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リース会計基準のわかりにくい言葉第5回:~「防御的権利(防御権)」ってどういう意味?~公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説


新リース会計基準は、とても難しい会計基準です。
難しくしている原因の一つが、用語の難しさです。
本コラムでは、難しいと思われる用語をいくつか取り上げて、解説をしていきます。

今回は、「防御的権利(防御権)」という用語です。
この言葉は、日本の新リース会計基準では使われていません。
しかし、監査法人が時々使用します。
日本の会計基準にない概念を使って話をされても困るのですが、新リース会計基準の基本となっているIFRS第16号「リース」に規定があるため、監査法人は「日本でも適用される」と主張しているのです。

この「防御権」というのは、契約で借手の使用を制限する条項があっても、その制限が、貸手所有の賃貸物件や貸手の従業員を保護するためのものであるならば、借手にとっての「制限にはならない」という内容です。

この「防御権」について、あらゆる制限を対象にしてしまうと、使用制限のない契約になり、ほとんどの賃貸契約が「リース」として識別され、オンバランスしなければならなくなります。
これでは、前回の第4回で説明した「支配」の概念を基本として、「思うがままに使える」ことを大前提としたリース会計の考え方と矛盾する恐れがあります。
そこで、「防御権」はどのようなレベルの制限なのかについて考えてみましょう。

まず、IFRS第16号「リース」のB30項の規定から確認します。

契約に、資産又は他の資産に対する供給者の利益を保護したり、供給者の職員を保護したり、供給者の法律又は規則への準拠を確保したりするために設計された条件が記載される場合がある。
これらは防御的な権利の例である。
例えば、契約が、

  • (I)
    資産の使用の最大量を指定するか又は顧客が資産を使用できる場所若しくは時期を限定したり、
  • (II)
    顧客に特定の運用上の慣行に従うことを要求したり、
  • (III)
    顧客に資産の使用方法の変更を供給者に伝えることを要求したりする場合がある。

防御的な権利は、通常、顧客の使用権の範囲を定めるものであるが、単独では、顧客が資産の使用を指図する権利を妨げるものではない。

これを少し簡潔に説明すると、「防御権」とは

  • 資産に対する供給者の利益の保護
  • 供給者の職員の保護
  • 供給者の法律又は規則への準拠の確保

といった内容が例として説明されています。
そして、契約上の制限が「防御権」に該当するのであれば、それは顧客にとっての使用制限ではあるが、「使用権」を妨げるものではないので、顧客に使用権がある、すなわち「リースを含む」ことになりうるという識別となります。

しかしこの条文だけでは、まだ表現が抽象的なので、どのような制限が「防御権」に該当するのかがはっきりしません。

そこでIFRS第16号「リース」に示されている設例を見てみましょう。
IE2項の「設例1-鉄道車両」に以下の記載があり、「防御権」に該当するとしています。

契約では、顧客は特定の種類の貨物(例えば、爆発物)を輸送することができないと定めている。

設例はもう一つあります。IE2項の「設例6-船舶」の二つ目にある「設例6B」です。
こちらも「防御権」に該当するとしています。

顧客は、海賊行為の高いリスクのある水域に船舶を航行させることや危険物を貨物として運搬することを禁じられている。

要するに、「防御権」に該当すると言えるのは、

  • (1)
    爆発物の輸送を禁じたり
  • (2)
    海賊行為の高いリスクのある水域への航行を禁じたり
  • (3)
    危険物を載せて運搬したりするような

極めて危険なレベルの内容であることがわかります。

これらの設例の内容は、IFRS第16号「リース」のB30項の規定に合致します。
まずは、上記1の「資産に対する供給者の利益の保護」です。
(1)~(3)のような使い方をされると、貸手の資産が使用不能になるほどの損害が発生します。
また、上記2の「供給者の職員を保護」です。
「設例1-鉄道車両」では、「契約では、顧客が要請した場合には、供給者が機関車と運転士を提供することも要求している。」という契約内容が示されています。
このため、(1)~(3)のような使い方をされると、貸手の従業員の命や安全に極めて大きな影響が発生する恐れがあります。

したがって、日本の賃貸借契約における、「転貸禁止」、「使用目的の限定」、「(深夜から早朝までの入退館禁止などの)営業時間の制限」さらには「(毎月第2火曜日は全館休業などの)営業日の制限」などは、貸主の資産が大きな損害を被るようなレベルではないので、「防御権」に該当しないという取り扱いをするのが妥当です。

これらの検討を、別の角度で表現することができます。

「防御権」というのは、借りたものではない、自社保有であっても同じ制限を、自ら課すことが常識的なものだということです。
車両や船舶を借りるのではなく、自社で購入した「自己所有」のものであっても、その資産が大きな損害を被ったり、利用する従業員の命や安全を脅かすような使い方はしないでしょう。

逆に、「転貸禁止」、「使用目的の限定」、「(深夜から早朝までの入退館禁止などの)営業時間の制限」さらには「(毎月第2火曜日は全館休業などの)営業日の制限」などは、借りる場合に制限されるような、厳しいものではない使い方とするでしょう。

ここで、前回(第4回)で示したIFRS第16号、BC105項の規定を再掲します。

BC105
IFRS第16号は、顧客が特定された資産の使用を一定期間(所定の使用量によって決定される場合もある)にわたり支配するのかどうかに基づいて、リースを定義している。
顧客が特定された資産の使用を一定期間にわたり支配する場合には、当該契約はリースを含んでいる。
顧客が資産の使用に関する重要な決定を、自らが使用する所有資産に関して決定を行うのと同様の方法で行う場合には、これに当てはまる。
そのような場合、顧客(借手)は資産を使用する権利(使用権資産)を獲得しており、それを貸借対照表に認識すべきである(ただし、IFRS第16号の第5項における認識の免除の適用がある)。
これと対照的に、サービス契約では、サービスの提供に使用される資産の使用を供給者が支配している。

つまり、顧客が借りている該当物件を使用する際に行う決定が、自社が保有している物件と同じように決定できるのであれば、「リースの定義」を満たすのであり、借りている物件でも、買ったものと同じように使用できるのであれば、それは「使用を支配」している状況と言えるのです。

契約の制限事項も同じなのです。

契約に記載している制限事項が、自社保有であっても同様に制限して使用するのであれば、それは、「支配」を妨げることにはならないのです。

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。