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リスキリングと人事DXの進め方 第8回 リスキリングのステップ5 「スキルや習得方法の見直し」リスキリングと人事DXの進め方

公開日:2025年9月1日


前回ご説明した「ステップ4 スキル情報の収集と活用」によって、リスキリングの導入、定着化が完了したことになります。しかし、ここで安心してはいけません。技術革新が進む中、職務遂行に必要なスキルの更新が常に行われ、また、新しいスキル習得方法が次々と産み出されています。会社は、リスキリングの導入・定着後も、定期的にリスキリングの対象となるスキルやその習得方法を見直していくことが必要です。
今回は、リスキリングを進めるときの最終段階となる「ステップ5:スキルや習得方法の見直し」について説明します。

目次

リスキリングの効果測定  

リスキリングの導入後、会社は、従業員の研修受講や資格取得などに関するデータを定期的に集計し、リスキリングの効果を測定することが必要です。ここで集計するデータとしては、次のものが挙げられます。

  • 従業員の研修等受講時間
  • 研修受講割合(=1年間の研修受講者数÷全従業員数×100)
  • 従業員 1人当りの研修費用
  • 公的資格を保有する従業員数

これらのデータについて、直近3~5年度の推移を見て、「リスキリングを導入したが、研修受講時間や受講者数が増えていない」「公的資格保有者数が減っている」などの問題が生じていたら、その要因を洗い出して、改善策を講じることが必要です。

リスキリングの効果測定を行ったら、その結果を社内外に公表するべきです。リスキリングの効果に関する情報を公表することにより、従業員は研修を自主的に受講するようになりますし、また、社外から「人材育成に熱心な会社」という評価を得て、採用力の強化を図ることもできます。

【 リスキリングの効果測定の公表例 】
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対象となるスキルの見直し

技術革新が進む中、業務の進め方や従業員に求められるスキルは常に変化を繰り返しています。したがって、会社は、リスキリングの対象となるスキルの見直しを毎年実施して、新たに求められるスキルを習得するための研修、業務の変化に的確に対応できる研修などを、研修メニューに追加していくことが必要です。

セミナーや通信教育を運営している会社は、毎年、技術動向や顧客ニーズを踏まえて、新しい研修プログラムを開発し、その会社のウェブサイトやパンフレットなどに掲載します。まずは、これらの情報を参考にして、自社のリスキリングの対象となるスキルの見直しを行ってみると良いでしょう。

会社が定期的にリスキリングの対象となるスキルを見直していること、新たな研修メニューを提示していることは、従業員にスキルのアップデートの必要性を意識させて、自主的なリスキリングを促進する効果があります。会社は、リスキリングを導入した段階で安心せずに、最新の技術動向、業務の進め方の変化および現場の声などの情報を収集して、リスキリングの対象となるスキルを定期的に見直していくことが必要です。

スキル習得方法の見直し

以前、従業員のスキル習得方法は、「職場における上長からの業務指導(いわゆる OJT)」と「会社が実施する集合研修の受講」ぐらいしかありませんでした。ところが、近年は、「e-ラーニングやオンライン研修の受講」「ビジネススクールへの通学」など、新しいスキル習得方法が次々に出現してきています。会社は、スキル習得方法の見直しを行って、従業員一人ひとりが自分に合った方法を選べるようにしていくことが必要です。

また、スキル習得に対する会社の支援策として、「資格取得者の特別昇格」や「教育訓練休暇の付与」などの新しい仕組みの導入も進んでいます。他社が導入しているスキル習得支援策に関する情報を収集し、良い仕組みについては、自社にも積極的に取り入れていくべきです。

なお、従業員のスキル習得に対する支援を行っている会社、あるいはリスキリングに取り組む従業員に対して、国が助成金を支給することもあります。会社は、国の助成金の活用も視野に入れながら、従業員のスキル習得方法を見直していくようにすると良いでしょう。

これまで5回にわたって説明してきたステップを踏めば、皆さんの会社でも、リスキリングを効果的に進めることができます。本稿を参考にして、皆さんの会社でも、リスキリングを進めてみてください。

さて、本稿の最後で述べたとおり、従業員のスキル習得方法を見直すときには、国が支給する助成金の活用について検討することも必要です。そこで、次回は、「リスキリングに使える公的支援(助成金など)」について解説します。

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著者プロフィール

深瀬勝範(ふかせ かつのり)

Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。