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データマネジメントによるビジネスイノベーション 後半INNOVATION INSIGHTS イノベーションのヒント

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公開日:2025年10月31日

データマネジメントについて

データマネジメントは、ビジネス戦略に応じたデータ準備と最適な組織づくり、柔軟な基盤整備が重要

データ活用を進めるには、「DXグランドデザイン」と「データマネジメント」の両面が必要である。以降では、「データマネジメントを推進する上でのポイント」を3点挙げる。1点目は「ビジネス戦略に応じたデータの準備である(図10)。データマネジメントを推進してDXグランドデザインを実現するためには、施策効果を測定するための最適な指標値(KPI/KGI)の設定と、施策結果を正しく評価するためのデータの蓄積が必要である。また、指標値の推移を評価する際に必要なデータが社内に存在しない場合には、社外から入手する手段やお客さまからアンケートなどで直接ヒアリングして入手する方法を確立しておく必要がある。単にデータを収集・蓄積するだけではなく、ビジネス戦略に応じた必要なデータを必要なタイミングで活用できる準備が求められる。

図10 ビジネス戦略に応じたデータ準備

2点目のポイントは「データマネジメントに最適な組織づくり」である(図11)。組織間に壁があり、DXの目的意識や達成イメージがバラバラな状況下では、DXの推進がとても難しくなる。まずはガバナンスを効かせるためのデータ管理ルールを策定・明確化し、その土台の上にチームとしてデータ管理部門とデータ活用部門の組織化を行い、推進担当者を適切に配置する体制を構築することが理想的である。そして、最も重要なこととして、社内の意見を取りまとめてDXを牽引し、データ活用の目的を浸透させる強力なリーダーシップを発揮する推進役が必要である。

図11 データマネジメントに最適な組織づくり

3点目のポイントは「変化に柔軟に対応可能な基盤の整備」である(図12)。クラウドサービスの利点を活用し、拡張性に優れたアーキテクチャを採用すること、全体最適の視点で標準化を重視した設計を行うこと、可能な限り、特別な業務仕様は持ち込まずに、必要最低限の要件に絞り込んでシンプルな機能配置を実現すること、このような方針で推進することが変化に柔軟に対応可能な基盤の構築につながると考える。

図12 変化に柔軟に対応可能な基盤の整備

データマネジメント事例①

カスタマージャーニーによるCXの実現

上記のポイントをふまえつつ、以降では効果的にデータマネジメントを進めた事例を2件紹介する。一つ目は、「カスタマージャーニーによるCXの実現」の事例である(図13)。こちらはキヤノンコンシューマ向け事業におけるデータマネジメントの事例である。目的は、「製品やサービスを通じて、お客さまの生活を便利で豊かなものにし、喜び・感動・高揚感・安心感を届ける」である。戦略・方針は、「徹底的に顧客を理解し、特別な価値体験を提供する」となる。システム構築の期間は約2年半で、内容は、「サイト統合、顧客統合、CDP再構築、デジタルマーケティング基盤再構築など」であった。取り組み前のお客さまの課題は以下の通りであった。
第一に、データ収集の観点では、顧客向けサービスごとに個別のWebサイトが複数存在していたため、顧客の利便性に課題があった。第二に、データ蓄積およびデータ加工・集計の観点では、後続のデータ活用に対する考慮不足があり、運用の煩雑化・属人化の課題があった。第三に、データ分析・マーケティング施策の観点では、事業ごとに個別の分析・施策設計を実施していたために指標値や分析軸がバラバラだったり、事業ごとに同じような施策が実施されたりしたといった課題があった。

この事例で実現できたことは以下のとおりである。
まずは会員向けサイトをひとつに統合した。これにより、「顧客情報の一元管理、顧客IDの統一」を実現し、顧客の利便性が向上した。そして、事業ごとに個別に分析・施策を実施していたものを、「共通指標の策定」、「共通指標に沿った分析」と「顧客中心の施策設計」により、組織横断で共通化した。これにより、「KPI設定評価」「マーケティング戦略策定・評価」「デジタル戦略実施・評価」の効率化を実現し、「運用の煩雑化・属人化」の課題を解消した。これらのビジネス戦略に応じたデータを蓄積するために、データモデルの共通設計を行い、データ活用の促進を実現した。
本事例をまとめると、実現できたことは、「サイト統合と顧客統合」「共通指標の策定、戦略・方針の決定」「共通指標に沿った分析・顧客中心の施策」となる。これにより、顧客に新たな価値を継続的に届けるためのCXループの基盤を構築することができ、結果として、「ロイヤルカスタマーを増やすためのカスタマージャーニー」を実現できた。
本事例のポイントは、効果的なデジタルマーケティング戦略を実行するための組織・ルール・システム基盤を構築したことと、共通指標の変化を継続的に確認・分析可能にして、次のマーケティング施策に繋がるようにしたことの2点であった。

図13 カスタマージャーニーによるCXの実現

データマネジメント事例②

統合DBによる事業間シナジー向上

続いて、二つ目の事例「統合DBによる事業間シナジーの向上」を紹介する(図14)。こちらは製造小売業のSPA業態のお客さまにおけるデータマネジメントの事例である。目的は「複数の営業チャネルを持つ企業ならではの価値提供の実現」、戦略・方針は「事業間の連動とデータ活用を推進し、顧客接点での付加価値の増強と、顧客目線での利便性向上の実現」であった。システム構築の期間は約1年間で、内容は「統合データベース構築、データ連携基盤構築など」であった。
取り組み前のお客さまの課題は、データ収集の観点では、事業ごとにシステムがサイロ化しており、顧客情報が泣き別れているために事業を横断した取り組みの実施が難しいという課題があった。また、データ加工・集計の観点では、手作業が多く存在することにより、運用の煩雑化と個人情報漏洩リスクが課題となっていた。さらに、データ分析の観点では、事業ごとに個別の分析を実施していたためにデータの取り扱いルールが不明瞭という課題があった。

