サプライチェーンの課題を解決する!エンジニアリングチェーンとの連携戦略キヤノンITソリューションズ 共想共創フォーラム2025イベントレポート
製造業のDXを推進するためには、「エンジニアリングチェーン」と「サプライチェーン」双方の各所におけるICTの活用が欠かせません。本セッションでは、PLM(Product Lifecycle Management)をプラットフォームとし、3DCAD・xRの連携により強化したエンジニアリングチェーンをサプライチェーンとつなぎ、設計・製造データを共有・活用することで期待できる業務変革について具体例を用いて紹介します。
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キヤノンITソリューションズ株式会社
製造ソリューション事業部 エンジニアリングソリューション技術本部 第一技術部
林 大輔
現代のサプライチェーンが抱える課題とその対応
製造業におけるサプライチェーンは、調達から製造、流通、販売までの一連のプロセスであり、企業活動の“生命線”です。しかし、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)な環境下では、以下のような課題が顕在化しています。
代表的な課題 | 取るべき対応 |
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原材料の調達不可/遅延リスク |
サプライヤの冗長確保 |
不測の操業停止や供給力不足 |
製造拠点の多重化/並行生産 |
在庫過剰・欠品リスク |
中間・製品在庫量の適正化 |
予測不可の突発輸送力不足 |
輸送力の平準化/適正化 |
消費者ニーズの多様化や嗜好の変化 |
需要波動に応じた適時計画修正 |
技術の継承と労働人口の低下 |
業務の形式知化(見える化) |
これらの課題に柔軟に対応するには、仕組みと体制の整備が不可欠です。その中の「不測の操業停止や供給力不足」、「在庫過剰・欠品リスク」、「消費者ニーズの多様化や嗜好の変化」、「技術の継承と労働人口の低下」については「エンジニアリングチェーンからのアプローチ」で解決が可能です。
エンジニアリングチェーンの役割と連携の重要性
エンジニアリングチェーンは、企画から設計、生産準備、製造、保守までの“設計を中心とした一連のプロセス”であり、製造業の上流工程を支える重要な仕組みです。
エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携
経済産業省が発行した「2020年版ものづくり白書」では、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンの連携がDX推進の鍵とされており、以下のような取り組みが紹介されています。
- 顧客の使用データをフィードバック・分析し、新しい製品企画に活かす「企画支援」
- リアルタイムシミュレーションやモデルベース開発による「設計支援」
- サプライチェーン連携による「生産最適化」や「多品種少量化」など
2024年版では、組織・部門間の壁を越えた最適化のため、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンにおける迅速かつ正確な情報共有が求められており、業務システム間のデータ連携が重要であると述べられています。
- ERP(経営資源管理)とPLM間の連携
- PLMとMOM(製造オペレーション管理)/MES(製造実行システム)間の連携
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出典:経済産業省 「2020年版 ものづくり白書」 (2020年5月)、経済産業省 「2024年版 ものづくり白書」 (2024年5月)
エンジニアリングチェーンからのアプローチ

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フロントローディングの実施
製品の品質とコストは、仕様変更の自由度が高い設計段階で80%が決まるため、作業負荷を上流に移す「フロントローディング」を実施することで製品の品質向上や出図後の設計への手戻りを削減することが重要です。そのためには、プロセスや体制を可視化し、ノウハウをデジタル化して、誰もが活用できる情報基盤を構築することで業務負荷の配分を最適化をすることが前提となります。
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PLMシステムの導入と活用
PLM(Product Lifecycle Management)システムは、製品の企画から設計、製造、保守までの情報を一元管理する仕組みです。PLMを導入することで、E-BOM(設計部品表)、M-BOM(製造部品表)、BOP(工程情報)などの「ノウハウをデジタル化」したデータを管理し、サプライチェーンとの連携が可能になります。
