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第3回 AIによる異動候補者の選定と人材配置の最適化AIを使った人事業務の効率化事例

公開日:2026年5月15日


人事異動や人材配置の関連業務にAIを導入する企業が急増しています。
人事異動には、「希望しない部署への異動命令を受けた従業員が退職してしまう」、「異動先で実力を発揮できずモチベーションを低下させてしまう従業員が出現する」などのリスクがあります。一方で、「人材不足の部署に従業員を補充することによって人材配置の最適化が実現する」、「組織活性化や人材育成の面でも大きな効果を発揮する」等のメリットもあります。
リスクを軽減しながらメリットを最大限に引き出す、効果的な人事異動を行うためには、従業員一人ひとりのキャリアやスキルに関する情報・データを活用して、人材と業務のマッチングを図っていくことが必要となります。このような人事異動を実現するために、近年は、大企業を中心にAI導入が進んでいるのです。
今回のコラムは、AIを使った人事異動、人材配置の最適化を実現しているT社の事例を解説します。

目次

AIによる異動候補者の選定

AIに、各部署の「業務内容」および「業務遂行に必要なスキル」に関するデータを読み込ませて、それらと従業員一人ひとりのスキルに関するデータとのギャップを分析することにより、その部署に異動させるべき候補者を選定することができます。

T社では、AIによる異動候補者の選定を、次のように実施しています。

  • 高業績者の人事考課のデータをAIで分析し、各部署の業務に必要とされるスキルを抽出する。
  • 従業員一人ひとりの人事考課のデータと(1)で抽出したスキルとのギャップを分析し、ギャップが最も小さい人材を人事異動の候補者として選定する。
  • 人事情報システムに蓄積されている「異動希望」「過去の職務経歴」「研修歴」などのデータをAIが分析し、「職種転換を希望していながら、3年以上、異動していない人材」や「直近1年間で公的資格を取得した人材」などを異動候補者として抽出する。さらに、その人材を異動させるべき部署をAIに提案させる。

このような分析を経てAIが選定した異動候補者のリストを経営層や人事関係者が検討し、異動対象となる部門責任者や本人との面談を行った後に、最終的に人事異動を決定します。
T社では、AIによる異動候補者の選定により、「異動させるべき人材、部署の見落としが無くなった」、「従業員の人事異動に対する不満が解消された(『経営層の好き嫌いで人事異動が行われている』という誤解が無くなった)」などの効果が現れ、それは「人事業務の効率化」や「従業員のモチベーション向上」に大きく寄与しています。

AIを活用した人事異動の流れ

AIによる人材配置の最適化

T社では、人事異動の効果についても、AIを使って分析しています。
具体的に言えば、人事異動が関係する部署、従業員にプラスになって働いているかどうかを検証するために、AIに次のデータをチェックさせています。

  • 異動元・先の残業時間の変化、退職者数の増減
  • 異動元・先の組織目標の達成率の変化
  • 異動元・先の労働力の過不足感、部署の雰囲気
  • 異動した従業員の自己申告書や面談記録の内容、人事考課の結果

さらにT社では、「業務遂行に必要なスキル」と「それぞれの業務の担当者のスキル」のギャップの会社全体の合計値をAIで集計し、この数値を小さくするように、人事異動や教育訓練などの施策を実施しています。
T社では、「人材配置の最適化(すなわち、適材適所)とは、業務と従業員のスキルのギャップが最も小さくなった状態である」と定義しています。この「人材配置の最適化」が実現された状態を実現するために、定期的に業務と従業員のスキルのギャップを集計し、人事異動は、このギャップの変化をシミュレーションしたうえで実施しています。

AIによる人材配置の最適化のイメージ

また、従業員は、「会社全体の業務と、各業務の遂行に必要なスキル」に関する情報、および「自分の過去・現在のスキル」に関するデータをチェックできるようになっています。これによって、従業員は、担当業務の遂行に必要なスキルを自主的に習得することが可能になり、また、自分のスキルが活かせそうな業務への異動希望も出しやすくなっています。そして、従業員は、このようなスキル習得や異動希望を考えるときにも、AIを積極的に活用しています。
このように、T社では、「AIによる人材配置の最適化」を徹底的に推進しています。

「人事異動に多くの時間がかかっている」「余剰人材がいる一方で慢性的な人材不足に陥っている」という問題を抱えている会社は、T社の事例を参考にして、AIによる異動候補者の選定と人材配置の最適化を進めてみてください。
次回のコラムでは、「AIによる効率的な勤怠管理と過重労働対策」の事例について解説します。

著者プロフィール

深瀬勝範(ふかせ かつのり)

Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』『Excelでできる戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。