物流計画:「最適解」はない輸送計画~複数工場/倉庫で本当に設計すべきは“変更耐性”~SCM計画系コラム「SCPナレッジの杜」
公開日:2026年11月5日
複数工場・複数倉庫の輸送計画は、距離や運賃だけでは決まりません。生産遅れ、需要変動、倉庫の受入制約。前提が揺れる中で、標準ルート・補完ルート・緊急便をどう設計すれば変更に強い計画になるのかを考えます。朝に組んだ計画が、昼にはもう古い。そんな日常の話を、物流計画の担当者はもちろん、物流統括管理者(CLO)の方にもぜひ知っていただきたいと思います。
計画は、立てた瞬間から古くなる
全国に複数の生産拠点があり、各エリアにマザー倉庫を構える製造業では、工場から倉庫への輸送計画は日々の重要業務です。
どの工場から、どのマザー倉庫へ、どの品目を、いつ、どれだけ送るのか。物流計画担当者は、在庫、需要、生産、車両、バース、荷役能力を見ながら、供給と輸送をかみ合わせています。
工場から倉庫への幹線輸送(一次輸送)は、一見すると「複数工場×複数倉庫」の組み合わせ最適化問題です。
効率のよい組み合わせを選べば終わり。そう考えたくなります。
しかし、実務の輸送計画はそこまで静的ではありません。前提は、一日のうちに何度もコロコロ変わります。
…生産完了がずれる
…出荷数量が変わる
…品質判定が遅れる
…営業から優先出荷の依頼が入る
…倉庫側の入荷枠が埋まる
…運送会社から車両変更の連絡が入る
つまり、輸送計画は「一度決めれば終わり」の計画ではなく、前提条件が揺れ続ける中で、何度も組み替えられる計画です。
ここに、複数工場・複数倉庫運用の本当の難しさがあります。
……立てるのに半日、崩れるのに電話一本。この非対称が、輸送計画という仕事の性格を決めています。

本当に厄介なのは、“決まらない前提”
工場や倉庫が増えれば、候補ルートは増えます。
品目、荷姿、温度帯、車格まで考え始めると、パターンは一気に膨らみます。
ただ、物流計画担当者を本当に悩ませるのは、組み合わせの多さではありません。計画の前提が、直前まで決まらないことです。
倉庫側の必要補充量は、需要予測、実出荷、現在庫、入荷予定によって毎日動きます。
工場側はもっと読みにくく、計画上の生産数量があっても、それがすぐ「出せる」量とは限りません。
……「今日、出せる?」と聞くと、工場は「…作れてはいる」と答えます。
品質管理は「判定は夕方には」と言い、
出荷場は「パレットが足りなくて…」と言う。
全員が本当のことを言っているのに、トラックには何も載っていない。
そんな場面は珍しくありません。
倉庫に連絡すれば、今度は「その時間、バースが埋まってます」。
運送会社からは「車格、変わってもいいですか」。
(いいも何も、たぶんもう変わっています。)
……前提はそれぞれ別のタイミングで変わり、そのしわ寄せが最後にドサッと届くのは、たいてい物流計画担当者の机です。
標準ルートとは、正解ではなく“ものさし”
複数工場・複数倉庫の運用では、多くの場合、標準ルートが設定されています。関東工場から東日本マザー倉庫へ、中部工場から中部マザー倉庫へ、関西工場から西日本マザー倉庫へ、といった基本の供給ルートです。
しかし、標準ルートは常に最適なルートではありません。
工場在庫が薄い日もあれば、生産が遅れる日もあります。最寄り工場から送るより、少し遠い工場から出した方が納品リードタイムを守れる場合もあります。標準ルートの運賃は安くても、その日に現実的に出荷できなければ使えません。
では、標準ルートの価値はどこにあるのでしょうか。
それは、通常時の基準線を持てることです。標準ルートがあるからこそ、何が例外なのかが分かります。どの倉庫向けの供給が通常から外れ、どの方面で別工場からの出荷が頻発しているのか。……基準線がなければ、例外は「いつものバタバタ」に埋もれます。
標準ルートの役目は、正解を決めることより、例外に気づくことにあります。計画の崩れ方を測る、ものさしです。
……この役目を忘れると、標準ルートはただの初期値になります。誰も選んでいないのに、そこに残っている値です。

補完ルートは、ただの予備ではなく“安全弁”
標準ルートが使えないときに登場するのが、補完ルートです。
いつもの工場から出せない日に、別の工場から一部を回す。いわば供給の迂回路です。
ここで重要なのは、補完ルートを「標準ルートがダメなときの予備」程度に見ないことです。
補完ルートは、供給リスクを逃がす安全弁です。
- 特定工場に生産や出荷が集中すると、その工場の遅れがエリア全体の欠品に直結します
- 特定方面の車両が取りにくくなると、出荷可能な在庫があっても運べません
- 特定倉庫の入荷枠が詰まると、納品できるはずの荷物が受けられません
補完ルートが実際に使える状態で設計されていれば、こうしたリスクを分散できます。
ただし、運賃表に登録されているだけでは不十分です。
(使ったことのない補完ルートは、場所だけ決めてある避難経路と同じです。図面上は通れます…。)
車両手配のリードタイム、車格、積載効率、着時間、倉庫側の受入可否、荷役条件まで確認されて初めて、使える補完ルートになります。

