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第6回:財務分析指標の入門 ~決算書を健康診断書に変える6つのアプローチ~今さら聞けない!予算のための会計知識入門


これまで本コラムでは、予算と決算の違い、P/LやB/Sの構造など、企業の「数字」の基礎を解説してきました。第1回で触れた通り、決算書は「バックミラー(過去の報告)」です。
しかし、バックミラーだけでは安全な経営運転はできません。正確な実績を「未来の地図(予算)」へ昇華させるには、自社の現在地を知る「財務分析」というインフラが不可欠です。


財務分析の意義と3つの重要な切り口による具体的な分析指標

財務分析とは「決算書を健康診断書に変える作業」であり、指標というものさしをあてることで会社の強みや病巣を浮き彫りにします。今回は、経営者が押さえるべき主要指標を「収益性」「資本効率」「財務安全性」の3つの切り口からコンパクトに解説します。

1.収益性を判断する指標:稼ぐ力の「質」を見極める

第一歩は、会社がどれだけ効率的に利益を出しているかという「収益性」の検証です。売上高に対する各種利益の割合を示す「売上高利益率」により、P/Lの各段階利益に対応した異なる「稼ぐ力の質」を表します。

① 売上高利益率(4つの指標)

売上高総利益率(粗利益率)

売上高総利益率(%)= 売上総利益 ÷ 売上高 ✕ 100

製品やサービスの付加価値・競争力を示します。これが低い場合は、原価高騰や価格競争に巻き込まれているサインです。

売上高営業利益率

売上高営業利益率(%)= 営業利益 ÷ 売上高 ✕ 100

「本業の儲け」の割合です。販売体制や販管費管理も含めた総合的な営業力を表し、上場企業の全産業平均(5%~7%前後)が一つの及第点となります。

売上高経常利益率

売上高経常利益率(%)= 経常利益 ÷ 売上高 ✕ 100

財務活動を含めた会社の「経常的な実力」、いいかえると「総合的な収益力」を示します。日本の金融機関が融資判断で最も重視する指標の一つ、ともいえるでしょう。

売上高当期純利益率

売上高当期純利益率(%)= 当期純利益 ÷ 売上高 ✕ 100

特別損益を加減し、さらに法人税等を差し引いた最終的な成果の割合です。内部留保や株主への配当原資に直結します。

2.資本効率を判断する指標:投資に対する「リターン」を最大化する

どれだけ利益率が高くても、売上のために過大な元手(資産)を要していれば優れた経営とは言えません。
そこでB/SとP/Lをクロスオーバーさせ、投下資本への「効率性」を測ります。

② 総資産回転率

総資産回転率(回転)= 売上高 ÷ 総資産

保有資産を動かしてどれだけの売上を上げたかという「資産の活用スピード」です。
数値が高いほど、少ない資産で効率よく売上を生み出しています。低い場合は、過剰設備や不良在庫などの「眠っている資産」を疑う必要があります。業界により数値が異なるので、業界平均との比較が有効です。

③ ROE(Return On Equity 自己資本利益率)

ROE(%)= 当期純利益 ÷ 平均自己資本 ✕ 100

株主の元手(自己資本)に対し、最終利益をどれだけ稼いだかを示す投資家重視の指標です。預かった元手をいかに上手に増やしたかという経営効率の通信簿であり、近年は「ROE 8%以上」が持続的企業のグローバル基準とされています。自己資本は、株主資本・純資産などを用いることで便宜的に計算できます。なお「平均自己資本」とは、自己資本などの分母につき、期首残高と期末残高の合計を2で割った平均値です。

④ ROA(Return On Assets 総資産利益率)

ROA(%)= 経常利益 ÷ 平均総資産 ✕ 100

総資産(自己資本+借入金)をどれだけ効率的に運用したかを表す総合指標です。本稿では実力を測るため経常利益ベースを採用します。ROA向上には「利益率」か「回転率」を高める必要があり、自社のビジネスモデルの認識に役立ちます。

