リース管理台帳を表計算ソフトで対応する上でのリスクと対処方法 第1回公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
公開日:2026年10月16日
新リース会計基準に準拠して、適時・適切に会計処理を行うためには、オンバランスするリース取引を管理する「リース管理台帳」が必要になります。
これは、会計監査に回答するためにも重要な台帳です。
オンバランスが必要となるリース取引が、それほど多くない会社では、出費を抑えるために、市販のソフトやサービスを利用しないで、MicrosoftのExcelなどの表計算ソフトを利用して、自社でリース管理台帳を構築する会社も多いでしょう。
しかし、リース管理台帳を表計算ソフトで構築する場合には、いくつかのリスクがあります。
今回は、リース管理台帳を表計算ソフトで構築する場合のリスクを整理して、そのリスクに対応するための対処方法について解説します。
リース管理台帳を表計算ソフトで構築する場合のリスクは、以下の5つに整理できます。
-
関数に関する課題
-
情報の安全性
-
属人性がある
-
環境変化への対応
-
J-SOXへの対応
リスクがあっても、個々のリスクに対応すれば、表計算ソフトでも十分にリース管理台帳を構築できます。
関数に関する課題
新リース会計基準に準拠して会計処理を行うためには、さまざまな計算をする必要があります。例えば以下のような項目です。
-
(1)リース負債の計算:将来支払うリース料を現在価値に割引計算する。
-
(2)使用権資産の減価償却計算:使用権資産の減価償却費を算出する。
-
(3)支払利息の計算:リース負債の前月末の残高に利率を乗じて利息計算をする。
-
(4)見積もり変更時の計算:契約内容の変更や自動更新などにより、リース期間や支払リース料が変わることがあります。特に不動産賃貸借契約の場合には、契約ごとに異なるタイミングで見積もり変更が必要となります。
また、現在利率が上昇傾向にあることから、割引率も変わる可能性が高いと思われます。したがって、新リース会計基準を適用した初年度から、見積もり変更をする必要が出てくる可能性が高いと考えられます。
このような変更があると、以下のような対応が必要になります。-
a.(1)のリース負債を再計算する。
-
b.再計算前のリース負債残高とa.の再計算後の金額の差額を計算する。
-
c.再計算前の使用権資産の帳簿価額にb.を加える。
-
d.a.の再計算後のリース負債の金額から支払利息を計算する。
-
e.c.の使用権資産の帳簿価額から減価償却費を計算する。
-
(1)から(4)の計算は、契約ごとに異なるため、一つの関数だけでは対応できないと思われます。例えば、フリーレント期間があったり、リース料の支払いが、前払いであったり、月次払いではなかったりすると、異なる関数で計算する必要があります。
したがって、契約ごとに適切な関数を使う必要があります。
リース会計に係る会計仕訳を間違えないようにするためには、表計算ソフトで構築したファイルの内容を、作成した担当者とは別の担当者によって、検証することが大切です。
もし、このような検証をしないで、契約をすべて登録して、リース負債、支払利息、減価償却費などを計算して会計処理をして、決算を締めて、会計監査を受けたタイミングで、ミスが発覚すると、決算の真っ最中に、(1)から(4)の計算をし直さなければならなくなります。
数年後の監査で関数が間違っていることが発覚して、「遡及処理」が必要になると最悪です。
リスクへの対処方法
上記のリスクに対処するためには、以下のような対応をする必要があると考えられます。
-
(1)現状の経理スタッフの表計算ソフトに関するスキルレベルの調査:
複雑な計算への対応をするためには、表計算ソフトの高度な関数やマクロを使って対応することになるので、Excelなどの表計算ソフトの機能や関数などの知識を十分に有した経験豊富な担当者が必要になります。
したがって、まずは、現在の経理スタッフについて、表計算ソフトのスキルレベルを調査して、各スタッフがどのくらいの知識や経験を持っているのかを確認することが望まれます。 -
(2)高いスキルレベルに達しているスタッフがいない場合、表計算ソフトに関する高いスキルのある人材を育成:
(1)の調査で現在の経理スタッフには、表計算ソフトに対する十分な経験や知識を持つ人材がいないことがわかったら、まずは、現在の経理スタッフの中から、表計算ソフトの研修や講習を受講するスタッフを決めて、当該スタッフのスキルレベルを上げて対応することが考えられます。
-
(3)社内人材を育成することが困難な場合、表計算ソフトに関する高いスキルのある人材を、中途採用などで対応する必要があります。
他社で、IFRS16号対応のために、リース管理台帳を表計算ソフトで構築した経験のある人材が最適です。
-
(4)【リスクの内容】の(1)から(4)で説明したように、いろいろな関数を契約ごとに設定して計算処理をかけるので、リース管理台帳ファイルの負荷はかなり高くなることが考えられます。
したがって、PCのスペックについては性能が高いものが望まれます。
構築したリース管理台帳を開いたり、保存したり、一つの項目を変更したりした際に要する時間が、フラストレーションを起こさない程度に快適に利用できるかどうか、現行のPCを使って、テストデータを利用するなどして確認することが望まれます。 -
(5)表計算ソフトで対応する以上、関数の設定間違いや入力間違いなどに気づきにくいので、決算ごとに計算結果についてチェックをすることが望まれます。
次回以降は、リスクの2以降について解説します。
著者プロフィール
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。

