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DXはデジタル化からビジネスイベーションへのシフトが鮮明に―DX動向調査結果を踏まえたビジネスイノベーションの提言―後半INNOVATION INSIGHTS イノベーションのヒント

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公開日:2025年4月30日

ビジネスイノベーション推進に向けた提言

「本質的なDX」はビジネスモデル変革等を含む「競争上の優位性の確立」であると弊社では提唱している。これに対し、業務効率化だけの取り組みもDXと呼ばれる報道や主張が散見される現状がある。この現状を鑑み、弊社では、本質的DXを含むビジネス変革を目指す活動をあらためて「ビジネスイノベーション」と呼び、その推進視点を提言する。

ビジネスイノベーションが求められている背景

日本のビジネス環境を概観すると、直面している「生産労働人口の減少」において、今まで以上に圧倒的に生産性を向上していくことが求められてきている。
同時に、生成AIなど急速な技術進化が起こっており、これらの技術進化をうまく摂取し、圧倒的な生産性向上に生かしていくことが期待されている。
つまり、現状のビジネスを前提としてその効率化を追求していくだけでは足らず、革新的な技術を用いてビジネスモデルを変革していくこと、すなわちビジネスイノベーションがより一層求められる段階になってきていると考えられる。

提言1 自社の想いと特性に合う航路を描く

DXを因数分解し4象限で示した「DX進路マトリクス」は、現在地を示すとともに、ゴールに向けた航路を示すことが有益である。航路は、各社の想い・戦略に基づくゴールの位置や投下資金・組織体制・データ整備状況等実情をふまえて描くとよい(図11)。

図11 DXの4つの航路

本稿前半では、日本企業のDXの取り組みにおいて、D軸方向の進展は一定程度図れているが、X軸方向については目標と定めながらもなかなか実現できていない企業が多いという結果であった。
これをふまえて、D軸方向とX軸方向の双方が進展している状態(図10の右上D領域)をゴールと定めるのがよいと提言しているが、その企業が置かれている事業特性や環境から、ゴールは左上B領域で構わないという企業もある。たとえば、特定顧客の影響が強い部品製造業など、DXによる競争力確立のインパクトが薄い企業があげられる。
図11においては、これら企業の取り組むDXを「デジタル武装型DX」と呼んでいる。目指す航路は「業務効率化を目的に、デジタル化を進め、生産性向上を図る」ことである。

一方、ゴールを右上D領域に定めるべき企業の航路は3タイプに分かれると考えている。
1つ目は「デジタル化先行型DX」である。これは、デジタル化による生産性向上を実現した後、それによって生まれた余力を生かし、ビジネスモデル変革を行う場合が相当する。この航路はオーソドックスなアプローチなので、多くの日本企業に向く。関係者の賛同を得ながら大変革を進めていく企業文化に合っている航路ともいえる。この航路の懸念としては、デジタル化だけで息切れしてしまい、本来目指していたビジネスモデル変革まで進まなくなってしまうことがあげられる。

2つ目は「モデル変革先行型DX」である。これは、データ統合等を使ったビジネスモデル変革を実現した後、デジタルツール・施策を加え、変革を完遂する航路である。いくつかの商品・サービスを抱えているが、顧客データが分散している企業が、統合データベース構築を通じて顧客囲い込みにまず取り組む企業などが相当する。この航路については、データ整備や統合データベース構築で息切れしてしまい、デジタル施策の高度化が進まなくなるケースが懸念される。

3つ目は「直行型DX」である。これは、DXのゴールからバックキャストし、デジタルツールや施策装備の短期施策と、データ統合等の長期施策を同時に取り組み、変革に直行する航路である。DXにおいて経営の強いリーダーシップが効く企業、バックキャスト変革ができる企業が取りうる航路である。この場合は当然、明快なビジョン・戦略・航路と、強いリーダーシップが必須だが、推進途上の環境変化により取り組みが停滞・停止してしまうことが懸念である。

自社のビジョン(想い)・戦略や、それを取り巻く事業環境・企業風土などの条件をふまえつつ、以上の4つの航路「デジタル武装型DX」「デジタル化先行型DX」「モデル変革先行型DX」「直行型DX」のいずれに自社が該当するのか、まず見定めることをお勧めしたい。
以下では、特に、DXのゴールを右上D領域に置く場合、すなわち、DX取り組みにX軸方向の変革要素が含まれる場合において、その進め方について提言する。

提言2 「顧客体験価値」と「利益方程式」に注目して「デジタルビジネスモデル」を発想

まず、DXやビジネスイノベーションを考えるうえで、企業活動を4つの要素-「顧客体験価値」「利益方程式」「業務プロセス」「経営資源」-に分けて検討してみる(図12)。

