需要予測における異常値対応 ~需要予測における販促イベントや大口発注の影響について~コラム
公開日:2021年7月1日
昨今、経済・社会環境は急激に変化し続けています。それによっておこる社会課題やトレンドに対し、需要予測・需給計画は柔軟に対応していく必要があります。
そこで本コラムでは、需要予測・需給業務の担当者や最新のトレンドを学びたい方向けに、今後必要とされる需要予測・需給計画の取り組みやポイントについて、弊社コンサルタント独自の視点で解説します。
需要予測における異常値対応
コロナ前と後では生活パターンも変わり、モノの売れ行きが変わってきました。ステイホームで売り上げが増えた商品もあれば、減った商品もあります。コロナ前を日常とすれば、コロナ後は非日常と言えます。
いつ、前の日常に戻れるのか、本当に前と同じなのか、いろいろ考えさせられます。通常と異なる需要(異常需要)が発生すれば需要予測にも影響を与えます。
本コラムでは、需要予測における異常値対応について考えていきたいと思います。
販促イベントや大口受注などによる需要実績の一時的な増減
販促活動においては、下記のようなことがよく発生します。
- 値引きや販促イベントなどにより一定期間需要が増える
- 販促イベントの反動でイベント後に需要が減る
- 他社の販促イベントや新商品発売により、自社の商品の需要が減る
- 大口の受注により、需要が一時的に増える
- 増税前に駆け込み需要、減税前に買い控えが発生する
- 天災や感染症により需要が増減する
このようなことが起きると、需要実績は一時的に増減し、それまでの需要傾向とは異なる動きになります。このような需要実績を異常値と呼ぶこととします。異常という言い方は少し強めの言い方のような気がしますが、平均的な需要傾向から大きく外れているということで、ご容赦ください。
需要予測における異常値の影響
需要実績に異常値があると予測モデルによる予測値にどのような影響を与えるでしょうか?需要が販促イベントなどで増えると、予測モデルは今後も増える傾向かと認識して予測値が大きくなります。逆に需要が減っていると、予測値は小さくなります。しかし、需要増減は一時的なものなので、この期間が終わればもとの需要傾向に戻るため、予測精度が低下します。下の図は移動平均モデルで予測した例です。販促イベントの需要増の影響を受けて、予測値が上振れしていることがわかります。
また、季節性を考慮した予測モデルの場合、前年同月に異常値があると、その異常値の実績の波動を季節変動と認識することがあるため、予測精度が低下します。例えば、1年前の2月に他社販促イベントがあり需要が減った商品は、今年の2月の予測が去年と同じ傾向で通常よりも減った予測になる可能性があります。
異常値への対応
異常値があるとわかっているのにそのままにしていては、需要予測の精度が低下することがお分かりいただけたと思います。それでは、どのように対応すればいいのでしょうか?
①人が異常値を考慮して予測値を手で修正する
一時的にはこれで解決です。ただし、季節性がある商品は来年に再度手で修正する必要があります。なんだか忘れそうですね…
②この期間にイベントなどがあったことをメモとして記録する
他の人にも共有できますし、担当が変わるかもしれませんので、情報を残すのは非常に重要です。ただし、そのメモを参照しなければ、また、参照できる仕組みになってなければ情報の持ち腐れです。リマインド機能があれば忘れなくていいですね。
③需要実績を補正する
異常な実績を本来の傾向の値に戻すというわけです。そうすれば、自動予測の結果も本来の傾向の値になります。
もちろん、どの月を補正したかという履歴がないと補正有無がわからないので②のメモがあるといいですね。
人手で補正できるのであればそれでもよいと思いますが、すべてチェックするのは現実的ではありません。
期間を指定すればその期間の前年同期や前後実績を使って自動的に補正してくれたり、異常値を自動検出してくれる機能などがあれば便利です。
異常値の検出方法
さて、問題はどうやって異常値を見つけるかです。販促イベント情報が営業担当者から連携されていればいいのですが、なかなかそうもいかないことが多いかと思います。
では、一品ずつチェックするのでしょうか?毎週、毎月チェックするのは大変ですね。やはり、システムで自動的に検出できると効率的です。
では、どうやったら検出できるのでしょうか?一般的なのは平均と標準偏差を使った統計的手法です。需要実績の平均、標準偏差を求め、下式で上限値、下限値を算出します。
上限値 = 平均 + α × 標準偏差
下限値 = 平均 - α × 標準偏差
上限値を超える、または、下限値を下回る実績がある日の出荷実績を異常値候補として検出します。
αが大きいと検出される候補は少なくなり、取りこぼしが多くなります。逆にαが小さいと候補が多すぎてチェックするのが大変になります。統計学では α=2.0 のとき、約99%が上限下限の範囲内に入ると言われてます(需要実績の分布が正規分布に従えばという条件付きですが)。
つまり、上限を超えるのは100日に1回しかないケースということになります。
このように指定した上下限の範囲外となる需要実績の日を検出して担当者がチェックすれば手間は省けるかと思います。ただ、月・週別のデータの場合は季節変動、日別のデータの場合は曜日変動があると、この方法では難しい場合があります。変動を除去したデータを用いて検出するなどの工夫が必要になります。
今回は異常値を検出、補正して需要予測の精度を落とさないことを考えてきました。これらの対応を担当者それぞれが手作業のみで行うのは困難です。
異常値検出・補正を業務・ITの両面で支援する仕組みづくりが重要になります。
筆者紹介
岩崎 哲也(いわさき てつや) キヤノンITソリューションズ株式会社 R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト。
需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。 FOREMASTのSIコアの機能設計・開発を担当。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
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