製・販 調整会議「会議は踊る!!」~本社会議室に集まった、正しすぎる人たち~SCM計画系コラム「SCPナレッジの杜」
公開日:2026年10月23日
営業、生産、調達、物流がそれぞれの正しさを持ち寄る製販調整会議。2,000台の追加要望をきっかけに、PSIのズレや見えない制約が次々と顔を出す。本稿では、数字が踊る理由をひも解き、会議を「お願いと反論の舞踏会」から「根拠ある作戦会議」へ変えるヒントを探ります。
これは、月次「製販調整会議」でのワンシーン・・・
本社ビル18階、I-4会議室。
窓の外では街が整然と動いている。だが、会議室の中では、PSIが小刻みに震えていた。
本日は、月次の製販調整会議。
販売計画、生産計画、調達計画、物流計画を突き合わせ、需給バランスを確認し、在庫水準と納期回答を整える重要な場である。
(少なくとも、資料にはそう書いてある...)
しかし実態は、営業部、生産部、調達部、物流部が、それぞれ別の現実を持ち寄る異種格闘技戦に近い。
最初に立ち上がったのは営業部だった。
「A社向けに今月あと2,000台、追加でお願いします。ここを取れれば予算達成です。得意先も相当お困りです」
営業部長の背後には、“達成率 98%”という数字が亡霊のように立っている。
わずか2%。されど2%。その2,000台は、単なる数量ではない。
顧客満足、来期商談、営業評価、そして月末の安眠である。
2,000台の追加は、工場では2,000台では済まない
生産部長は、静かに目を閉じた。祈っているのではない。
心の中でライン能力、段取り替え、負荷山積み、歩留まり、検査能力、要員シフトを、スパコン並みに高速シミュレーションしているのだ。
「2,000台を前倒しする場合、MPSを組み替える必要があります。対象品目は共通設備を使っていますし、ボトルネック工程のキャパシティが限界です。ロットサイズ、段取り時間、仕掛在庫、品質確認も見直しになります」
営業部が言う。
「そこを何とか!少しだけ・・・」
その「少しだけ」が、現場では民族大移動になる。
一つの生産計画を動かすと、別品目の納期がずれ、工程負荷が変わり、在庫推移が変わり、残業計画まで起き上がる。
まるで寝ていた制約条件たちが、一斉に会議室へなだれ込んでくるようだ。
生産部は断りたいわけではない。
作りたい。だが、作れる計画でなければ工場は回らない。
実行不可能な計画は、現場に届いた瞬間、ただの願望になる。
部材は概念ではなく、倉庫にあるかないかである
そこへ調達部が、控えめに手を挙げた。
「主要部材Xですが、サプライヤー三社に納期確認中です。
一社は回答待ち、一社はMOQ(最小発注ロット)の条件変更あり、
もう一社は“努力します”という非常にポエムな返答です」
調達部の資料には、BOM、発注残、リードタイム、代替部材、為替影響、価格改定、サプライヤー別供給能力がびっしり並んでいる。文字密度が高すぎて、もはや帳票というより地層である。
昨今の調達難では、MRPが必要数をはじいても、サプライヤーがその通りに納めてくれるとは限らない。安全在庫を積みたくても、キャッシュフローと倉庫容量が眉をひそめる。代替調達を検討すれば、品質保証と認定リードタイムが玄関先で靴を脱ぎ始める。
営業部が尋ねる。
「何とか早まりませんか」
調達部は、少し遠くを見た。
「早めたい気持ちはあります。ただ、部材は気持ちでは入荷しません。発注書の『至急』は、とうの昔に定型文になりました」
……………会議室のPSIが、また一段震えた
物流センターは瞬間移動装置ではない
物流部が、ついに口を開いた。
「仮に作れたとして、物流計画はどうしますか。月末は出荷波動がピークです。工場から物流センターへの幹線輸送便、受入バース、庫内作業、配送リードタイム、すべて確認が必要です」
営業部が小さく言う。
「完成したら、あとは届けるだけでは……」
物流部の担当者は、穏やかに微笑んだ。
その微笑みは、遠のきかけた自分の意識を、どうにか連れ戻したようにも見えた。
「その“だけ”の中に、車両手配、積載効率、配車制約、倉庫キャパ、荷役人員、着荷時間指定、納品先ルールが入っています」
工場の出口は、納品先の入口ではない。
工場で完成し、梱包され、積まれ、運ばれ、受け入れられ、仕分けられ、届けられる。
物流は最後の後始末ではない。納期遵守を実現する、もう一つの制約条件である。
……………PSI表の上で、数字たちが社交ダンスを始める
会議テーブルには、部門ごとの最新資料が並んだ。
…営業の販売見込みでは、需要はある
…生産の負荷計画では、余力はない
…調達計画では、部材は足りない
…物流計画では、輸送枠は埋まりかけている
…在庫表は、一部の数量が「理論上はあるが、使えるとは言っていない」という顔をしている
生産、販売、在庫。
PSIは本来、ひとつながりの情報である。
