リース会計基準のわかりにくい言葉第4回:~「支配」ってどういう意味?~公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
公開日:2026年8月20日
新リース会計基準は、とても難しい会計基準です。
難しくしている原因の一つが、用語の難しさです。
本コラムでは、難しいと思われる用語をいくつか取り上げて、解説しています。
今回は、「支配」という用語です。
「例解小学国語辞典」(三省堂)では以下のように説明されています。
ものごとを思うように動かすこと。
小学生用なので、とても分かりやすいです。
この言葉は、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、「本基準」)の「III.会計処理 1.リースの識別 (1)リースの識別の判断」で使われています。
25.契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する。
26.前項の判断にあたり、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む。
本基準の第25項及び第26項は、契約にリースが含まれるかどうかを識別する際に、とても重要な条文です。
しかし、「支配」の意味を的確につかんでいないと、リースの識別は適切にはできません。
日本の新リース会計基準には、「支配」について具体的な説明はありません。
日本の会計基準で「支配」という言葉を使っているのは、連結会計や企業結合会計を除けば、「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」(以下、「収益認識基準」)しかありません。
収益認識基準では、第37項に以下の規定があります。
37.資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)をいう。
これだけではあまりよく理解できないですね。
しかし、収益認識基準でも「支配」という言葉について、これ以上の説明はありません。
とても重要な言葉なのに、わかりやすく説明されていないということは大問題です。
会計基準に準拠した会計処理ができなくなる恐れがあります。
そこで、新リース会計基準の元となったIFRS第16号を参考にしてみましょう。
IFRS第16号では、BC105項に以下の規定があります。
BC105
IFRS第16号は、顧客が特定された資産の使用を一定期間(所定の使用量によって決定される場合もある)にわたり支配するのかどうかに基づいて、リースを定義している。
顧客が特定された資産の使用を一定期間にわたり支配する場合には、当該契約はリースを含んでいる。
顧客が資産の使用に関する重要な決定を、自らが使用する所有資産に関して決定を行うのと同様の方法で行う場合には、これに当てはまる。
そのような場合、顧客(借手)は資産を使用する権利(使用権資産)を獲得しており、それを貸借対照表に認識すべきである(ただし、IFRS第16号の第5項における認識の免除の適用がある)。
これと対照的に、サービス契約では、サービスの提供に使用される資産の使用を供給者が支配している。
文章の表現は、いまひとつわかりにくいのですが、BC105項をわかりやすくすると以下のようになります。
- IFRS第16号における「リース」の定義は、顧客が該当物件を使用し始めてから返却するまでの間に、「使用を支配しているかどうか」である。
- 顧客が使用を支配していれば、「リースの定義」を満たす。すなわち会計上の「リース」として、資産負債計上することとなる。
-
顧客が借りている該当物件を使用する際に行う決定が、自社が保有している物件と同じように決定できるのであれば、「リースの定義」を満たす。
言い換えれば、借りている物件でも、買ったものと同じように使用できるのであれば、それは「使用を支配」している状況と言える。
いかがですか。
冒頭の「例解小学国語辞典」の説明と同じですね。
借りているものであっても、自社が購入したものと同じように使える、すなわち、「思うように」使えるのであれば、「支配」しているということです。
そうであれば、購入して貸借対照表に計上している資産と同じように、借りているものであっても、同様の会計処理、すなわち資産計上するべきだということになります。
ここでの重要なポイントは、日本の会計制度における「資産」とIFRSの「資産」の定義が全く違うことです。
実は日本基準では、『資産』の定義が明確には定められていません。
しかし、読者の皆さんは、『取得原価主義』という言葉をご存知の方は多いでしょう。
企業会計原則の「第三 貸借対照表原則」の「(資産の貸借対照表価額)五」に以下の表現があります。
貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならない。
この文言が、日本基準が『取得原価主義』と言われる所以です。
この表現以外に、『資産』の定義に該当する表現はありません。
企業会計原則での定義について、少し砕けた言い方で要約すると以下になります。
資産とは、過去の支出の結果である。
これに対して、IFRSでは概念フレームワークで、『資産』の定義が明確に表現されています。
4.3 資産とは、過去の事象の結果として企業が支配している現在の経済的資源である。
4.4 経済的資源とは、経済的便益を生み出す潜在能力を有する権利である。
わかりにくいので、ちょっと意訳すると、以下のようになります。
資産とは、これから行う企業活動によって獲得するものではないが、過去の活動の結果として、現時点で思うように(自由に)使えて、将来の経済的な価値を生みだす可能性のあるものである。
これをさらに要約すると以下になります。
資産とは、将来の収入の期待である。
日本基準とIFRSの『資産』の定義を並べてみます。
-
日本基準:資産とは、過去の支出の結果である。
-
IFRS:資産とは、将来の収入の期待である。
いかがですか。
過去と将来
支出と収入
結果と期待
全て真逆ですね。
重大問題です。
会計上、非常に重要な項目である『資産』の定義が、日本基準とIFRSで真逆なんです。
これが、日本の経理関係者のIFRSの理解を妨げているんです。
そして、IFRSの影響を強く受けている、日本の会計基準の理解をも妨げているのです。
日本の経理関係者の頭には、『取得原価主義』がしっかり身についている(こびりついている?)のですが、その頭で、将来の収入の期待としての『資産』という言葉がかかれているIFRSや最近の日本基準を読んでも、「何が書いてあるのか、わからない」という状態になるんです。
だって、同じ言葉なのに意味が真逆なんですから、混乱するのは当然と言えるでしょう。
-
減損会計で、減損の兆候があるときに、回収可能性を検討するのはなぜでしょう?
将来の収入が期待できないものは『資産』ではないからです。 -
収益認識会計で、顧客との契約が成立した際に、『契約資産』という概念が出てくるのはなぜでしょう?
顧客と契約が成立(受注)して、その納品義務を果たしたら、請求した後に、入金があるでしょう。
契約成立時に、将来の収入が期待できることとなり、『資産』を認識すべき状況になるからです。 -
リース会計で、従来のオペレーティングリースについて、所有権を取得するわけでもないのに『使用権資産』を計上するのはなぜでしょう。
借りたものであっても、自由に使えて将来の収入が期待できるものは『資産』だからです。
したがって、「リースの識別」を行う際の最重要ポイントは、使用上の制限がある契約については、「リースを含まない」という判断になるはずです。
なぜならその契約上の制限によって「思うように」使えないからです。
著者プロフィール
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。
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