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もう現場を迷わせない!儲かるSCMにする日本型S&OPのススメ 後半INNOVATION INSIGHTS イノベーションのヒント

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公開日:2026年9月25日

日本流にS&OPを定着させるには?

海外と国内におけるS&OPの計画方式の違い

これまでの議論を模式化したのが(図5)である。海外においては、トップダウン方式で「PSI表」のような計画表が活用され、横軸に月次、縦軸にカテゴリーごとの大まかな数値を決定し、これを業務レベルに展開して詳細化する。
一方で、国内では年度予算を基盤としながら、業務レベルでプロセスごとに細分化した数値を立案し、それを集計して上位層に報告するボトムアップの形を採る。さらに、計画はローリング形式で随時更新され、国内ではボトムアップ主導の縦・横のコミュニケーションが中心的であると考えられる。
このようなコミュニケーションは積極的に実行されるというよりも、まず現場がボトムアップで計画立案に専念し、上位層との連携には至っていない状況である。次に、こうした計画立案の実情を掘り下げ、特に販売側と生産側の関係について検討する。

図5 DXの当初目的ごとの成果有無

販売と生産間の需給調整における現状の課題

販売側は販売予算を達成するため、取引先やアイテムごとに需要量の情報を生産側に提供する。その需要量から在庫を差し引いた所要量をもとに、生産側では効率的な生産計画や物流計画が立案される。しかし、このプロセスは一方向、または多くて一往復でのやり取りにとどまり、利益最大化に必要な反復的な調整には至っていない。結果として、利益の最大化に至らず、真のS&OPプロセスが実現されていないと考えられる。
販売側は売上の最大化を優先し、供給側の制約を考慮せずに効率的な需要量のみを生産側に提示する一方で、生産側はその需要量を基に供給の効率を追求した計画を立案する。このような一方通行の計画立案では、利益の薄い、あるいは場合によっては利益を損なう物量に対して、効率を追求する供給計画が成立する可能性がある。
利益最大化を実現するには、単に売上や供給数量を考慮するのみではなく、供給の効率性も含めた計画評価を行い、その結果の変動コストを反映させた貢献利益の算出が理想的である(図6)。

図6 数量を考慮するだけでなく貢献利益の算出を目指す

TOCとS&OPの関連性

ここで、TOC(Theory of Constraints、制約理論)との関係について触れる。かつて一世を風靡した概念であるTOCではボトルネックに着目し、その最大限の活用を図る計画を立案し、スループット会計に基づいて貢献利益を算出する手法が取られる。このようなボトルネックに着目した計画立案という視点では、実行PSIがTOCのエッセンスを取り込んでいると捉えられる。
課題は、スループット会計によって現場で算出された貢献利益をさらに向上させるための施策が未だ不足している点である。この施策が反復的に行われないことで、最終的な利益最大化には到達しておらず、真のS&OPプロセスが実現されていない。
したがって、日本企業においては、現場で算出された貢献利益を基に、さらなる施策を講じ、反復的な改善を通じて利益最大化を目指す必要があると考えられる。

貢献利益最大化に向けた日本型S&OPの戦略

貢献利益の最大化に向けたアプローチ

貢献利益を最大化するためには、まず需給調整における供給能力のシェアが必要であり、これは生産効率を考慮した実行PSI計画によって実現可能である。たとえば、アイテムA、B、Cにおける需要量を基に、それぞれが同一設備で生産されると仮定し、時間軸上での生産スケジュールを作成するシーンを考えよう(図7の上側)。ここで実行PSI計画を立案すると3通りのスケジュール案が考えられるとする。このうち納期遅れや連続生産不可といった制約を満たすものは限られる。ここで唯一実行可能なスケジュールは、一番上に位置する計画であるが、複数の切替が発生するため、生産効率は十分とは言えない。

たとえば、アイテムBの連続生産が不可能な理由は、原材料や保管場所の制約に起因する可能性がある。このような制約がある限り、計画立案は従来の生産計画と大きく変わらない。しかし現実には、需要量は多くの場合予測や内示に伴う不確実性を含んでいる。言い換えれば、需要量には一定のレンジが存在する。そのレンジの中で、計画立案時に値を一つに固定しているにすぎない。それであれば、その一つの値に固定するのではなく、不確実性のレンジを逆に裁量範囲として解釈し、貢献利益の最大化にどのように活用するかを考えるべきであろう。

不確実性を考慮した利益最大化の手法

前節で述べた方針に従うなら、不確実性を考慮する中で、どの水準を基点に計画を開始するかが重要である。現場ではしばしば、需給の不確実性に備え、リスクを最小化するよう安全在庫を調整している場合が多い。すなわち、需要量の期待値よりも高めの数値を設定することで、需要の変動に備えているケースが多いが、これが過剰在庫を生み、利益を圧迫する要因になり得る。需要の変動レンジを認識し、適切な調整を行い、貢献利益の最大化に資する計画立案を行うべきである。

