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リスキリングと人事DXの進め方第2回 なぜ「リスキリング」が進まないのか?リスキリングと人事DXの進め方

公開日:2025年3月10日


帝国データバンクが2024年11月に発表した「リスキリング(学び直し)に関する企業の意識調査」によると、リスキリングに「取り組んでいる」、「取り組みたいと思う」と回答した企業は、合わせて26.1%でした。
それ以外の73.9%の企業は、「取り組んでいない」「言葉も知らない」等と回答しているわけで、リスキリングに対する社会的関心が高まってきたものの、実際にはリスキリングが進んでいるとは言えません。
なぜ、日本企業においてリスキリングが進まないのでしょうか?
今回は、「リスキリングが進まない理由」と「企業、従業員が取るべき対応」について、解説します。

目次

企業がリスキリングを推進しない理由

リスキリングが進まない最大の理由として、「経営者が、リスキリングは企業側にメリットがない、それどころかデメリットがある、という思い込みを持っていること」が挙げられます。この思い込みとは、具体的にいえば、次のようなものです。

  • 従業員が高度なスキルを習得できるはずがない、高度なスキルを習得しても仕事の役に立たない

    リスキリングとは「世間に通用する、新しいスキル(例えば、IT分野のスキルなど)を学ぶこと」を意味します。
    このように言われると、経営者は、最初に「そんな高度なスキルを従業員が習得できるはずがない」、「仮に高度なスキルを習得できたとしても、仕事の役には立たない」という不信感を持ってしまいます。そこから、経営者は、「リスキリングを進めても、企業にとっては何のメリットもない(それどころか、無駄なコストや時間がかかり、デメリットが生じる)」という思い込みを持つようになります。

  • リスキリングは、優秀な従業員の退職を促すことになる

    リスキリングに成功した従業員は、「世間に通用するスキル」を習得したわけですから、そのスキルを発揮できる他社に転職する可能性が高くなります。経営者は、「リスキリングを推進すると、それに成功した従業員の転職が増えるはずだ」という思い込みを持ち、そこから「企業として、優秀な従業員の退職を促すリスキリングなど行わないほうが良い」と考えます。

このような経営者の思い込みから、企業は、リスキリングを推進しないという方向に流れてしまうのです。

従業員がリスキリングに取り組まない理由

従業員は、経営者が前述したような思い込み(リスキリングに対する悪い印象)を持っていることを敏感に感じ取ります。ですから、(転職等の明確な目的が無い限り)自主的にリスキリングに取り組もうとはしません。
従業員の中には、自主的にリスキリングに取り組もうとする者も出てくるでしょう。しかし、その従業員は、上司から「勉強する時間があるならば仕事をしろ」などと嫌味を言われたり、同僚から「近いうちに転職するんじゃないか」などと陰口を叩かれたりして、職場で嫌な思いをするかもしれません。
「自分でリスキリングに取り組んだところで、会社が高く評価してくれるわけではないし、むしろ職場内で浮いた存在になってしまうかもしれない…」と、多くの従業員がリスキリングに対してこのような不安を抱えています。
この不安が消えない限り、従業員はリスキリングに取り組もうという気にはなれないのです。

企業も従業員もリスキリングに取り組まざるを得ない

このように、企業側、従業員側双方が、リスキリングに取り組まない理由を持っています。
しかし、猛スピードで技術革新が進む中、企業も従業員も、リスキリングに取り組まなければ、時代から取り残されてしまいます。企業も従業員も、もはやリスキリングに取り組まざるを得ない状況になっているのです。
そうであれば、企業は、メリットが出てくるようにリスキリングを推進すること、そして従業員は、会社を信じて自主的にリスキリングに取り組むということが、それぞれの「取るべき対応」となります。
それでは、従業員が高度なスキルを習得し、その従業員が退職しないようにするために、企業は、どのようにリスキリングを進めていけば良いのでしょうか?
また、従業員が自主的にリスキリングに取り組むようにするには、企業として何をするべきでしょうか?
次回以降のコラムでは、「リスキリングの効果的な進め方」について、事例を交えて解説していきます。

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著者プロフィール

深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。