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「産業用照明について その3」 [2021.10.28]
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シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第30回)
「産業用照明について その3」 [2021.10.28]

「産業用照明について その3」

前回、第29回「産業用照明について その2」では、光の特性「①直進」、「②反射・散乱」、「③透過・吸収」、「④屈折」、「⑤干渉」、「⑥偏光」についてご紹介致しました。今回は、それら光の特性を生かしたマシンビジョン用の照明デバイスについてご紹介いたします。

マシンビジョン用の照明デバイス

透過照明

透過照明

図1 透過照明


まずは、「①直進」を利用した、「透過照明」についてご紹介します。均一に面で発光する面照明を用いて、カメラと照明で、対象ワークを挟む構成です。

図1のように、真下から照明をあてて、カメラは上部から撮像するのが一般的です。カメラでは、対象ワークのシルエットを撮像することになり、輪郭形状、計測測長、透明素材中に含まれる異物検出などに利用されます。透明液体内の異物混入では、液体が無色透明でなくとも、光が透過するものと、透過しない(異物)の検出に利用されます。

射光照明

射光照明

図2 射光照明


続いて、「②反射・散乱」を利用した、「射光照明」についてご紹介します。

バー照明(長方形型の面照明)や、リング照明(バー照明を円形で構成した照明)を用いて、図2のように、カメラは上部から撮像し、対象ワークの表面上の凹凸形状のキズ、異物、汚れなどを撮像します。リング照明や左右方向からの照射に対しての撮像となるため、暗視野方向での撮影が一般的です。暗視野、明視野については、前回コラムを参照ください。

拡散照明

拡散照明

図3 拡散照明


続いて、「①直進」と「②反射・散乱」を利用した「拡散照射」をご紹介します。

こちらは、どちらかというと、光を利用するというよりは、より光の反射による影響を受けない状態にするものです。対象ワークの形状や表面状態により、照射した光の映り込みが発生し、表面の柄や模様などが見えなくなる場合があります。「拡散照明(ドーム型の形状で光を均一に照射するデバイス)」は、全体に均一な照射を行うことで、ワーク形状や表面状態による影響を軽減し、表面の柄や模様をコントラストよく撮影するのに適しています。

同軸落射照明

同軸落射照明

図4 同軸落射照明


続いて、「拡散照射」に、さらに、入射角と反射角を合わせた「同軸落射照明」をご紹介します。

こちらは、拡散照明にさらに、照明の入射軸とカメラの撮像軸とを合わせることで、より光の反射による影響を受けない状態にするものになります。図4(左)は、テレセントリックレンズによる構成で、テレセントリックレンズ横から照射した光が、レンズ内包の鏡により、上方から下方へ照射した光のうち、垂直方向に反射した光のみをとらえるものです。
(※テレセントリックレンズについては、第28回コラムを参照ください。)

反射した光は、カメラ方向は鏡でなく、透過し、撮像できます。これにより、多方向からの照射がなく、また、散乱光は受け取らず、同軸方向へ反射した光のみをとらえることで、ワークの表面状態や形状による光の反射の影響を受けない撮像ができます。図4(右)は、同軸落射によるフラット型の照明で、上部から見ると透明なガラス素材ですが、ワーク側へは、光を放つものになります。表面状態が光沢、鏡面であっても、均一な照射により、反射の影響を受けず撮影できます。

紫外線と赤外線照明

紫外線と赤外線照明

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図5 紫外線と赤外線照明


最後に、「透過・吸収」を利用した「紫外線と赤外線照明」についてご紹介します。

こちらは、光の波長による透過、吸収の違いを利用したもので、主に波長の短い紫外線照明では、対象ワークの表面のキズや付着物の凹凸の撮像に、赤外線照明では表面素材の透過により内部素材の撮像に適しています。紫外線、可視光範囲でも、紫や青色系の照明は、冷たい印象がありますが、凹凸など構造の再現性が高い撮像ができます。形状測定などでも青色系の光を利用します。

一方、赤外線照明では、暖かくぼやけた印象がありますが、表面素材を透過し内部反射を撮像できるため、包含素材の中の部材検査など1素材下の撮像に利用できます。
※光の波長の違いを撮影する技術としては、第18~20回コラム「ハイパースペクトルイメージング」も合わせて参照ください。

今回のまとめ

3回にわたり産業用照明についてご紹介いたしました。マシンビジョンシステムを構築する上で最も重要となるのは、“撮像”です。特に誤検出や未検出が発生すると、照明を含めた撮像条件から見直すこととなるため、初回検討段階から背景と検出対象とのコントラストを高くする点に注力した照明条件を選定されることをお勧めします。

 

筆者紹介

シニアアプリケーションスペシャリスト 稲山

稲山 一幸(いねやま かずゆき)

エンジニアリング事業 シニアアプリケーションスペシャリスト

1992年住金制御エンジニアリング入社、Matrox社製品の国内総代理店立ち上げに参画、以降25年マシンビジョン業界に携わる。
2013年~2016年、キヤノン株式会社にてマシンビジョン関連の新製品開発のソフトウェアリーダとして従事。現在は、エバンジェリストとして活躍中。

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