「紙」のエビデンスを電子的に保存する(その1:何を電子保存するか)公認会計士 中田清穂のインボイス制度と電子帳簿保存法の解説講座
公開日:2023年4月19日
2月の本コラムで、「紙」のエビデンスを保存する方法としては、「紙」での保存の他に、「電子的に」保存することが認められていることについて触れました。
相手先との間でエビデンスを電子的にやりとりするのではなく、「紙」でやり取りするケースでは、「電子的」に保存する義務はありません。
「紙」でやりとりするエビデンスは、「紙」で保存すれば良いのです。
ただ、後々の税務調査対応工数、エビデンスを探す工数、「紙」をファイリングする事務用品代や人件費などを節減するなどの目的で、「紙」ではなく、「電子的」に保存することも認められています。
「紙」でやりとりするエビデンスを「電子的」に保存する方法を、「スキャナ保存」と言います。
今までエビデンスを「紙」のまま保存していて、今後「スキャナ保存」に変更する場合、税務署への申請手続きは必要ありません。
「スキャナ保存」に変更しようと決めたときから、電子帳簿保存法の要件に従って保存していけば良いのです。
目次
1.「紙」を「電子的」に保存できるエビデンス(スキャナ保存の対象となる書類)の例
「紙」でやり取りしているエビデンスは、一部を除き、全て「電子的」に保存できます。
一部を除きの「一部」というのは、「棚卸表、貸借対照表及び損益計算書などの計算、整理又は決算関係書類」で、社内で作成された書類です。
つまり、社内で作成された資料ではなく、外部の会社等とやり取りしたエビデンスは全て「電子的」に保存できるのです。
従って、取引相手が作成したものを入手するケースとしては、以下のようなエビデンスが含まれます。
-
(1)請求書
-
(2)見積書
-
(3)納品書
-
(4)注文書
-
(5)領収書
など
また、自社が作成して取引相手に渡すケースとしては、以下のようなエビデンスが含まれます。
-
(1)請求書の控え
-
(2)見積書の控え
-
(3)納品書の控え
-
(4)注文書の控え
-
(5)領収書の控え
など
そして、取引相手と自社が共同で作成する「契約書」も、「電子的」に保存することができます。
2.「紙」保存と「スキャナ保存」の混在
「紙」での保存から、スキャナ保存に変えようとする場合でも、すべての書類を対象にする必要はありません。
一部は従来通り紙で保存し、一部はスキャナ保存で「電子的」に保存するといった方法も可能です。(電子帳簿保存法第4条第3項)
例えば以下のような方法です。
-
(1)契約書は紙で保存するが、そのほかの請求書や領収書などはスキャナ保存する
-
(2)経理部で入手するエビデンスは紙で保存するが、営業部などの現場ではスキャナ保存する
-
(3)営業部第2営業課で入手するエビデンスは紙で保存するが、それ以外のエビデンスはスキャナ保存する
つまり、一部の「種類」や一部の「部署」など、限定するエビデンスの対象を明確にして、一部のみスキャナ保存することができるのです
3.「スキャナ保存」を限定的に進める場合の考え方
スキャナ保存する対象をどのように絞るかは、以下の項目を参考にすると良いでしょう。
-
(1)毎月の件数が少ない「種類」や「部署」から始める
-
(2)スキャナ保存に切り替える際に、コストのかからないエビデンスから始める
(例:SuperStreamに保存できるエビデンスなど) -
(3)経理部に協力的な「部署」のエビデンスから始める
-
(4)比較的若い社員が多い「部署」など、スキャナ保存を進めるにあたって、抵抗感が少なく、柔軟に対応できる「部署」から始める
など
ただ、事務処理の混乱や間違いを防ぐために、社内規定を作成して、どの「部署」のどの「種類」のエビデンスをスキャナ保存の対象にするのかを明記しておくと良いでしょう。
これはいわゆる「事務処理規程」と言われるものです。
「事務処理規程」は、作成することは義務ではありませんが、社内手続きについて、不正や間違いを防ぐためには、作成することが望まれます。
国税庁のサイトでひな形が公表されているので、参考にすると良いでしょう。
参考:「スキャナによる電子化保存規程」
ただ、このひな形はちょっと厳格な内容になっていて、そもそも作成義務のある文書ではありませんので、「社内の不正や間違い防止」という目的から外れない程度のものにして利用すれば良いと思います。
著者プロフィール
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。