特に、BOPモジュールを活用することで、設計段階から製造工程やコストを意識したシミュレーションが可能となり、フロントローディング(上流工程への業務負荷の移行)を実現できます。
こうしたアプローチによって「品質・コストの作りこみ」と「調達・製造の早期検討」が可能となり、以下のような成果が期待できます。
- 工程の適正化
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コスト削減
- 生産性向上
- リードタイム短縮
製造業のDXを支える、キヤノンITソリューションズのソリューション
キヤノンITソリューションズでは、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの両面から支援するソリューションを展開しています。
エンジニアリングチェーンを支援する「エンジニアリングDX」
「エンジニアリングDX」は、製品開発の情報をPLMシステムで一元管理し、設計から製造準備までのプロセスを可視化・最適化するソリューションです。
- CADデータやセンサー情報を統合し、IoTやxR技術(AR/MR)を活用して現場の状況を可視化します。
- 業務プロセスの変革を推進し、属人化の解消やフロントローディング(上流工程への業務シフト)を実現します。
- PLM-CAD連携インターフェースにより、品番の自動反映や3D情報の一括登録が可能。設計変更の前後比較や部品の価格帯別色分け表示など、視覚的にわかりやすい機能も充実しています。
この「エンジニアリングDX」の中核を担うのが、mcframe PLMです。
サプライチェーンを支援する「AvantStage」
「AvantStage」は、製造業向けの基幹業務トータルソリューションです。各業務分野で高い評価を受けている業務システムパッケージを組み合わせ、お客さまの業務方式や運用形態に最適な構成で導入します。
- 生産・販売・原価管理システムをコアに、需要予測、需給計画、生産スケジューラ、会計・人事・勤怠などを疎結合で連携。
- ベスト・オブ・ブリード型の導入により、必要な機能を、必要な形で、適切なコストで提供します。
- サプライチェーン全体の効率化と柔軟性を高め、変化に強い業務体制を構築します。
この「AvantStage」の中核を担うのが、「mcframe 7」です。
mcframeファミリーによる一気通貫のモノづくり支援

「mcframe PLM」と「mcframe 7」は、フォーマットや運用が確立されており、mcframe PLMのBOPモジュールにより、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの情報を速やかに双方向連携できます。
- mcframe PLMで作成したM-BOMや工程フローをBOPなどの情報をmcframe 7に連携。
- mcframe 7に蓄積された原価や数量、工数などの実績をmcframe PLMに連携。
- 実際原価を用いた複数パターンの原価シミュレーションが可能。
PDMとPLMの連携による業務効率化

PLMシステムは、製品の諸元や形状などの情報である「E-BOM」や「3Dデータ」を管理しますが、その基となるCADデータや設計情報は、PDMシステムで管理しています。両システムを連携させるには、品番の整合性やCADデータの変換・登録が必要です。キヤノンITソリューションズではPLM-CAD連携インターフェースを提供し、CAD/PDMとPLMのデータを迅速かつ正確に連携させ、3Dデータの全社活用を促進。エンジニアリングチェーンのDXを力強く支援します。
実績紹介:導入企業の声
セラミック・電子部品業界
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導入背景:情報の散在と属人化が業務改善の障壁に
お客さまは、急速に変化する顧客ニーズに対応するため、多品種少量の製品開発を求められる厳しい環境下にありました。トップダウンでデジタル技術を活用した業務改善を進めていたものの、製品の設計から製造までの情報が複数のシステムや個人PCに散在しており、属人化された情報管理が大きな課題となっていました。
この課題を解決するため、製品情報の一元化を目的にPLM導入を決断。2か月間のPoC(概念実証)を経て、柔軟な構成管理と業務拡張性に優れた「mcframe PLM」が採用されました。 -
導入効果:情報の一元化と業務生産性の向上
mcframe PLMの導入により、製品情報が一元管理され、誰でも迅速に必要な情報へアクセスできるようになりました。これにより、情報探索の時間が削減され、業務生産性が向上しました。さらに、mcframe PLMではM-BOMとBOPが常に横連携しているため、工程をチャート図で視覚的に確認できるようになり、業務改善の土台が構築されました。こうして、多品種少量生産への対応力が強化されました。
