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第6回 AIによる給与計算業務の効率化AIを使った人事業務の効率化事例

公開日:2026年7月21日


給与計算業務においては、手当申請のチェック、制度改定資料の作成などの場面で、AIが活用されています。今回は、AIを活用した給与計算業務の効率化について解説します。

AIによる手当申請のチェック

ほとんどの会社において、給与計算は、専用システムを使うこと、またはアウトソーシング会社に委託することによって行われています。ですから、現時点で、給与計算業務は、人事担当者がシステム等にデータを入力すれば、あとは専用システムやアウトソーシング会社が進めてくれるようになっています。
​しかしながら、AIを使った業務効率化の余地は、まだ残されています。
​D社では、「手当申請のチェック」に関する業務にAIを活用しています。例えば、家族手当の申請内容のチェックは、次のように行われています。

(1)チェックの時期
申請書の提出時、年末調整時、および毎月末
(2)チェックする事項
家族手当の支給・停止申請書の内容、人事部に提出された扶養控除申告書の記載事項、育児介護休業申請書、健保の給付金申請などの間にズレや矛盾が無いかどうかをAIがチェック。
(3)不備への対応
AIが申請書の内容を確認するメールを本人宛に自動送信。本人に申請書を提出させる、または、修正後の申請書を再提出させる。

AIによる手当申請のチェックを導入する前、D社では、「家族手当の支給停止申請漏れ」が年に数件発生していました。その中でも、配偶者や子の就職、死亡などがあった場合に、従業員が行うべき家族手当の支給停止申請を忘れてしまうケースが多く発生していました。あるケースでは、従業員が支給停止申請を忘れたことから、家族手当がそのまま支給され続けてしまい、気づいたときには、家族手当の過払い額は数十万円に達していました。その結果、過払い額の返済を巡り、会社とその従業員との間でトラブルになりました。
​このようなケースを受けて、D社では、AIによる手当申請のチェックを導入しました。
​これによって、D社は、手当の過払いが無くなっただけではなく、人事担当者の「申請書の確認」や「不備があった従業員への連絡」などにかけていた時間・工数の大幅な削減にも成功しました。

AIによる手当申請のチェックの流れ

労働法、社会保険、税制の改定に関する説明資料の作成

D社では、労働法、社会保険、税制などの改定に関する、従業員説明資料の作成にもAIを活用しています。
​AIを活用するまで、これらの説明資料の作成は、人事担当者が次の流れで行っていました。

  • 制度改定に関する情報を厚労省や国税庁のサイトなどから収集する。
  • 収集した情報をもとに、従業員に説明するべき事項をまとめる。
  • 上司などが、難解な言葉や意味不明の文章がないかどうかを確認し、必要に応じて資料を修正する。

ここ数年、育児介護休業法の改正、厚生年金保険の適用拡大、税制における所得控除の見直し等が頻繁に行われており、人事担当者にとっては、それに関する説明資料の作成業務が大きな負担になっています。そこで、D社は、人事担当者を対象としてAI活用に関する研修を実施し、これらの説明資料の作成にAIを活用するように促しました。
​この研修では、受講者(人事担当者)に「シンプルで、分かりやすい資料づくりを心掛けること」が強調されました。AIを活用して資料を作成すると、「見映え」ばかりが重視されて、制度改定の内容が伝わりにくい説明になりがちです。研修を受講した人事担当者は、AIに入力するプロンプト(指示文)に「箇条書きで」「法令用語を使わずに」等の文言を入れるようになり、労働法や税制の知識を持たない従業員にも明確に伝わる資料を簡単に作成できるようになりました。
​D社は、この段階で、人事担当者の資料づくりにかかる時間・工数の大幅な削減に成功しましたが、今後は、従業員から寄せられる労働条件等に関する質問にAIが自動的に回答するチャットボットを作って、さらなる時間・工数の削減を図っていく予定です。

給与計算業務は、従来から専用システムの導入などが行われているため、業務効率化の余地は残っていないと思われがちです。しかし、給与計算の業務フローを細かく見ていくと、AIを活用して効率化ができる余地が残されています。皆さんの会社でも、D社の事例を参考にして、AIによる給与計算業務の効率化を進めてみてください。

次回のコラムでは、「AIによる労働・社会保険業務の効率化」の事例について解説します。

著者プロフィール

深瀬勝範(ふかせ かつのり)

Fフロンティア株式会社
​代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
​一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
​現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
​主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』『Excelでできる戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。