまだですよ?」
工場長
「ちゃうわ!たとえ話や!・・・つまりな、この商品の生産計画を料理として考えてみるとやな、もともとの計画は在庫バランスが良くて『美味しい』かもしれんけど、値段が高いやろ?一方で、いつも通り作ると効率が良くて『安く』作れるけど、美味しくないねん。せやから、『安く』て『美味しい』料理、つまり、どちらもある程度両立した生産計画にしたらええんちゃうか?」
いろは
「なるほどー・・・でも、そんな生産計画、可能なんですか?」
工場長
「そやなー、いままで何となくはわかってたけど、いろはさんにこれだけハッキリ在庫日数見せられたら、やるしかないなー・・・ま、次からあんじょうやるわー」
いろは
「はい!よろしくお願いします!」
解説
皆さん、どうでしたか?今回のタイトルを見て『え?何の話?』って思われたかもしれませんが、工場長の説明でわかってもらえたかと思います(笑)。
すでにおわかりかと思いますが、一番『安く』て一番『美味しい』料理って、ないですよね。あらためて、今回のポイントについて詳しくみていきましょう。
工場長の説明を、右図に示しています。いろはさんが考えたAの計画は、在庫バランスが一番良くて美味しい計画でしたが、値段が高かったですね。一方、工場長が考えた計画は生産効率が良くて安いけど、あまり美味しい計画ではありませんでした。理想はXの計画ですが、前述した通り現実的ではありません。そこで、工場長が考えたのがCの安くて美味しい計画という訳です。
では、どのようにCを求めていけばよいのでしょうか?図にもある通り、実際は複数の中から条件を満たすものを見つけていく必要があります。今回のお話と少し変わりますが、過去のプロジェクトで似たような事例がありましたので、紹介したいと思います。
そのプロジェクトでは、印刷物の最適な発注部数を提案する機能が求められていました。印刷物のような商材は、大量発注によるコスト削減効果が高い一方で、大量に発注しすぎると在庫保管費用が増加してしまうため、実際どれだけ発注するのが最適なのかを考える必要があります。そこで考えたのが、経済的発注量を求める方法です。
経済的発注量は、右図に示す通り、発注一回にかかる発注費用(発注一回当たりの数量が少ないと回数が増加するため発注量に反比例)と、在庫維持費用(発注量に比例)の合算値が最小になる点によって決めることができます。前述のプロジェクトでは、この方法を利用して最適な発注部数を計算することができました。
また、今回のお話の中では触れていませんが、実際の生産計画を立てる上で考慮すべき点は、他にも様々なものがあります(染色の濃淡などで生産順が制約される等)。在庫バランスを考えた適正化はもちろん重要ですが、生産効率や制約条件とうまく両立しながら計画することが重要ですね。
次回の第4話では、『生産計画の立案期間』についてお話したいと思います。
- ※ 印刷用PDFは下記よりダウンロードいただけます。
【需給初心者向けコラム】の記事一覧
初級編(需給業務編)
- コラム|初級編(需給業務編) 第1話 販売計画は当たらない
~様々な立場から販売計画を考える~[2022.02.03] - コラム|初級編(需給業務編) 第2話 そして在庫はなくなった
~「特需」における在庫不足を考える~[2022.03.03] - コラム|初級編(需給業務編) 第3話 安くて美味しい料理を探せ
~適正在庫と生産効率を両立させるポイントとは~[2022.04.07] - コラム|初級編(需給業務編) 第4話 計画を超えて
~生産計画立案時の落とし穴~[2022.05.12] - コラム|初級編(需給業務編) 第5話 鬼は笑わない
~"生産能力"を考慮して対応力を上げよう~[2022.06.02] - コラム|初級編(需給業務編)最終話 在庫過剰なのに欠品するというパラドックス
~その製品、本当に作る必要ある?~[2022.07.07]
初級編(発注業務編)
初級編(番外編)
筆者紹介
大下 吾朗(おおした ごろう)
R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。
需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
主に在庫補充量計算に関する機能設計・開発を担当。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
在庫管理のための需要予測入門
キヤノンシステムソリューションズ株式会社数理技術部[編] 淺田 克暢+岩崎 哲也+青山 行宏[著] ■出版社:東洋経済新報社 ■発売日:2004年12月22日 ■ISBN:4492531874 ■価格(税込):1,980円
関連するソリューション・製品
- FOREMAST 大量の在庫を抱えているのに欠品や納期遅れが発生していませんか?「キャッシュフロー経営」が叫ばれる中、多くの企業で在庫削減が重要な経営課題となってきています。しかし一方で、お客さまからの即納・短納期要求は益々強くなってきており、欠品の発生が企業経営に大きな影響を与えるケースも増えてきました。FOREMASTは、科学的な需要予測に基づく在庫補充計画と、需給計画・実績情報の共有支援、問題の見える化により、欠品なき在庫削減の実現を支援します。