図7の下側においては、需要量をレンジ内で調整することで、二番目の計画を実行可能にする例を示しており、これにより利益の向上が見込まれる。些細なことに見えるかもしれないが、リスクを全域にわたって少しずつ多めに見積もる姿勢は、その累積によって過剰性が顕在化するまで見過ごされがちである。その間、たえまなくリソースを浪費していると認識すべきである。このような事態を避けるため、数量を貢献利益に換算し、不確実性でリソースを浪費しないような貢献利益最大化の考え方を提案したい。

図7 貢献利益を最大化するアプローチ

貢献利益最大化のためのプロセス

貢献利益を最大化するためのプロセスを一連のステップとして整理すると、次のようになる。

  • ステップ①
    需要のレンジを考慮し、適切な所要量を仮決めする。
  • ステップ②
    仮決めした所要量を基に実行PSI計画をシミュレーションする。
  • ステップ③
    シミュレーション結果を金額に換算し、貢献利益を計算する。
  • ステップ④
    貢献利益が増加するよう、所要量を調整し、再度実行PSI計画を実施する。

上記のプロセスを実装する際に、その効果の鍵を握っているのがステップ④における所要量の修正である。数理工学の観点からは、このような最適化プロセスはラグランジュ分解・調整法によって実装が可能である。しかしながら、そもそも不確実性のリスクを貢献利益に換算する係数を設定する行為そのものが意思決定の重要部分であることを考えると、このような大規模最適化を数理モデルから一気に導出することが得策とは言えない。むしろ、what-if分析のように実行PSI計画シミュレーションにより、貢献利益を試算し、その貢献利益をより最大化させるいくつかの選択肢を意思決定者に提案し、意思入れを促すのが得策と考えられる。

「日本型S&OP」の具現化とその未来

それでは、その意思入れとは誰が行うべきであろうか。リスクと利益の天秤判断であることを考えると、その責務はマネジメント層が負うのが適切である。一方で、ステップ①からステップ③のような複雑・煩雑なオペレーションをマネジメント層で行うには無理がある。したがって、その意思入れは業務レベル層とマネジメント層の協調からなる。すなわち、ステップ①から③を業務レベル層で遂行し、貢献利益の所定基準に達しない場合にはステップ④においてマネジメント層をコールし、業務レベル層とのコミュニケーションによって判断を行っていく。まさにこれが「日本型S&OP」の具現化である(図8)。そのため、業務レベル層とマネジメント層が相互に意思決定を行うための情報基盤を整備することが、日本企業のサプライチェーンの未来を切り拓く鍵と言えよう。

図8 貢献利益最大化ステップによる戦術/業務ギャップの解消

まとめ

本稿では、日本企業のサプライチェーン管理における現場の混乱を解消し、収益性を向上させるための新たなアプローチを提案した。従来のSCM手法では、現場担当者は複雑な需給調整に苦心し、Excelベースの煩雑な作業に追われ、全体最適化から遠ざけられていた。具体的な解決策として、以下の革新的なアプローチを示した。

  • 実行PSI計画の導入により、現場の詳細な制約条件を体系的に組み込む
  • 不確実性を考慮した需要レンジ管理で、過剰在庫と無駄を削減
  • 貢献利益最大化を目指す意思決定プロセスの再構築

特に「日本型S&OP」の核心は、現場を混乱させることなく、経営層と現場をつなぐ情報基盤の整備にある。この基盤により、現場は従来の精緻な計画立案能力を活かしつつ、戦略的な意思決定プロセスに組み込まれる。
結果として、日本企業は現場の知恵と経営の戦略を融合させ、より収益性の高いサプライチェーン・マネジメントを実現できる。今後は、この新たなモデルの実践的な検証と、さらなる改善が期待される。

キヤノンITソリューションズは、お客さまのビジネス環境や経営戦略に関する”想い”を起点に、ビジネスデザインとビジネスサイエンスにより、お客さまとともに競争優位の確立に邁進します。この「共想共創ステーション」を通じて、私たちビジネスイノベーション推進センターの取組を随時発信しますのでご期待ください。

筆者紹介

小西 伸之
ビジネスイノベーション推進センター センター長
専門は数理最適化、データドリブン経営
前職(製鉄業)時代から一貫してオペレーションズ・リサーチの研究開発と、応用技術を駆使したプロジェクトの提案・実践に従事。
大阪大学大学院修了(精密工学専攻)、大阪大学招聘講師、技術士(経営工学)、中小企業診断士
淺田 克暢
R&D本部 数理技術部 コンサルティングプロフェッショナル
需要予測・需給計画ソリューションFOREMASTを立上げ。需給計画の専門家として書籍執筆、社内外記事寄稿多数。
中小企業診断士。
著書に「在庫管理のための需要予測入門」(東洋経済新報社)、「事例で解決!SCMを成功に導く需給マネジメント」(日刊工業新聞社)。

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