画像解析による品質トレーサビリティ・保守保全業務の効率化キヤノンITソリューションズ 共想共創フォーラム2025イベントレポート
製造現場では、検査機を駆使しても予期せぬトラブルが市場クレームにつながることがあります。当社は良品学習AIを活用し、品質トレーサビリティの向上と効率化に取り組んでいます。また、保守保全業務では、定期的な目視確認に加え、設備の異常や故障をリアルタイムに検知し、データ化して長期的な分析を行いたいというニーズに応えるため、ネットワークカメラと画像認識を用いた取り組みをしています。製造現場の安心・安全を守るためのこうした取り組みを紹介します。
キヤノンITソリューションズ株式会社
エンベデッドシステム事業部 エンベデッドシステム事業企画本部
原 有佑
セミナー動画(視聴時間:30分04秒)
限られた人員での生産性向上
日本の製造業が直面する人手不足の現実
日本では、少子高齢化に伴う労働人口の減少が深刻な社会課題となっています。
特に製造業では、2030年には約38万人の人手不足が予測されており、企業の生産性や競争力に大きな影響を及ぼす可能性があります。このような状況下で、少ない人員でも安定した生産体制を維持するための抜本的な改革が求められています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性
労働人口が減少する中でも、企業には継続的な成長が求められます。製造業においては、従業員数が減っても生産量やビジネス規模を拡大していく必要があり、そのためには業務プロセスの最適化と生産性向上が不可欠です。DXの推進は、こうした課題に対する有効な解決策です。業務の自動化による人員削減、非効率な作業の見直し、デジタル技術による業務の可視化と最適化などを実現することで、限られた人員でも高い生産性を維持することが可能になります。
DX推進における現場の課題
経済産業省の「ものづくり白書」などによると、製造業におけるDXは「必要性は認識されているが、実行段階での課題が多い」という過渡期にあります。
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高額な初期投資とランニングコスト
IoTデバイスやAIツールの導入には高額な初期費用がかかる場合があり、運用・管理にも継続的なコストが発生します。
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ITリテラシーの高い人材の不足
特に中小企業では、デジタル技術に精通した人材の確保が難しく、導入後の運用に不安を抱えるケースが多く見られます。
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正確さと慎重さを重視する文化
日本の製造業では、高品質な生産体制が確立されており、新しい技術に対しても同様の精度が求められます。
そのため、既存のプロセスを変えることに対する抵抗感が強く、DXの導入が進みにくい要因となっています。
画像解析技術がもたらす突破口
こうした課題に対して、導入のハードルが比較的低く、現場に受け入れられやすい技術として注目されているのが「画像解析技術」です。
- 映像は人が見て理解しやすく、結果の妥当性を直感的に判断できる
- 導入前の検証がしやすく、スモールスタートが可能
- 目視確認業務の自動化により、人的負担を軽減し、精度向上にも貢献
画像解析技術は、DXの第一歩として「始めやすく、効果が見えやすい」ソリューションであり、限られた人員での生産性向上に向けた有力な選択肢です。
画像から意味を読み取る AI画像処理
AI画像処理とは、人工知能(AI)を活用して画像の中から意味のある情報を抽出する技術です。主に「機械学習」や「深層学習(ディープラーニング)」といった手法を用いて、画像から特徴を抽出し、分類・検出・予測を行います。製造業では、検査の自動化や異常検知、品質トレーサビリティなど、さまざまな業務に応用されています。
主な構成要素
- 機械学習(マシンラーニング):データからパターンを学び、予測や判断を自動化する技術
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深層学習(ディープラーニング):多層のニューラルネットワーク(脳の仕組みを模倣し情報を処理する数理技術)を用いて、
データから特長を自動的に学習する技術 - 教師データ(アノテーション):検出したい対象物にタグ付けを行った画像データ。AIが学習するための基礎
- 学習済みモデル:AIが教師データから学習した結果として得られる、分類や検出のルール・パターンの集合
学習手法の種類
AI画像処理には、以下のような学習手法があります。
学習手法 | 概要 | 特徴 |
---|---|---|
教師あり学習(不良品学習) |
画像の不良個所にアノテーションを行ったデータで学習
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大量の不良品が必要だが、不良の種類や位置を特定できる |
教師なし学習(良品学習) |
良品画像のみで学習 |
不良の種類は特定できないが、未知の不良を検出できる可能性がある |
Visual Insight Station
生産ラインの検査自動化を支援するAI検査プラットフォーム
キヤノンITソリューションズが提供する「Visual Insight Station」は、製造業における検査業務の効率化と精度向上を目的としたAI画像処理システムです。