この事例で実現できたことは、事業ごとにサイロ化したシステムのデータを集約する統合データベースを構築したことである。統合データベースの構築に際して、データの管理面・利用面の2軸の規約を策定し、運用設計を行うことでデータマネジメントルールの適用と活用促進を実現した。またビジネス戦略に応じたデータを蓄積するために、手作業で実施していた加工・集計を統合データベース内部で自動化し、名寄せ・マスキングにより匿名化された顧客分析用マートを構築。そして、事業横断で活用可能な売上分析用マートを構築した。これにより、運用の煩雑化と個人情報漏洩リスクの課題を解消した。

本事例をまとめると、こちらの事例で実現できたことは、「サイロ化したシステムのデータ集約」「匿名化された統合データベース構築」「データマネジメントルールの適用と活用促進」となる。これにより、複数の営業チャネルを持つ企業ならではの価値提供を実現するための統合データベースを構築することができ、結果として、「全事業のバリューチェーン改革、新たな事業創造に向けた基盤」を実現できた。
本事例のポイントは、「分断されたデータを統合・可視化することで、データ活用テーマを創出する基盤が整備されたこと」「データを蓄積するだけでなく、事業間のデータハブの役割を兼ねるデータ基盤を構築したこと」の2点といえる。

図14 統合DBによる事業間シナジー向上

データマネジメントによるビジネスイノベーションの要諦

「DXグランドデザイン」と「データマネジメント」が不可欠

「データマネジメントによるビジネスイノベーション」の要諦についてまとめる。まずは、「VUCA(ブーカ)時代に求められるデータプラットフォーム構築」についてである(図15)。企業を取り巻く環境に目を向けてみると、内部環境・外部環境の変化として様々な事象が複合的に発生する可能性のある時代となっている。したがって、変化に強い柔軟性を持ったデータプラットフォームの構築が必要である。
この状況においてDXを推進し、データマネジメントを成功させるためには、「拡張性に優れたアーキテクチャを採用すること」「ルールの策定と管理体制の整備によりデータガバナンスを効かせること」「戦略方針の策定とデータに基づいた判断を行うデータドリブンを実現すること」の3点がキーファクターであると考えている。

図15 VUCA時代に求められるデータプラットフォーム構築

続いて、「データマネジメントによるDXアプローチ」についてまとめる(図16)。本稿の全般を通じて、データ活用を進めるために、「DXグランドデザイン」と「データマネジメント」の両面が必要だと述べてきた。DXグランドデザインにより、ビジネス戦略の目的と変革の方向性をしっかり定めることが、まずは重要である。そして、データマネジメントにより、実データに基づいて現在の立ち位置を確認し、常に軌道修正を行い推進することでDXの目的・ゴールに近づいていけると考えている。
総括すると、「今後のビジネスイノベーションは企業独自データの活用が競争力の肝」となる。これまで本稿を通じて、データ整備、データ活用の必要性や、DXグランドデザイン、データマネジメントの有効性を述べてきた。これに加え、「デジタル技術を活用した効率化、生産性向上」も進めつつ、「データを整備・活用してビジネスに活用」も進めていくことが最も良い形である。ただし、デジタルトランスフォーメーションの実践を成功させるためには、「明確な戦略と強いリーダーシップ」が必須であるという点は、あらためて認識を深めていただきたい。

図16 データマネジメントによるDXアプローチ

キヤノンITソリューションズは、お客さまのビジネス環境や経営戦略に関する“想い”を起点に、ビジネスデザインとビジネスサイエンスにより、お客さまとともに競争優位の確立に邁進します。この「共想共創ステーション」を通じて、私たちビジネスイノベーション推進センターの取組を随時発信しますのでご期待ください。

筆者紹介

神田 昌実
ビジネスイノベーション推進センター ビジネスデザイン部 グループ長

専門はプロジェクトマネジメント、DX戦略。主に製造業の基幹システムおよび周辺システムの受託開発案件において、アプリケーションエンジニア、アーキテクト、プロジェクトマネージャーとして従事。当社ビジネス共創モデルの牽引役であるビジネスイノベーション推進センターに異動後、製薬販売会社DXデータドリブン支援や学習塾DX戦略策定等を牽引。幅広い業種のお客さまのDX推進を支援。

大場 聡
デジタルソリューション開発本部 データマネジメント開発部 部長

現職に至るまで20年以上データ連携基盤やシステム統合のプロジェクトに携わり、金融・製造・流通業界のお客さまを中心にソリューションを提供。一昨年からサイト統合・顧客統合・デジマ基盤構築を含む大規模プロジェクトのPMを担当し、今年2月に計画通りローンチを迎えてプロジェクトを完遂。現在はカスタマーエクスペリエンスをIT技術で実現するCX領域を中心としたデータマネジメント全般を幅広く担当し、お客さまのDX推進を支援。

こちらの記事は、PDFでも閲覧ができます。

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