しかし、更新タイミングが違い、粒度が違い、部門ごとのKPIが違うと、同じ数字が別々の人格を持ち始める。
…営業は売上最大化を見ている
…生産は稼働率と納期遵守を見ている
…調達は欠品リスクと購買条件を見ている
…物流は出荷平準化と配送制約を見ている
誰も間違っていない。
だから、会議は厄介なのだ。
もし悪者がいれば簡単だった。
だが本社会議室にいるのは、全員まじめで、全員必死で、全員が会社をよくしようとしている人たちである。
全体最適という名の、なかなか来ない“伝説の英雄”
会議は踊る、されど進まず。
2,000台を今月に入れる案。1,000台だけ前倒しする案。A社向けを分納する案。他の得意先向けの出荷を後ろへずらす案。代替部材を使う案。臨時便を仕立てる案。安全在庫を取り崩す案。
だが、そのたびに別の制約が顔を出す。
「それだと来月の在庫が割れます」
「その部材は認定が間に合いません」
「その週は検査工程が詰まります」
「物流センターの受入枠がありません」
「その段取り替えで、B製品の納期が飛びます」
英雄は、まだ来ない。
……………代わりに、部分最適たちが名刺交換を始めている
・・・
2時間後、結論はようやくまとまった。
2,000でも、1,000でもなく、800。
ボトルネック工程の空き枠、主要部材Xの確実な入荷分、物流センターの受入枠
……踊っていた数字を一つずつ床に押さえつけ、“確実に約束できる量”を逆算した結果が、
この半端な数字だった…。
…今月納品は800台まで
…残りはA社と分納調整
…生産部は、制約を踏まえた代替生産計画を再作成
…調達部は、重点部材の納期短縮と代替可否を確認
…物流部は、臨時便と物流センターの受入枠を再調整
…営業部は、根拠ある納期回答を持って得意先と交渉する
全体最適という名の“伝説の英雄”は、今日も来なかった。
代わりに席を埋めたのは、全員が少しずつ我慢する『妥協』という名の代役だった。
現実的な着地だった。
だが、全員の胸には同じ思いが残った。
もっと早く、需要変動が共有されていれば。
もっと早く、部材制約が見えていれば。
もっと早く、工場負荷が分かっていれば。
もっと早く、出荷波動が読めていれば。
製販調整会議を「作戦会議」に変えるには
製販調整会議は、なくならない。
むしろ、不確実性が増すほど重要になる。
ただし、会議で初めて事実を集めるのでは遅い。会議で初めて制約を知るのでは遅い。会議で初めて部門間の前提差に気づくのでは、数字はまた踊り出す。
必要なのは、部門ごとにばらばらの計画を一本の時間軸に並べ、需要の変化がどこまで波及するかを、会議が始まる前に見ておくことだ。
…需要が2,000台動いたら、どの工程が詰まり、どの部材が足りなくなり、どの週の輸送枠が割れるのか
…今日ようやく判明したその連鎖を、あらかじめシナリオとして描けていれば
…制約条件を織り込んで需給を調整し、“作れて・運べる”納期を返せていれば
…部門をまたいで、同じ数字を見ながら決められていれば
そうした仕組みがあれば、会議は「お願い」と「反論」の舞踏会から、「選択肢」と「根拠」の作戦会議へ変わる。
会議は踊る。
踊っているのは、人ではない。
つながっていない情報であり、見えない制約であり、遅れて共有される前提である。
・・・
次の製販調整会議では、数字たちが少しだけ静かに席へ着いているかもしれない。
そして誰かが、こう言うかもしれない。
「今日は、踊らずに決められそうですね」
その瞬間、製販調整は単なる調整業務ではなくなる。
未来の混乱を先回りして整える、サプライチェーンの意思決定そのものになる。

あとがき
筆者より
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
SCMに携わる各部署に、それぞれの事情や思惑があるのは当然です。それでもサプライチェーン計画は、川上から川下まで滞りなく流れるように立てなければなりません。この両立こそが、計画業務の難しさなのだと思います。
また、会議が踊ってしまう背景(闇)には、計画業務の慢性疾患「あるある課題」も少なからず潜んでいるのだろうと推察します。
ちなみに、本稿はもちろんフィクションなのですが、さまざまな現場で耳にした話をまとめてみるとこうなってしまいました。(笑)
筆者紹介
逸見 直広(へんみ なおひろ)
キヤノンITソリューションズ株式会社
製造ソリューション事業部 ソリューション企画部(SCM・SCP企画担当)
システム開発職を経て、ソリューションの企画・マーケティング・プロモーション・推進に従事。製造業を中心に、流通業など幅広い業種で30年以上の経験を持つ。「SCPナレッジの杜」シリーズコラムを執筆中。
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