グループ企業内の製造部門
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導入背景:情報共有の属人化と連携不足が課題に
お客さまは、グループ企業内で電子部品の製造を担っており、すでにERPを導入済みでした。しかし、製造側と設計開発側の間で情報を共有する仕組みがなく、面識のある担当者同士による属人的なやり取りに頼っている状況でした。その結果、製造側は設計開発側に確認しなければ部品・部材の仕様を把握できず、設計開発側も製造実績を迅速に確認できないため、部品選定の最適化やコスト妥当性の検討が十分に行えないという課題を抱えていました。
このような状況を改善するため、グループ全体で活用できる「統合部品表」の構築を目指し、PLM導入を検討。1か月間のPoCを経て、柔軟な構成管理と拡張性に優れた「mcframe PLM」が採用されました。 -
導入効果:情報の一元化と業務プロセスの再構築
mcframe PLMの導入により、製造側と設計開発側の情報が一元化され、属人的なやり取りから脱却。新たな業務プロセスの構築と並行して本番運用が開始され、情報共有のスピードと精度が大幅に向上しました。現在は、グループ内の製造・保守業務の省力化・自動化を目指し、M-BOMの実装を進めています。
装置開発企業
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導入背景:新技術への挑戦と短納期化への対応
お客さまは、競争環境の急激な変化に伴い、「新しい技術への挑戦」や「短納期化」が急務でした。しかし、装置開発においては試作品の作成が容易ではなく、“モノがない”段階で製造部門の意見を取り込むことが困難な状況にありました。その結果、装置完成または設置した段階で現場から手直しの指摘を受けることが多く、納期遅れやコスト増加、製造現場の負担が発生していました。
この課題を解決するために選ばれたのが、MR(Mixed Reality)システム「MREAL」です。MREALは、現実映像とCGを違和感なく融合するビデオシースルー方式を採用しており、実寸大の仮想シミュレーションを可能にします。これにより、設計段階で製造担当者の意見を取り入れる環境が整い、手戻りの削減と設計精度の向上が期待されました。
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導入効果:リードタイム短縮とコスト削減の実現
MREALの導入により、以下のような成果が得られました。
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✓設計段階での製造部門との連携強化
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✓手戻りの削減によるリードタイムの短縮とコストの削減
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✓現場での実寸大シミュレーションによるニーズの的確な把握
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✓付加価値の高い装置開発の実現
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まとめ

本日のセミナーでは、製造業が直面するサプライチェーンの課題に対して、エンジニアリングチェーンからのアプローチがどのように有効かを、具体的な事例を交えてご紹介しました。
PLMシステムを活用することで、設計と製造の情報を連携させ、製品の「品質・コストの作りこみ」や「調達・製造の早期検討」といったフロントローディングが可能になります。これにより、工程の最適化、コスト削減、生産性向上、リードタイム短縮、さらには在庫の適正管理や多品種少量生産の促進など、製造業の根幹に関わる課題の解決につながります。また、設計・計画業務の属人化についても、PLM導入によるプロセスの可視化とデジタル化によって、組織全体での情報共有と業務の標準化が進みます。
キヤノンITソリューションズは、お客さまとともに課題に挑み、未来のモノづくりを支えるパートナーでありたいと考えています。サプライチェーンとエンジニアリングチェーンの両面から、業務の変革と価値創出を支援するために、私たちはこれからも技術と知見を磨き続けてまいります。
設計、製造、サービスまでを一つながりにする
製品ライフサイクル管理/製品情報データ管理・PLMソリューション
CADに密に統合したPDMツールから、マルチCADに対応したPDM/PLMシステムまで、 お客さまのご要件に幅広い製品とサービスで対応していきます。 製造業のお客さまの製品ライフサイクル全般にわたる課題解決を支援します
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