特長と強み
- 高解像度カメラ対応:微小な欠陥も検出可能
- 柔軟なシステム構築:撮像機器との組み合わせで現場に最適化
- 追加学習が可能:導入後もAIモデルの進化が可能
- GPU活用による高速推論:タクトタイム短縮に貢献
基本構成とソフトウェアコンポーネント
Visual Insight Stationは、以下の3つのソフトウェアコンポーネントで構成されています。
コンポーネント | 概要 |
---|---|
AI学習アプリケーション |
対象物に特化したAIモデルを簡単な操作で学習・評価。追加学習も可能。 |
AI検査アプリケーション |
学習済みAIモデルを用いて複数画像の推論結果を解析。 |
AI推論エンジン |
入力画像に対して高速なAI推論を実行。GPU活用で処理速度を最適化。 |
これらをベースに、カメラ・照明・CT装置などの撮像機器と組み合わせて、個別の検査システムを構築します。
AI画像処理導入時のよくある課題と対策
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不良品が集まらない
不良品学習・良品学習の両方に対応しているので、良品学習を活用することで、不良品が少ない環境でも導入が可能です。
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学習が難しい
操作性の高いAI学習アプリケーションを提供し、技術者のサポート体制も整備しています。
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誤発報を許さない文化
AIは100%の精度ではないことを前提に、業務フロー全体で補完する設計が重要です。
良品学習による品質トレーサビリティの活用例

良品学習とは、正常な画像のみをAIに学習させ、「いつもと違う」「違和感がある」状態を検出する技術です。検査は専用装置に任せ、記録映像の定期確認や異常の兆候を自動検出することで、
- 問題の早期発見
- 確認作業の効率化
- 作業者の負担軽減
につながります。例えば、食品の異物検知では、異常の有無や位置をAIが可視化し、迅速な対応を支援します。
ANOMALY WATCHER
監視カメラを利用した異常検知システム
監視カメラ映像から、通常時との画像差分を検出することで、リアルタイムで異常を検知し、画面表示と外部への通知をする機能を持っています。警備員や監視員の業務負担を軽減させることを目的とした異常監視システムで、設備の監視、実験や耐久試験の状態変化の監視、作業員の動作監視など、様々な監視業務の自動化に貢献します。スモールスタートが可能で効果を実感しやすいソリューションです。
活用事例:設備保全業務の効率化

ある製造現場では、以下の2つの課題を抱えていました
- トラブルが頻発する箇所の早期対応
- 原料堆積箇所の清掃タイミングの把握
この課題に対し、対象箇所にカメラを設置し、ANOMALY WATCHERを導入。画像差分による異常検知機能を活用し、
- トラブル発生時の状況をリアルタイムで検出
- 堆積量の変化を検知し、清掃の最適タイミングを把握
することができるようになりました。事前学習不要で、基準画像を登録するだけで運用可能なため、短期間で実証実験を開始でき、DXの第一歩として保全業務の効率化を実現しました。
DXの先にある価値:社員の働きがいと安全性の向上へ
製造業におけるDX推進の必要性と、画像解析技術を活用した業務効率化の取り組みについてご紹介しました。Visual Insight Stationによる検査自動化、ANOMALY WATCHERによるリアルタイム監視など、現場に寄り添ったソリューションを通じて、少人数でも高品質な生産体制を維持するためのヒントをお届けできたかと思います。
しかし、DXの本質的な価値は、単なる業務効率化やコスト削減にとどまりません。画像解析技術の導入は、危険作業やストレスの多い業務から社員を解放し、働きやすい環境づくりにも貢献します。実際に、経済産業省の調査では、DXを進めた企業の約4割が「労働時間の短縮」や「休日の増加」など、人事面での効果も実感しているという結果が出ています。
社員の働きがいが向上すれば、定着率の改善やエンゲージメントの向上につながり、ひいては企業の成長力や競争力の強化にもつながります。DXのゴールを「人手不足の解消」だけでなく、「社員の幸せ」や「持続可能な成長」と捉えることで、投資の価値もより明確になります。
私たちは、技術を通じて現場の課題に寄り添い、DXのその先にある価値を共に創っていきたいと考えています。
画像解析による品質トレーサビリティ・保守保全業務の効率化について
- AI検査プラットフォーム(外観検査)・Visual Insight Station
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20Mの高解像度な産業用カメラ、ネットワークカメラで撮像した画像も縮小せずにAIを実行することができ、画像内の微小な欠陥を見逃さずに検出することが可能です。
- 画像処理による異常検知 ANOMALY WATCHER
- 画像処理により監視カメラ映像から異常を検出することができる異常検知ソリューションです。AI画像処理のような機械学習は不要で即時導入が可能です。設備保全の監視業務や生産ライン、環境試験現場のトラブル監視に利用できます。