第8回 AIによる合理的な報酬決定と人件費管理AIを使った人事業務の効率化事例
公開日:2026年9月9日
日本企業において、AIやマネジメント等の分野で高度な専門知識・技術を持つ人材(高度専門人材)の採用ニーズが高まってきています。高度専門人材の報酬は、通常の従業員よりも高い水準にあるため、技術力や従事する職務内容に応じて、個別に決定していくことが必要になります。このような報酬決定において、多くの会社でAIを活用するようになっています。
なお、高額な報酬を支払う高度専門人材が増えてくると、人件費管理が従来と比べて格段に難しくなります。そこで、人件費管理においても、AIが活用されるようになってきています。
今回は、AIを活用して、合理的な報酬決定と人件費管理を行っている事例を紹介します。
目次
AIによる「高度専門人材」の報酬決定
高度専門人材は、企業間での獲得競争が激化しているため、その報酬は、普通の人材と比べて相当に高い水準になっています。したがって、会社は、高度専門人材の報酬を決定するときには、自社の制度によらず、高度な知識・技術に対する報酬の世間水準を調べたうえで、それぞれの人材に適した報酬を個別に決めていくことが必要です。この「高度な知識・技術に対する報酬の世間水準を調べるとき」そして「高度専門人材を評価し、その報酬を決定するとき」にAIが使われています。
大手システム会社S社では、高度専門人材の報酬決定において、AIを次のように活用しています。
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報酬の世間水準の調査
自社が必要とする専門知識・技術や経験年数などを入力したうえで、「このような特性を持つ人材の報酬の世間相場」をAIに問い合わせます。AIは、インターネット上の求人サイトに掲載されている報酬に関するデータを収集・分析して、その人材を採用しようとする企業が提示するものと考えられる報酬額を回答します。
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高度専門人材の評価、報酬の決定
S社では、高度専門人材一人ひとりについて、職務内容や業務目標を明確化し、組織貢献度および目標達成度を評価しています。この評価において、AIは、各自の業務報告、製品開発などの成果、発表した論文などのデータを分析して、客観的な視点から評価を行います。高度専門人材の知識・技術は、上司では評価しきれないことが多いため、AIが「組織貢献度・目標達成度」と「社外活動実績・転職可能性」の2軸からその人材を評価し、1.で調べた報酬水準に基づいて、各人の報酬案を決定します。このように決定された報酬案について、会社と本人との間で面談を行い、両者で合意すれば、次年度報酬の最終決定となります。

AIによる人件費管理(シミュレーションによる適正人件費の管理)
高度専門人材の報酬は、世間相場に基づいて決定されるため、会社で支給額の高低をコントロールすることができません。したがって、高額な報酬を支払う高度専門人材が多くなると、会社は、これまでの方法(年度ごとに賃上げ率や賞与支給額を決定して人件費を調整する方法)では人件費管理が困難になってきます。
そこで、近年、AIを活用して人件費の推移を予測し(シミュレーションを行い)、その結果に基づく適正人件費の管理が行われるようになってきています。
AIによる人件費管理は、次のように行われています。
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自社の業績データ(売上高、営業利益、従業員数、人件費など)および経営計画(事業内容、売上高目標など)のデータをAIに入力します。
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AIが、雇用情勢や賃金動向などのデータを収集・分析し、その分析結果をもとに人件費の推移を予測します(シミュレーションを行う)。シミュレーションにおいて問題が見つかった場合(例えば、経営計画よりも人件費の増加が見込まれる場合)は、AIがその解決方法を提案します。
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AIが提案した問題解決策を盛り込んだ経営計画を実践し、当初の計画からズレが生じてきた場合は、速やかにシミュレーションをやり直して、新たな経営計画を策定します。

AIといえども、これから発生する環境変化をすべて予測することは不可能です。したがって、AIによる人件費管理では、前提条件を置いたシミュレーションを行ったうえで、当初の前提条件が覆るような環境変化が生じた場合には、速やかに再シミュレーションを行い、新たな経営計画を策定します。
S社では、「高度専門人材の報酬決定」も、このシミュレーションを前提条件に組み込み、今後5年以内に確保する「高度専門人材の技術分野および人数」を明確化しています。このようにして「AIによる合理的な報酬決定と人件費管理」を実践しているのです。
技術革新が進む中、「高度専門人材の獲得」と「(報酬水準の上昇に対処できる)適正人件費の管理」が会社の将来を決めることになるでしょう。皆さんの会社でも、このコラムを参考にして、AIを活用した高度専門人材の報酬決定と人件費シミュレーションに挑戦してみてください。
次回のコラムでは、「AIを活用した人材育成」の事例について解説します。
著者プロフィール
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』『Excelでできる戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。
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