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第12回 これからのリスキリング
~リスキリングと人的資本経営
リスキリングと人事DXの進め方

公開日:2026年1月22日


リスキリングは、日本企業および労働者の間に急速に広がっています。リスキリング導入に成功した企業は、従業員に最新スキルを習得させて、人的資本の充実を図る「人的資本経営」を実践していくことになるでしょう。そして、労働者は、成長の機会と良い労働条件を求めて、自主的にリスキリングに取り組むようになるでしょう。このような動きの中で、人事部門は、「人事DX」を進めていくことが必要となります。12回にわたり連載してきた本コラムの最終回として、今回は「これからのリスキリング」について解説します。

目次

「リスキリングの浸透」と「人的資本経営の実践」

2025年10月、労働者が長期休暇を取得して各種学校などに通学する場合、雇用保険から賃金の一定割合を受け取ることができる「教育訓練休暇給付金制度」が創設されました。これに伴い、多くの企業が「教育訓練休暇」を設けて、また、各種学校が(給付金を受けながら通学できる)研修プログラムを提供し始めています。
今後、多くの労働者が「教育訓練休暇」を取得し、リスキリングに取り組むようになっていくことでしょう。このことは、日本企業や労働者の間にリスキリングが浸透し始めた証(あかし)と言えます。
従業員のリスキリングに成功した企業は、人材の育成、活用を通じて、組織と個人の成長を図る「人的資本経営」を実践することができます。これらの企業は、人的資本経営に関する情報(例えば、リスキリング施策や公的資格保有者数など)の開示を通じて、スキルアップを目指す労働者や優秀な学生を惹きつけて、優秀人材を囲い込んでいくことになるでしょう。
今後、「リスキリングの浸透」に伴い、「人的資本経営の実践」を図る企業と、その流れに乗り切れない企業とに二分されていくことになるものと考えられます。今や、「リスキリングに取り組むか否か」は、企業や労働者の将来を決める「試金石」になっていると言っても過言ではありません。

従業員に「リスキリングに取り組むチャンス」を与えることが必要

このような動きの中で、企業は、従業員に「リスキリングに取り組むチャンス」を与えることが必要となります。具体的には、人事部門が次のような仕組みを作り、運用していくことが必要です。

  • リスキリングに専念する期間として、従業員に1か月以上の休暇を与える「教育休暇制度」
  • 従業員に受講を推奨する研修やセミナーなどに関する情報を提供する仕組み
  • 大学院への入学、海外留学などに必要な資金を従業員に貸し付ける「教育資金貸付制度」
  • リスキリングに成功した従業員に対して適切な職務と報酬を付与することができる人事制度
  • 従業員のスキル情報を管理する「タレントマネジメント機能」を装備した人事情報システム

これらの中でも特に重要なものは、4.の人事制度と5.の人事情報システムです。
本コラムの第3回でも述べましたが、リスキリングに成功した従業員が転職してしまう最大の要因は、「習得したスキルが社内で活かせないこと」および「スキルの高さと比べて報酬が低いこと」にあります。したがって、従業員に「リスキリングに取り組むチャンス」を与えるのであれば、それと併せて「スキルを活かせる職務と相応しい報酬を与えること」が必要です。また、従業員一人ひとりに適切な職務と報酬を付与していくためには、スキル情報を管理して、人材配置や成果評価に反映することができる「人事情報システム」を整備することも欠かすことができません。

人事部門は「人事DX」を進めよう

これからの人事部門は、自らの職務のDX化を積極的に推進していかなければなりません。
各人に適切な職務と報酬を付与する人事制度の運用は、情報収集やデータ分析に多くの時間・工数がかかります。人事部門は、人事DXを進めて、現在の職務にかかる時間・工数を大幅に削減し、その分を新しい人事制度の運用に当てていかなければなりません。また、タレントマネジメント機能を装備した人事情報システムを使いこなしていくためには、人事部員も、(そのシステムのベースにある)AIやデータ分析に関する基礎知識を習得していくことが必要となります。
そして、何よりも、人事部門が先陣を切って動かない限り、現場の従業員は「リスキリングに取り組もう」という気にはならない、つまり、リスキリングを浸透させていくためには、人事部員自らがリスキリングに取り組み、自部門内のDX化を進めていかなければならないのです。
本コラムを参考にして、人事部の皆さんには、自らのスキルアップを図り、それを活かして人事DXを積極的に推進して、社内にリスキリングを浸透させていただきたいと思います。

1年間にわたり連載してきた本コラム「リスキリングと人事DXの進め方」は、今回をもって終了となります。
ご愛読、ありがとうございました。
皆さまの今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。

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著者プロフィール

深瀬勝範(ふかせ かつのり)

Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』『Excelでできる戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。​