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設計・製造の分断は、なぜ起きるのか?― 製造業の設計工程から考える、エンジニアリングDX製造業の設計工程で起きている課題と業務プロセス改革例

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設計部門で3D CADは使われている。 それでも、設計・製造・保守の現場では「うまく連携できていない」という声は後を絶ちません。 設計データが個人や部門に閉じ、正式な成果物は2D図面中心。 3Dデータは作られているものの、工程検証やレビューで十分に活用されていない―― こうした状態は、多くの製造業に共通する課題です。 本ページでは、製造業の設計工程に焦点を当て、 課題が生まれる構造を整理したうえで、 エンジニアリングDXによる業務プロセス改革の考え方と具体例を解説します。

この記事の目次

製造業の設計工程で、いま何が起きているのか

多くの製造業では、設計部門を中心に3D CADの導入が進み、 設計データのデジタル化自体は、すでに一定レベルまで進展しています。
しかし一方で、現場からは次のような声が聞かれます。

  • 3D CADは導入したが、設計業務の効率が劇的に上がった実感はない
  • 正式な成果物は2D図面が中心で、3Dデータは活用されきれていない
  • 設計・製造・保守で、同じ情報を何度も作り直している

これらは、個別のツールや担当者の問題ではなく、 設計工程を取り巻く「情報の持ち方・つながり方」そのものに起因する課題です。
よくある問題として、CADの領域では「データが個人管理になっている」「3DCADを設計で使いこなせていない」、PDM/PLMの領域では「正式出図が図面のみのため、3Dデータと乖離していく」「必要な情報がPLMに入っていない」、xRの領域では「3Dデータが活用しきれていない」などが挙げられます。また、これらの問題は「データ化」「データ連携」「新しい価値創造への活用」の分野に分けられると考えています。 多くのお客さまが直面している問題を以下の図にまとめました。

図:エンジニアリングチェーンが直面している問題点

設計工程に潜む、3つの構造的な課題

課題1:設計データが「個人・部門」に閉じている

設計データが設計者個人のPCや部門内で管理されており、 製造・生産技術・品質・保守といった他部門が、 必要なタイミングで、必要な形でアクセスできないケースは少なくありません。 その結果、

  • 設計意図が正しく伝わらない
  • 製造側で解釈・作り直しが発生する
  • 問題が起きた際の原因追跡に時間がかかる

といった非効率が生まれます。

課題2:2D図面と3Dデータが乖離している

正式出図は2D図面、設計検討は3Dデータ―― この二重構造により、  

  • 最新情報がどちらかわからない
  • 変更が反映されず、認識ズレが起きる
  • 3Dデータが“参照用”に留まる

といった問題が起きがちです。 本来、設計情報の中心となるべき3Dデータが、 業務の中核で活用されていない状態です。

課題3:3Dデータが「使えるデータ」になっていない

3Dデータは作成されていても、

  • 設備レイアウト検討 
  • 工程検証
  • 作業手順書・製造帳票
  • 教育・レビュー

といった後工程で実際に使われる場面では、 2D資料や経験に頼っているケースが多く見られます。 これは「3Dが使えない」のではなく、 使える形で整備・共有されていないことが原因です。

お客さまアンケートに見る課題

課題の本質は「ツール不足」ではなく「データのつながらなさ」

エンジニアリングチェーンにおける問題について、当社独自のアンケートを実施した結果は以下の通りです。
「データ化」「データ連携」の分野では約70%、「新しい価値創造への活用」の分野では全てのお客さまから問題に共感するとご回答いただきました。

エンジニアリングチェーンが直面している問題点の表をもとに、
当社50名のお客さまへの行ったアンケート調査より(2024年12月現在)
68%:データ化に関する問題 70%:データ連携に関する問題 100%:新しい価値創造への活用に関する問題 【コメント一部抜粋】・3D CADが全体で使いこなせていない(設計以外でも使用したい) ・3Dデータを生産部門でも活用したい ・工程設計にて試作作品ができてから実施すると手戻りが多い ・3Dから2D CADに作り直して、データ共有をしている。最終的には紙情報が正しい

これらの課題は、 「CADが古いから」「 PLMが難しいから」「現場がITに弱いから」といった理由で生じているわけではありません。
本質的な問題は、 設計・製造・保守を貫く 「データの流れ」が設計されていないこと にあります。
設計工程で生まれる情報が、「どこに蓄積され 」、「誰が」、「どの業務で」、「 どのように使うのか」が、整理されないまま個別最適が積み重なり、 結果として分断された業務プロセスが固定化しているのです。

