第2回:営業キャッシュ・フローの意味~本業の「稼ぐ力」をお金の動きで確かめる~知っておきたいキャッシュ・フローの基礎知識
公開日:2026年9月9日
前回は、キャッシュ・フロー計算書(CF計算書)が、損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)をつなぐ「架け橋」であり、営業活動・投資活動・財務活動という3つの区分から成り立っていることをお話ししました。第2回となる今回は、この3区分のうち、会社の本業の実力を映し出す「営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)」を取り上げます。
目次
1.営業CFは「本業でどれだけ現金を稼いだか」を映す
営業CFとは、本業の営業活動によって、どれだけ現金を稼ぎ出したかを示す区分です。商品やサービスを売り、その代金を回収し、仕入れや経費を支払うという、日々の事業活動そのものから生み出される現金の増減がここに現れます。会社が長く事業を続けていくためには、この営業CFが継続的にプラスであることが欠かせません。どれほど立派な設備を持ち、どれほど多くの借入枠を確保していても、本業でお金を稼げていなければ、いずれ資金は尽きてしまうからです。
前回、現金は事業を維持するための血液であり、キャッシュ・フローはその血液の循環であるとお話ししました。営業CFは、この血液循環の中でも、いわば心臓そのものにあたります。投資活動や財務活動によるキャッシュ・フローが、輸血(資金調達)や設備という体づくりへの支出であるのに対し、営業CFは、会社が自らの力で血液をつくり出せているかどうかを映し出す指標です。心臓が弱っている会社は、いくら外部から輸血を受け続けても、いずれ立ち行かなくなってしまいます。だからこそ、営業CFのプラスは、健全な会社であるための基本条件とされているのです。
2.間接法でみる、営業CFの計算プロセス
営業CFの求め方には、実際の入出金を一つひとつ積み上げていく「直接法」と、損益計算書の利益からスタートして、現金の動きに合わせて調整を加えていく「間接法」の2つがあります。実務では、作成の手間が少ない間接法が広く使われています。
間接法では、まず「税引前当期純利益」を出発点に置きます。この利益は、あくまで会計上のルールに従って計算された数字であり、そのままでは現金の増減額とは一致しません。そこで、減価償却費のように支出を伴わない費用を利益に足し戻し、売掛金や商品(棚卸資産)、買掛金といった、営業活動に伴って増減する資産・負債の変化額を加減し、さらに法人税等の支払額を差し引くことで、実際の現金の動きに近づけていきます。この一連の調整プロセスこそが、間接法による営業CFの計算方法です。
言い換えれば、間接法とは、会計上の「利益」という数字を土台にしながら、そこから現金を伴わない項目(非資金費用)を取り除き、現金を伴うのにまだ利益に反映されていない項目を加えていく、いわば「利益から現金への翻訳作業」なのです。この翻訳作業の中身を理解しておくと、決算書のどこを見れば資金繰りの実態を把握できるのかが、自然と分かるようになります。
なお、実務では支払利息のように、損益計算書上は営業外費用として表示されている項目についても、営業活動の一環として営業CFの調整項目に含めるケースが少なくありません。今回の設例では話をシンプルにするため、あえて支払利息を除いて考えていますが、実際の決算書を読む際には、こうした項目がどちらの区分に含まれているかにも注意しておくとよいでしょう。
言葉だけではイメージがつかみにくいので、間接法の基本形を示した表を見てみましょう。

3.B/SとP/Lの動きから、営業CFを求めてみる
先ほどの表は、調整項目がすべて0の最も単純な形でした。ここからは、簡単な設例で一緒に確認していきましょう。ある会社(A社)の第1期について、期首と期末の貸借対照表、そして損益計算書の情報をもとに、営業CFを4つのステップに分けて求めていきます。
ステップ1
ステップ1は、すべての取引が現金で行われたと仮定した、最もシンプルな状態です。
売上高250、売上原価▲150、営業費用▲50で、当期純利益は50。この段階では、減価償却費も売掛金・商品・買掛金の増減もないため、税引前当期純利益の50がそのまま営業CFの50となり、期首の現金残高200が期末には250まで増えています。利益の金額と、現金の増加額がぴったり一致する、いわば教科書どおりの状態です。

ステップ2
ステップ2では、ここに減価償却費20を計上します。
減価償却費は、建物などの固定資産の価値を、使用期間にわたって費用として配分していく会計上の手続きです。実際にはこの期に現金が出ていくわけではないため、当期純利益は30に減っても、営業CFの計算では減価償却費20を利益に足し戻します。その結果、営業CFは50のまま変わりません。利益は減っているのに、現金の動きは変わらない。ここに、利益と現金がずれる典型的な理由のひとつが表れています。

ステップ3
ステップ3では、売掛金の増加▲30、商品(棚卸資産)の増加▲20、買掛金の増加+10を加味します。売上や仕入れが計上されていても、代金が未回収・未払いのまま残っている分だけ、利益と現金の間にズレが生じます。この結果、営業CFは10まで減少し、期末の現金残高は210にとどまります。当期純利益は30のままであるにもかかわらず、現金の増え方は大きく鈍っていることが分かります。

ステップ4
ステップ4では、法人税等の支払額▲10を反映させます。法人税等は、利益に対して計上される段階と、実際に納付する段階とでタイミングがずれることが多く、ここでも現金の動きを個別に調整する必要があります。最終的に、営業CFはちょうど0となり、期首時点で200だった現金残高は、期末になっても200のまま変わらないという結果になりました。当期純利益自体は20というプラスの数字が出ているにもかかわらず、営業活動から生み出された現金はゼロだったのです。

このように、同じ「利益が出ている」会社であっても、売掛金や在庫の増減、減価償却費、税金の支払いタイミングによって、実際の現金の動きは大きく変わってきます。営業CFという指標を通して初めて、損益計算書の数字だけでは見えなかった、本業の「稼ぐ力」の実態が浮かび上がってくるのです。
税引前利益に減価償却費を足し戻し、売掛金・商品・買掛金の増減を加減し、法人税等の支払額を差し引くという一連の流れを理解しておけば、「なぜ利益が出ているのに営業CFが増えないのか」と感じたときに、どの項目が現金を足止めしているのかを一つずつ点検できるようになります。営業CFは、単に結果の数字を眺めるだけでなく、その内訳をたどることで、会社のどこに手を打つべきかを教えてくれる分析ツールでもあるのです。
次回は、この営業CFについてさらに掘り下げて解説しますので、どうぞお楽しみに!
著者プロフィール
柴山政行(しばやま まさゆき)
公認会計士・税理士
柴山会計ラーニング株式会社代表 公認会計士税理士事務所所長
公認会計士・税理士としての業務のほか、経営者や税理士向けにコンサルティング指導、メルマガ・インターネットを中心とした簿記・会計教材の製作、会計関連の講演やセミナーなど、多岐にわたって精力的に行っている。また、小中学生から始められる簿記・会計教育「キッズ★BOKI」のメソッドを開発し、その普及に力を注いでいる。
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