第4回 「報酬・料金等に係る源泉徴収制度について」|報酬・料金等の具体的範囲税務会計業務のポイント
公開日:2020年8月1日
源泉徴収の対象となる報酬・料金等については、個人の労務提供により生ずる所得である点や、その支払形態が雇用契約に基づく給与と類似していることから、誤解が生じやすいところです。また、支払を受ける者からの請求書等に源泉所得税の記載がなくても、それが対象となる報酬・料金等に該当すれば、源泉徴収をしなければなりません。
税務調査においても論点となる事項であり、徴収漏れを指摘された場合には、本税のみならず、高額な不納付加算税や延滞税も賦課されますので注意が必要です。
目次
報酬・料金等の具体的範囲
源泉徴収の対象となる報酬・料金等の範囲は多岐にわたります(所法204①一~八)が、ここでは、一般的に支払の頻度が高い代表的なものをご紹介いたします。
根拠法令 | 区分 | 源泉徴収税額の計算方法 | その他報酬・料金等に該当する例 | 類似するが該当しない例 |
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所法 204①一 |
原稿料、講演料、デザインの報酬、著作権・工業所有権の使用料等 (注1) | 支払金額×10%(同一人に対する1回の支払金額のうち100万円超の部分については20%)(注2) |
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所法 204①二 |
司法書士、土地家屋調査士又は海事代理士の業務に関する報酬又は料金 (注1) | (支払金額-1回の支払金額につき1万円)×10%(注2) |
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弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、企業診断員、建築士、弁理士、不動産鑑定士、技術士等の業務に関する報酬又は料金(注1) | 支払金額×10%(同一人に対する1回の支払金額のうち100万円超の部分については20%)(注2) |
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(注1)あくまで、支払いを受ける者が個人(居住者)である場合に報酬・料金等として源泉徴収の対象となります。支払いを受ける者が内国法人である場合には、源泉徴収をする必要はありません。
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(注2)原則として、消費税等の額を含めた金額を支払金額とします。しかし、支払いを受ける者からの請求書等において消費税等の額が明確に区分されている場合には、消費税等の額を除いた金額を支払金額として源泉徴収の対象とすることができます。
Q&A
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Q1当社は広告代理店ですが、先月当社を退職した元従業員A氏(デザイナー)と今月より新たに2年間の業務委託契約を締結し、従前と同様に広告デザインの製作を依頼しました。
広告デザインの製作は、所法204①一に規定するデザインの報酬に該当しますので、報酬として定められた源泉所得税を控除した残額をA氏に支払う予定ですが、源泉徴収の方法としてはこれで問題ないでしょうか。 なお、当社はA氏との間で業務委託契約書を作成し、保存しています。 -
A1
当社とA氏との間に業務委託契約としての実態が備わっており、A氏への報酬が事業所得と判断される場合には、デザインの報酬として源泉徴収して問題ありません。しかし、業務委託契約としての実態が備わっていない(実態が雇用契約と変わらない)場合には、たとえ形式的に業務委託契約書を作成し、保存していたとしても、給与所得と認定されてしまうリスクがあります。給与所得と認定された場合には、給与として源泉徴収を行う必要があります。
事業所得と給与所得の判定の要素は次のとおりです。実務上、これらを総合的に勘案して判断することになります。事業所得(報酬) 給与所得(給与) ①支払を受ける者(A氏)に代わって他人が当該契約に係る業務を行うことを認めている。 ①支払を受ける者(A氏)に代わって他人が当該契約に係る業務を行うことを認めていない。 ②業務の遂行や個々の作業に指揮監督をしない。 ②業務の遂行や個々の作業に指揮監督をする。 ③引渡しの終わらない完成品が不可抗力のため滅失した場合等に、支払を受ける者(A氏)が権利として支払者(当社)に対して報酬の請求ができない。 ③引渡しの終わらない完成品が不可抗力のため滅失した場合等に、支払を受ける者(A氏)が権利として支払者(当社)に対して報酬の請求ができる。 ④資材を提供していない。 ④資材を提供している。 ⑤作業用具を供与していない。 ⑤作業用具を供与している。 ⑥空間的・時間的な拘束がない。 ⑥空間的・時間的な拘束がある。 ⑦報酬の計算単価が作業の完成に応じている。 ⑦報酬の計算単価が時間を根拠としている。 -
Q2当社はこのたびホームページの作成を雇用関係のないB氏(プログラマー)に依頼したのですが、この場合報酬として源泉徴収が必要なのでしょうか。
また、必要な場合には、何を根拠として源泉徴収すべきなのでしょうか。 -
A2
ホームページの作成料自体は、所得税法204①一~八に掲げられていませんので基本的には報酬として源泉徴収の対象とはなりませんが、その中にデザインの対価が含まれている場合には、その部分を合理的に見積もり、デザインの報酬として源泉徴収が必要になります。
しかし、そのデザイン料部分が極めて少額であると認められる場合には、強いて源泉徴収しなくても差し支えありません。
著者プロフィール
アクタス税理士法人
東京と大阪を中心に計4拠点をもつアクタスグループの一員。 アクタス社会保険労務士法人、アクタスHRコンサルティング、アクタスITソリューションズと連携し、 中小ベンチャー企業から上場企業まで、顧客のニーズに合わせて、税務会計、人事労務、システム導入支援の各サービスを提供しています。