もう現場を迷わせない!儲かるSCMにする日本型S&OPのススメ 前半INNOVATION INSIGHTS イノベーションのヒント
公開日:2026年9月25日
S&OP(Sales & Operations Planning)は、企業の販売と生産を連携させ、儲かるサプライチェーン・マネジメント(SCM)を実現する戦略的な計画プロセスである。本稿は、1950年代からの計画・スケジューリング技術の進化を背景に、PSI(生産・販売・在庫)計画の現代的課題に焦点を当てている。
特に日本企業において、現場レベルの詳細な業務調整と経営層の戦略的意思決定を効果的に橋渡しすることが困難な状況を指摘し、その解決策として、生産の制約条件を加味した実行PSI計画の導入と、需給の不確実性を考慮した計画プロセスの重要性を提案している。究極的な目標は、企業の貢献利益を最大化し、現場に混乱を与えることなく、戦術的かつ戦略的な意思決定を実現することにある。
SCM/SCP発展の歴史とS&OPの発祥
SCMおよびSCP発展の歴史と課題
サプライチェーン管理(SCM)とサプライチェーン計画(SCP)の進展は、生産・物流管理と数理工学の両面から段階的に進化してきた。1950年代においては、数理工学の分野での線形計画法の研究成果とともに、スケジューリング技術の基盤としてPERT(Program Evaluation and ReviewTechnique)やCPM(Critical Path Method)が導入され、計画・スケジューリング分野の黎明期を迎えた。
その後、線形計画法の実務適用上の限界を補う形で、混合整数計画問題を解くための「分枝限定法」や、大規模問題に対応する「列生成法」が発展し、より複雑な供給網の管理・最適化に寄与することとなった。
現在では、需給計画にPSI(Production, Sales, Inventory)を用いた「PSI計画」が一般的となり、さらにS&OP(Salesand Operations Planning)も一部で普及している(図1)。しかし、現場における生産や補充の計画は依然としてExcelに依存しており、人的リソースに頼る部分が多い。この状況が意思決定の迅速化を妨げ、納期回答の柔軟性やサプライチェーンの強靭性を制限しているといった課題が指摘される。

現行の課題と実行PSI計画の可能性
Excelでの計画策定が続く理由には、不確実性や制約の形式知化の困難さが挙げられる。また、根本的には、PSI計画の組み合わせ問題が複雑であることが原因として考えられる。ここで「実行PSI計画」という概念を導入したい(図2)。これは供給サイドの制約を考慮し、従来のPSI表による在庫推移の管理以上に、特定の制約条件を満たすよう、生産スケジューリングに近似した計画を立案することを指す。
このような実行PSI計画の立案には、「リスト表現+メタヒューリスティクス」が有効と考えられている(図3)。これは、資源制約付きスケジューリング問題に応用される手法であり、制約を満たしつつ、効率的にタスクを配分・最適化する手段である。リスト表現をすることで制約の充足状態を維持しながら解を探索することが可能となる。リスト順はタスクの処理順序そのものではなく、空いたリソースへのタスクの「挿入順序」を示している。
したがってその順序にしたがってアルゴリズムは制約の充足状態を維持するよう挿入する場所を選べばよい。ただし、それだけでは効率的な場所に挿入されるとは限らない。そこでその効率性の改善を行うのがメタヒューリスティクスである。メタヒューリスティクスはリストの表現順を入れ替えて、効率的な生産順に改善していく。より高速に効率的な生産順への改善を促進するため、メタヒューリスティクスに、さまざまなテクニックが提唱されているが、ここでは割愛する。このようなリスト表現+メタヒューリスティクスという手段は実行PSI計画の立案にも親和性が高く、意思決定の拡充が期待される。

SCMの新たな方向性と今後の展望
ここまでの改善を踏まえ、今後のサプライチェーン計画では、在庫管理や利益指標を重視する視点が求められている。従来、営業部門は売上目標達成を重視し、製造部門は生産性向上を優先、需給担当は在庫の最適化を目指してきたが、これらが必ずしも利益最大化に寄与しているとは限らない。
したがって、次なるテーマは利益を見据えたサプライチェーン計画であり、これにはS&OPが重要な役割を果たす。特に、利益管理の観点を取り入れたサプライチェーン計画を実施することで、全体最適化を図ることが重要な関心事である。