エンジニアリングDXによる業務プロセス改革

業務プロセスの再設計​

エンジニアリングDXは、 こうした構造的な課題に対し、 「設計情報を、データとしてつなぎ、活かす」 という視点から業務プロセスを再設計します。
​単純なデジタル化やIT化ではなく、データの利活用により業務プロセスの変革を推進し、新しい収益モデルの創出を支援するものです。まずは、エンジニアリングチェーンに着目し、現状の業務プロセス改革(=見直し)からはじめ、その後、DX(デジタルトランスフォーメーション)や生成AIの活用により効率化や新しい価値の創出を図ります。

現状確認と将来像の検討 現在の状況を確認させていただきながら、将来像をお客様と一緒に描きます。 お客様に合わせた導入支援を実施 お客様の環境を考慮し、ワークフロー・運用を検討。各種業務に紐づく利用者向け資料作成や勉強会など状況に応じたご支援が可能です。

「作るデータ」から「使われるデータ」へ。
これが、エンジニアリングDXの目指す姿です。

エンジニアリングDXは、エンジニアリングチェーンに着目した業務プロセス改革です。ですが、サプライチェーンも見据えたエンジニアリングチェーンの見直し、データの利活用を進めることで、以下のようなサプライチェーンを取り巻く課題の解決も可能です。

STEP 1設計情報を「データ」として正しく残す

  • 3Dデータを設計成果物の中心に位置づける
  • 図面・属性情報・BOMを含めて整合性を保つ
  • 属人化しない形で管理できる状態をつくる

STEP 2設計〜製造〜保守でデータをつなぐ

  • PLMを軸に、正式情報を一元管理
  • 設計変更の履歴・意図を追跡可能にする
  • CADとPLMをシームレスにつなげ、手作業を減らす

STEP 3現場・レビュー・検証で活用する

  • 3Dデータを使った工程検証・作業検討
  •  製造帳票・作業指示への展開
  • 設計レビュー・教育・訓練への活用
設計・製造を分断しないための業務プロセス改革後の目指す姿
情報の可視化とリアルタイムデータの活用
サプライチェーン全体の状況をリアルタイムで把握できることで、迅速な意思決定が可能になり、問題の早期発見と対応が実現します。
効率的な在庫管理
データに基づく需要予測により、在庫の最適化が図れ、コスト削減や欠品防止が実現します。これにより、資金の効率的な運用が可能になります。
リスク管理の向上
データ分析を通じてリスク要因を早期に特定し、適切な対策を講じることで、サプライチェーンの安定性が向上し、突発的な問題への対応力が強化されます。
顧客満足度の向上
データ分析を通じてリスク要因を早期に特定し、適切な対策を講じることで、サプライチェーンの安定性が向上し、突発的な問題への対応力が強化されます。

エンジニアリングDXとは

図:キヤノンITソリューションズが考えるエンジニアリングDX

キヤノンITソリューションズが提唱するエンジニアリングDXとは、設計・開発・製造といったエンジニアリング領域の業務を起点に、データとプロセスをつなぎ直し、企業価値の最大化を目指すDXの考え方です。単なるIT導入にとどまらず、CADやPDM、PLM、3Dデータ活用などを横断的に連携させ、As-Is(現状)からTo-Be(あるべき姿)へ段階的に移行し、ものづくり企業の競争力強化と新たな価値創出を支援します。

業務プロセス改革例(Before / After)

事例1:データ利活用のためのプラットフォーム構築

  • CAD
  • PDM/PLM

PDM/PLMによりプラットフォームを構築、整理することで、製造部門でのデータ活用に繋がります。
例1)3Dデータを使った工程検証(帳票類作成、バーチャル作業性検討 等)
例2)設計コスト情報も含めた、コスト検証

PDM/PLMの活用メリット

  • 情報の整合性向上:データが一元管理(連携)され、重複や矛盾を防ぎ、必要なデータを維持
  • アクセスの容易さ:迅速なデータへアクセスでき、業務効率が向上(作業時間を短縮)が可能
  • 変更管理の効率化:設計変更時、トレーサビリティが向上し、変更の追跡や反映が容易に可能
  • コラボレーションの促進:チームで同じデータにアクセス可能。コミュニケーションの円滑化が図れる。

PDM/PLMの機能例

  • 回覧時、承認者へ自動メール送信
  • 一元化された情報をキーワードで横断的に検索・取得
  • 関連する情報を芋づる式に容易に取得
  • ワークフロー内データ自動変換(STEP・PDF・DXF)
  • 出図データをPLMへ自動連携
出図データをPLMへ自動連携 SOLIDWORKS PDM→PLM