図12 D/X軸と企業活動の4要素の関係

これら4要素と、弊社が提唱する「DX進度マトリクス」との対比を考えると、マトリクス上D軸方向の進展(デジタル化)は、主に「業務プロセス」「経営資源」に注力して取り組んでいくことに対応する。
一方、X軸方向の進展(ビジネスイノベーション)は、「顧客提供価値」「利益方程式」に注力して変革を進めていくことに対応する。むろん、「顧客提供価値」「利益方程式」を変革する際には、既存の「業務プロセス」「経営資源」についても手を付けることが必要になってくる。

次に、顧客体験価値と利益方程式への着目から、あらたなビジネスモデルを発想する。
たとえば、顧客体験価値の高度化に重点的に着目する(利益方程式の高度化はさほど図らない)変革の一つが「オムニチャネル」といえる。自社商品・サービスを直接最終顧客に提供するなかで、稼ぎ方はあまり変わらないが、購買・利用体験におけるペインをデジタルで解消するような取り組みである。
一方、利益方程式の高度化を特に重点化する(顧客体験価値はあまり変わらない)変革の一つが「モジュールの提供者」になることである。企業活動において共通して必要な仕組みをサービスとして提供する取り組みである。

さらに、顧客体験価値の高度化と、利益方程式の高度化の双方を同時に図る変革の一つが「エコシステムの支配者」になることである。魅力的な売り手と買い手が集まり続ける場を作り、その場をコントロールし続けるビジネスモデルである。ここまで到達すると最も利益率が高くなることから、多くの企業にとって理想的ゴールとなる(図13)。

図13 デジタル時代のビジネスモデルタイプ

提言3 長期取組施策・短期実現施策の組み合わせでロードマップを描画

さて、自社に合ったDXのゴールに至る航路を選び取り、DXのゴールの詳細の絵姿を顧客体験と利益方程式の2軸で検討・設定した後に、そのゴールを実際にはどのような進め方で実現・達成するのかが重要になってくる。当社は、「長期取組施策」と「短期実現施策」を効果的に組み合わせてロードマップを策定した上で、その実際的推進過程を継続的にモニタリングすることを提唱している。
ここで言う「長期取組施策」とは、統合データベースの構築など、いったん決定・実施するとその後長期にわたって当該企業のDX推進の枠組みを規定してしまう施策である。要する費用・労力も多大なものになる場合が多い。したがって、当然ながら、その施策の検討・決定は慎重に進めなければならない。また、ロードマップ上では、DXのゴールに向かう道筋の背骨として表現されるような中心的施策になる。

一方、「短期取組施策」は、統合データベースのような基盤の上で活用するアプリケーション構築であったり、特定の業務を効率化するデジタルツールの導入であったり、あらたなビジネスモデルへの変革可能性を事前に検証するためのPoC的な取り組みであったりする。これらは、費用や労力は比較的小さく、全体のロードマップの中では随時機動的に実施される施策になるであろう。
また、D軸方向の進展に寄与する施策、X軸方向の変革に寄与する施策など、その効果も状況によってさまざまに異なるであろう。さらに、長期取組施策によって事前要件を規定した上で初めて着手できる場合もあれば、長期取組施策を検討するために先行して着手する施策の場合もあろう。

これらをまとめて、概念的には図14に示すようなロードマップを策定することが第一段階である。そして、このロードマップに沿って、各施策の進捗状況をモニタリングすることも重要である。ロードマップ策定時にはいくつか未知の情報があるため、各施策が完全に当初想定した通りに進捗するような完璧なロードマップを策定することは困難であり、取り組みを進める過程でロードマップの微調整・アップデートを図ることは避けられない。

図14 DXロードマップのイメージ

ビジネスイノベーションに向けた提言まとめ

以上、DX動向アンケート調査結果を踏まえて、ビジネスイノベーション実現に向けた3つの提言を示した。当然、実際の進め方は、各企業の置かれている状況に応じて、さまざまな施策を的確に組み合わせてカスタマイズする必要がある。こういった細部にまでこだわった活動計画づくりが、ビジネスイノベーション実現のために欠かせない。


キヤノンITソリューションズは、お客様のビジネス環境や経営戦略に関する”想い”を起点に、ビジネスデザインとビジネスサイエンスにより、お客さまとともに競争優位の確立に邁進します。この「共想共創ステーション」を通じて、私たちビジネスイノベーション推進センターの取組を随時発信しますのでご待ください。

筆者紹介

写真:ビジネスイノベーション推進センター センター長 増田 有孝
増田有孝
ビジネスイノベーション推進センター
エグゼクティブパートナー

野村総合研究所にて、経営・DXコンサルティングを担当。キヤノンITSに入社後、ビジネスイノベーション推進センターを立ち上げ、DXコンサルティング事業を指揮。コンサルタントの育成にも注力。

  • ビジネスイノベーション推進センター:VISION2025で掲げる「ビジネス共創モデル」を推進するために組成した組織。ビジネスとIT技術に長けた“ビジネスデザイナー”、数理技術に長けた“ビジネスサイエンティスト”から成る“DXコンサルタント集団”。

こちらの記事は、PDFでも閲覧ができます。

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