S&OPの海外・国内事情
利益志向のサプライチェーン計画におけるS&OPの期待と課題
サプライチェーン計画に利益志向を組み込む方法として、S&OPが注目されている。S&OPは1980年代に提唱された概念であり、国際的に実施例が豊富であるものの、日本では普及が進んでいない。S&OPとは、トップマネジメントと機能部門のミドルマネジメントが協力し、製品やサービスの需要と供給のバランスを戦術的に調整し、金額を評価して数量の意思決定を行うプロセスである。このプロセスの特長は以下の通りである。
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1年半以上の中期的視点で計画を立案すること。
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単品ではなくカテゴリーを対象とすること。
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数量過不足だけでなく、金額を評価の対象に含めること。
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少なくとも月次サイクルで実施すること。
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需要と供給、戦略と業務、営業と製造、目標と現実をつなぐ役割を果たすこと。
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情報システムや手法ではなく、意思決定プロセスそのものであること。
このように、S&OPは戦略的な予算や事業計画と、日々の需給計画・調整を結びつける「戦術レベル」のプロセスである。日本企業においてS&OPが普及しにくい理由は、戦略・業務レベル間のギャップ解消が困難であるためと考えられる(図4)。多くの企業では「戦略的計画」と「業務レベルの調整」は個々に実施されているが、これらを橋渡しするS&OPプロセスが欠如しているのが現状である。

日本と海外におけるS&OP実施の違い
日本と欧米企業におけるS&OPの実行方法は異なり、日本ではS&OPの実行が難しい背景にはいくつかの要因がある。具体的には、国内企業では詳細な需給調整が行われるものの、それが必ずしも利益最大化の意思決定に結びついているわけではない。一方、欧米企業では、以下の要因により、S&OPがスムーズに機能するケースが多く見られる。
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トップダウン型の企業文化:欧米企業ではトップダウン型の意思決定が根付いており、経営層の決定を現場が受け入れやすい環境が整っている。
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キャパシティ制約の余裕:日本と比べ、欧米企業ではリソースのキャパシティに余裕があることが多く、需給の調整が比較的容易である場合が多い。
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計画の粒度:欧米企業では、業務レベルの計画担当者が日本企業と比べて計画の緻密度や精度に対してこだわりが少ないため、S&OPの計画が実行段階で受け入れられやすい。
日本企業におけるS&OP導入の課題とその背景
日本企業においてS&OPが定着しにくい理由として、業務レベルで考慮される詳細な計画内容が、戦術レベルであるS&OPでは考慮しきれないという点が挙げられる。たとえば、日本の業務レベルの計画では、確実な需要と不確実な需要を区別し、また製造設備や段取り替えなどの供給制約を反映させた緻密な日程計画が立案される。日本は顧客第一主義で、製品サイズやパッケージ種が多様化し、そのため製造ラインを流れるアイテムが欧米対比で圧倒的に多くなる。これも立案の難しさの一因と言えよう。こうした複雑性により、S&OPプロセスにおいて次の課題が生じることとなる。
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マネジメントレベルの情報把握不足:業務レベルの詳細な計画内容を、経営層やマネジメント層が十分に把握できないこと。
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カテゴリー別計画の実行可能性の不確実性:カテゴリー別・月別で計画を立案しても、正確なコストや実行可能性が不透明な場合がある。
このように、日本企業では現場担当者が予算達成に向けた精緻な最適化を個別に行っているため、S&OPの計画と実行との整合を図ることが難しくなっている。対照的に、欧米企業では経営層がS&OPで粒度の粗い意思決定を行い、それを現場にトップダウンで伝達する方法が普及しているため、S&OPプロセスが機能しやすい状況にある。
日本企業においてS&OPの効果を最大限に引き出すためには、業務レベルの詳細な調整を戦術レベルの意思決定プロセスに取り入れつつ、経営層と現場の連携を強化する仕組みが求められる。
キヤノンITソリューションズは、お客さまのビジネス環境や経営戦略に関する”想い”を起点に、ビジネスデザインとビジネスサイエンスにより、お客さまとともに競争優位の確立に邁進します。この「共想共創ステーション」を通じて、私たちビジネスイノベーション推進センターの取組を随時発信しますのでご期待ください。
筆者紹介
- 小西 伸之
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ビジネスイノベーション推進センター センター長
専門は数理最適化、データドリブン経営
前職(製鉄業)時代から一貫してオペレーションズ・リサーチの研究開発と、応用技術を駆使したプロジェクトの提案・実践に従事。
大阪大学大学院修了(精密工学専攻)、大阪大学招聘講師、技術士(経営工学)、中小企業診断士 - 淺田 克暢
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R&D本部 数理技術部 コンサルティングプロフェッショナル
需要予測・需給計画ソリューションFOREMASTを立上げ。需給計画の専門家として書籍執筆、社内外記事寄稿多数。
中小企業診断士。
著書に「在庫管理のための需要予測入門」(東洋経済新報社)、「事例で解決!SCMを成功に導く需給マネジメント」(日刊工業新聞社)。
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