PLM(Product Lifecycle Management)ソリューション 

製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なるIT導入ではなく、業務プロセスそのものを変革し、競争力を高める取り組みです。その中の中核を占めるのが、PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)です。は、「製品に関わるあらゆる情報(設計データ、図面、BOM、仕様、コスト、変更履歴など)を、企画から設計・製造・保守・廃棄までの製品のライフサイクル全体を一貫して一元管理・活用するための“情報基盤”」です。製造業の業務は大きく「エンジニアリングチェーン」「サプライチェーン」2つのチェーンに分かれます。

キヤノンITSでは、製品企画~ 設計(CAD)と、 工程設計~生産管理・SCMを結ぶ情報のハブとして、mcframePLMを通じ、業務に定着し、成果につながるPLM活用を支援します。

事例2:3Dデータを利用した製造帳票作成・検証

  • xR+Viewer

XVLデータにて3Dを使った製造帳票類作成・検証だけでなく、3DによるBOM管理、メカトロ機構動作・制御仕様検証、サービスドキュメントへの活用も可能です。
例1)3Dデータも紐づくBOM管理(3D形状と設計属性情報の製造連携)
例2)HTML形式の3Dドキュメントの作成(XVL Web Master)
例3)軽量データ(XVLフォーマット)における、等身大比率、作業性検討(MREAL)

XVLの活用メリット

  • 設計3Dデータを製造側でも活用。製造側帳票類の作成、検証が可能。
  • デジタルデータでの検証にて試作回数削減、品質UPへ
  • 言語の壁を超える、アニメーションによる手順書
  • 2D図面ではわかりづらかった部品表が3D相互ハイライトで明確に
  • バーチャルで視認性、作業性検討が可能

XVLの機能例

  • 工程検証(作業指示書、工程QC表)など作成
  • 工程ステップのアニメーション作成(無償ビューワーによる確認)
  • 大規模干渉チェック
  • 3D工程表のExcel出力
3D埋め込み帳票類作成 3D工程検証、作業指示書

3Dソリューション

3Dソリューションとは、ものづくりにおける企画・デザイン、設計、生産までの上流工程プロセスを変革・進化させるためのソリューションであり、CAD・PLM製品を活用した業務改善をご提案します。

事例3:時間、場所に制限されない設計プロセスの構築

  • xR+Viewer

プラットフォームに入っているデータを利活用します。XRによる検証により、設計部門、製造部門の機能・効率向上、活性化が見込めます。
例1)出図前3Dデータによる、作業性検討により出図前に設計データへフィードバック
→出図前に検証することで設計効率化、製造効率化、コスト削減を実現
例2)バーチャルによる工程影響確認の実践(設備の視認性確認、作業姿勢確認)

XRの活用メリット

  • サイズ感、距離感等の直観的な検証が可能
  • 製品開発期間の短縮、手戻り工数の削減
  • グローバル化に伴った、異文化メンバとのコミュニケーション活性化
  • 遠隔地の協力会社と共同開発の推進(相互理解の促進、即断即決)

XRの機能例

  • CAD/XVLデータを活用した、3D工程検証・作業性検証
  • 複数拠点のメンバーによる設計・組立検証
  • 試作品検証に代わるデジタルデザインレビュー
  • 新人トレーニング、ノウハウ・技術の保存、継承
図:事例3:時間、場所に制限されない設計プロセスの構築
『MREAL』を利用した複数拠点間でのデザインレビュー

xRソリューション(MR/VR/AR)

産業向けXR技術(Extended Reality)は、製造業、建設、医療、物流など多くの産業分野で活用が進んでおります。当社は豊富な業務適用の経験を活かし、お客さまの課題に寄り添い、その解決を支援する業務改革ソリューション提案を進めています。

一気にDXしない。As‑IsからTo‑Beへ

エンジニアリングDXは、 すべてを一度に変えるものではありません。

  • まずは「困っている業務」から
  • 効果の出やすい領域から
  • As‑Isを整理し、To‑Beを描く

課題の優先順位に応じて、 業務プロセス改革を“1つずつ”進めていくことが重要です。

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エンジニアリングチェーンにおける「DX」の進め方

DXとは、『データとデジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務プロセスを変革し、企業の競争力を高める』ことと定義されています。単純な情報や業務のデジタル化ではありません。DXによって、ビジネス戦略とITシステムを迅速かつ柔軟に変革していく企業を「デジタル企業」と呼びます。