3.財務安全性を判断する指標:倒産しない「タフな経営」を築く

どれほど収益性や効率が良くても、キャッシュがショートすれば黒字倒産します。一倉定氏の哲学が示す通り「会社を潰さないこと」は絶対です。財務安全性は会社の「防御力」を表します。

⑤ 自己資本比率

自己資本比率(%)= 自己資本 ÷ 総資産 ✕ 100

総資産のうち返済義務のない「自己資本」が占める割合で、中長期の健全性を示します。高いほど借入金に依存しないタフな経営といえ、40%以上が健全、50%以上が優良の目安ですが、業界ごとに特徴があるので、業界平均とも比較してみましょう。予算から逆算して高めていくべき重要テーマです。ここでも、必要に応じ、自己資本として株主資本又は純資産を用いることは可能です。要するに比較検討できればよいのですね。

⑥ 流動比率

流動比率(%)= 流動資産 ÷ 流動負債 ✕ 100

「1年以内に現金化できる資産」が「1年以内に返済すべき負債」に対してどれだけあるかを見る短期の支払い能力指標です。安全圏とされる目安は200%以上(最低150%以上)です。100%を割り込んでいる場合は資金繰りが逼迫しており、早急な予算見直しが必要です。

財務分析の具体例による計算例と解説

ここからは、具体的な2社の事例(A社・B社)を通じて、これまで学んだ「収益性」「資本効率」「財務安全性」の指標を実務でどう読み解くかを解説します。ここでは、4つの財務分析指標を選んで、比較検討してみることにいたします。

図:A社:高収益・高効率だが、安全性に急ブレーキ

A社:高収益・高効率だが、安全性に急ブレーキ

A社は、会社の経常的な実力を示す「売上高経常利益率」が10.0%と高く、優れた収益性を誇ります。さらに、株主の元手に対するリターンを示す「ROE(自己資本利益率)」も15.0%と、グローバル基準とされる8%を大きく上回る高い資本効率を実現しています。
しかし、財務安全性には急ブレーキがかかっています。中長期の健全性を示す「自己資本比率」は21.5%と低く、短期的な支払い能力を測る「流動比率」にいたっては95%と、安全圏(150%以上)を割り込んでいます。黒字であっても資金繰りが日常的に逼迫しかねない、「高収益だがリスクの高い」健康状態と言えます。

図:B社:強固な防御力を誇る、老舗の成熟企業体質

B社:強固な防御力を誇る、老舗の成熟企業体質

一方のB社は、売上高経常利益率が5.0%と平均的であり、また、ROEは4.0%に留まり、預かった元手を上手に増やせているとは言えず、収益性と資本効率に課題を残します。
その反面、財務の防御力は抜群です。自己資本比率は51.0%と優良企業の目安(50%超)に達しており、流動比率も180.0%と高い水準を維持しています。不景気でも倒産しにくいタフな財務基盤を築いていますが、積極的な投資や変革が見られず守りに徹している、いわば「老舗の成熟企業」にありがちな状態です。

まとめ:分析を「未来の地図」へ変える

財務分析の真の価値は、過去の答え合わせではなく、自社の現在地を把握して未来の予算計画(地図)へ落とし込むことにあります。A社であれば「安全性を高めるための資金調達構造の改善」、B社であれば「収益性を引き上げるための具体策」を来期の予算に組み込み、月次決算で予実を管理していくことが不可欠です。

全6回にわたり、企業の「数字」を正しく把握するための基礎知識をお届けしてきました。本連載が、皆様の確かな経営の舵取りの一助となれば幸いです。ご愛読ありがとうございました。

著者プロフィール

柴山政行(しばやま まさゆき)
公認会計士・税理士
柴山会計ラーニング株式会社代表 公認会計士税理士事務所所長
公認会計士・税理士としての業務のほか、経営者や税理士向けにコンサルティング指導、メルマガ・インターネットを中心とした簿記・会計教材の製作、会計関連の講演やセミナーなど、多岐にわたって精力的に行っている。また、小中学生から始められる簿記・会計教育「キッズ★BOKI」のメソッドを開発し、その普及に力を注いでいる。