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コラム|発注方式のモヤモヤを解消する(前編)
~教科書通りにはいかない!?様々な発注方式と、実務における考慮点~[2022.9.1]
昨今、経済・社会環境は急激に変化し続けています。それによっておこる社会課題やトレンドに対し、需要予測・需給計画は柔軟に対応していく必要があります。
そこで本コラムでは、需要予測・需給業務の担当者や最新のトレンドを学びたい方向けに、今後必要とされる需要予測・需給計画の取り組みやポイントについて、弊社コンサルタント独自の視点で解説します。
発注方式のモヤモヤを解消する(前編)
在庫管理の教科書を開いてみると、「定量発注方式」や「定期発注方式」など様々な発注方式が紹介されています。読めば何となくわかった気になるのですが、どうもモヤモヤが消えません(私だけかも知れませんが)。そんなモヤモヤを少しだけ解消してみたいと思います。
定量発注方式
定量発注方式とは、在庫が一定数(発注点と呼ぶ)以下になったら一定量を発注する発注方式です。例えば、「ビールが5本以下になったら1ケース(24本)発注する」といった具合です。
発注点と発注量をどうやって決めるのかが気になります。教科書を見ると、発注点は次の式で決めればよいと書かれています。
つまり「在庫数が[今から発注して届くまでの間の使用量+安全在庫]を切ったら発注しないと在庫切れしますよ」ということです。
しかし夏と冬では使用量はかなり違います。それに「在庫が発注点を切ったら発注」の「在庫」というのはいつの時点の在庫なのでしょうか?
常にリアルタイムに在庫を把握できるのでしょうか?調達期間内の使用量を発注点の基準にしていますが、本当にリードタイム×24時間後ぴったりに納品されるのでしょうか?お盆休み前だと届くまでかなり時間がかかるかもしれません。仮に調達期間ぴったりで納品されたとして、すぐに使用可能になるでしょうか?
ビールだと届いてから冷蔵庫で冷やさないと美味しくないですね。モヤモヤします。
次に、発注量は経済的発注量というので決めれば良いとも書かれています。
発注量が少ないと在庫は低く抑えられて保管費用は安くつきますが、頻繁に発注しなければならず、発注費用が高くなるので、ちょうどいいくらい発注しましょうということです。いくら面倒だからといって、ビールを1年分まとめて発注したら、置き場に困ってしまうからです。
さらに、経済発注量を計算した結果29本だったとして、そんな注文受け付けてくれるでしょうか?実際には1ケースか2ケース発注することになりそうです。モヤモヤします。
定期発注方式
定期発注方式とは、一定周期(発注間隔と呼ぶ)でそのときに必要な数量を発注する発注方式です。「毎月1日にだけビールを必要なだけ発注する」といった具合です。必要な数量は次の式で計算できます。
「発注間隔+調達期間」というのは、次の発注タイミングで発注したものが届くまでの期間で、その間の使用量に安全在庫を加えた量を、現在の在庫量、既に発注したもの(発注残と呼ぶ)、これから発注するもので賄おうということです。こちらも季節による使用量の違いには対応できそうにありません。
それに、毎月1日に発注するとしたら実は発注間隔は一定ではありません(大の月、小の月があるため)。企業における発注の場合は、1日が休みの場合は発注できません。さらに、調達期間が一定でないのは、定量発注方式のところで述べた通りです。モヤモヤします。
不定期不定量発注方式
不定期不定量発注方式とは、必要な量を都度発注する発注方式です。明確な定義はないのですが、定量発注方式(発注点方式)の需要変動を考慮していないという問題点を改良したものと言えます。「発注点や発注量を需要の変動に合わせて動的に変更しましょう」ということです。
ビールの例で言えば、発注点を夏は大きく冬は小さく、1回の発注量も夏は大きく冬は小さくすればよいということになります。不定期不定量発注方式と聞くと、定期発注方式と定量発注方式の両方の弱点を解決した最強方式なのかと思ってしまいますが、そうではないようです。モヤモヤします。
モヤモヤの原因
モヤモヤするポイントが沢山出てきましたが、整理すると以下のようになります。
- 1.需要が一定という前提はありえない(不定期不定量発注方式では解消されています)
- 2.時間の概念が連続になっていて現実的ではない
- 3.365日いつでも発注できるとか一定間隔で発注するなどは現実的ではない
- 4.自由に発注量を決められるとは限らない
- 5.定量か定期かという視点だけで発注方式がネーミングされていて本質を表していない
私のモヤモヤに共感いただけたでしょうか?残念ながら、前編はここで終了です。次回、後編ではこれらのモヤモヤを1つずつ解消していきたいと思います。それまで、もうしばらくモヤモヤとお付き合い下さい。
筆者紹介
淺田 克暢(あさだ かつのぶ)
キヤノンITソリューションズ株式会社 R&D本部 数理技術部 コンサルティングプロフェッショナル。
「需給マネジメント」の普及を目指し、20年以上に渡って需給計画システムの導入コンサルティング業務に従事。中小企業診断士、流通科学大学非常勤講師(2003~2006年)、現在は東京理科大学のSCM関連の講義を担当。著書に『在庫管理のための需要予測入門』(共著、東洋経済新報社)、『なぜあなたの会社はITで儲からないのか』(共著、同友館)。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
在庫管理のための需要予測入門
キヤノンシステムソリューションズ株式会社数理技術部[編]
淺田 克暢+岩崎 哲也+青山 行宏[著]
■出版社:東洋経済新報社
■発売日:2004年12月22日
■ISBN:4492531874
■価格(税込):1,980円
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