ケーススタディ:マスタ上は“関西発”、実態は“中部発”
では、その迂回路が「たまに使う道」でなくなると、何が起きるのか。
ある製造業の例です。
関西物流センター向けの標準ルートは「関西工場発」と定義されていました。
距離も近く、運賃も安いため、通常時であれば最も合理的なルートです。
ところが実績を追ってみると、月の半分近くで中部工場からの補完出荷が発生していました。
理由を確認したところ、関西工場では特定品目の生産が後ろ倒しになり、予定便に載せられないケースが多発していました。
一方、中部工場には在庫があり、翌日午前着の便も確保しやすかったため、担当者の判断で補完ルートが常用されていたのです。
気づけば補完ルートが主役になっていた
表面上は「関西工場→関西物流センター」が標準ルートです。
しかし実態としては、「中部工場→関西物流センター」が欠品回避の主力ルートになっていました。
補完ルートを使い続けた現場は、むしろ正しく判断していました。
おかしかったのは、現実と合わなくなった標準ルートが、そのまま標準として残り続けていたことです。
気づいたきっかけは、誰かの報告ではなく、実績ルートを月単位で並べてみたことでした。
発生頻度と変更理由、在庫状況を重ねてみると、マスタの「関西発」は、もう半年以上前から名前だけになっていたのです。
(表札だけ残して、住人はとっくに引っ越していた。そんな状態です。)

緊急便の本数は“計画品質を映す鏡”
物流部門では、緊急便はコスト悪化の象徴として扱われます。確かに、低積載のチャーター、当日手配のスポット便、長距離の個別配送は、通常便に比べて割高になりがちです。
しかし、緊急便そのものを悪と見てしまうと、原因を見誤ります。見るべきは、緊急便が発生した理由です。
…需要予測の外れなのか
…営業による直前の優先順位変更なのか
…生産遅れなのか
…品質保留なのか
…在庫基準の設定ミスなのか
…標準ルートのリードタイムが現実と合っていないのか
…倉庫側の受入制約を見落としていたのか
緊急便の請求書は、計画の答案が返ってきたものだと思えばいい。点数は高くありませんが、どこを間違えたかはきちんと書いてあります。
(しかも、たいてい赤ペン付きで…)
何が原因で、どのタイミングで、どのルートに、どの程度の頻度で緊急便が出ているのか。これを見れば、輸送計画の弱点が見えてきます。
重要なのは、緊急便をゼロにすることではありません。発生してよい緊急便と、発生させてはいけない緊急便を分けることです。
前者は供給を守るための判断であり、後者は計画改善の対象です。

物流が吸収しすぎると、会社は変わらない
物流計画担当者は、日々さまざまな変更を吸収しています。生産が遅れればパパッと便を組み替え、営業から急ぎの依頼が入れば積載を崩し、倉庫が混雑すれば納品時刻をずらし、車両が足りなければ別の運送会社にペコペコ頭を下げます。
この対応力は、現場の強さです。一方で、危うさもあります。
物流が頑張って吸収し続けると、組織は「多少変更しても何とかなる」と学習してしまうからです。
(物流は社内で「頼れる便利屋さん」として有名になります。あまりうれしくない有名人です。)
すると、直前の変更がじわじわ「普通」になっていきます。
低積載の便が増え、運送会社にはまた無理をお願いし、その調整は特定の担当者の頭の中でしか回らなくなる。
それでも納品は間に合っているので、会議の議題には上がりません。誰も困っていないように見えて、実は物流だけが困っている。
……たぶん、いちばん直りにくいのはこの状態です。
輸送計画を改善するには、変更を単に処理するだけでは不十分です。
変更がどのコストを生み、どの現場に負荷をかけ、どの倉庫の欠品リスクを高めたのか。
それが関係部門に見えないかぎり、同じ変更は来月もやってきます。

まとめ:変更に強い輸送計画が、供給を守る
複数工場・複数倉庫の輸送計画で本当に設計すべきなのは、平常時のきれいな最適解よりも、前提が崩れたときの作法です。
- どの品目なら標準ルートを崩してでも守るのか
- 補完ルートは何をきっかけに使うのか
- 緊急便は誰の判断で出すのか
こうしたルールが曖昧なままだと、担当者は毎回その場で、ヒヤヒヤしながら判断することになります。
強い計画業務とは、ベテランの判断を否定することではなく、その判断の前提を共有できる形にすることです。
そのためには、拠点在庫、工場の出荷可能量、車両、倉庫の受入能力、そして緊急便が出た理由が、ばらばらではなく同じ画面の上で見えている必要があります。物流だけで抱え込むのではなく、生産や販売も同じ情報を見ている状態です。
2026年4月、改正物流効率化法により、一定規模以上の荷主企業で物流統括管理者(CLO)の選任が義務化されました。CLOには、生産・販売・物流といった部門間の連携体制づくりも求められています。
輸送計画の「変更耐性」も、まさにこの部門をまたいだ見え方から生まれます。
とはいえ、いきなり仕組みから変える必要はありません。
まずは先月の緊急便の請求書を、起因別に並べてみてください。答え合わせは、たぶんそこから始まります。

筆者紹介
逸見 直広(へんみ なおひろ)
キヤノンITソリューションズ株式会社
製造ソリューション事業部 ソリューション企画部(SCM・SCP企画担当)
システム開発職を経て、ソリューションの企画・マーケティング・プロモーション・推進に従事。製造業を中心に、流通業など幅広い業種で30年以上の経験を持つ。「SCPナレッジの杜」シリーズコラムを執筆中。
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