リスキリングと人事DXの進め方 第9回 リスキリングに使える公的支援(助成金など)リスキリングと人事DXの進め方
公開日:2025年9月11日
リスキリングを進めていくと、研修の実施回数や資格手当の支給者数が多くなり、会社のコスト(人件費)も増加していきます。このようなリスキリングにかかるコスト増加を軽減するためには、助成金支給などの公的支援を活用することが効果的です。ここでは、リスキリングを進める会社が受けられる公的支援について説明します。
目次
人材開発支援助成金(厚生労働省)
人材開発支援助成金は、研修を実施した事業主などに対して、研修費用や研修期間中の賃金の一部を国が助成する仕組みです。助成金には、次の6つのコースがあります。
(1)人材育成支援コース
「職務に関連した知識・技能を習得させるための10時間以上の訓練(人材育成訓練)」や「厚生労働大臣の認定を受け職業訓練(認定実習併用職業訓練)」などを実施した事業主に対して、訓練費用や訓練期間中の賃金の一部を助成します。
(2)教育訓練休暇等付与コース
「3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇」を導入・適用した事業主に対して助成金を支給します。
(3)人への投資促進コース(2022~26年度の期間限定で実施)
人への投資を行った、次の事業主に助成金などを支給します。
- 高度デジタル人材の育成のための訓練、海外を含む大学院での訓練を行った事業主
- IT分野未経験者の即戦力化のための訓練を行った事業主
- 長期教育訓練休暇等制度や教育訓練短時間勤務等制度を導入・適用した事業主
- 多様な訓練の選択・実施を可能とするサブスクリプション型研修サービスを利用して訓練を行った事業主
- 労働者が自発的に受講した職業訓練費用を負担する事業主
(4)事業展開等リスキリング支援コース(2022~26年度の期間限定で実施)
新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、従業員に対して新たな分野で必要となる知識・技能を習得させるための訓練を実施した事業主に対して、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。
(5)建設労働者認定訓練コース
認定職業訓練または指導員訓練のうち建設関連の訓練を実施した場合の訓練経費の一部や、建設労働者に有給で認定訓練を受講させた場合の訓練期間中の賃金の一部を助成します。
(6)建設労働者技能実習コース
雇用する建設労働者に対して、技能向上のための実習を有給で受講させた場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。
まずは、これらの6つのコースのうち、自社が受給できそうな助成金をピックアップしてみましょう。そのうえで、厚生労働省の「人材開発支援助成金」のWebサイトを見て、ピックアップしたコースの対象範囲や助成額などを確認し、申請手続きを進めていくと良いでしょう。
教育訓練給付金(厚生労働省)
教育訓練給付金は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した労働者に対して、教育訓練経費の一部を支給する仕組みです。前述した「人材開発支援助成金」とは異なり、教育訓練を受講する従業員がハローワークに支給申請を行い、給付金は(事業主ではなく)従業員本人に支払われます。会社としては、この給付金を受けられる教育訓練の受講を推奨することによって、従業員の自主的なリスキリングを促進することができます。給付金の対象となる教育訓練は、レベル等に応じて、次の3種類があります。
- 専門実践教育訓練
- 特定一般教育訓練
- 一般教育訓練
給付金の支給対象となる教育訓練、助成額などの詳細は、厚生労働省の「教育訓練給付金」のWebサイトなどで確認してください。
学習コンテンツの提供
公的機関が学習コンテンツを安価または無料で提供することによって、リスキリングを進める会社を支援する仕組みもあります。この公的支援には、次のものがあります。
マナビDX (独立行政法人情報処理推進機構)
公的機関が運営する、デジタルスキル習得に関する講座を紹介するポータルサイトです。デジタルに関する知識・スキルを習得するオンライン講座を安価(または無料)で受講することができます。
マナパス (文部科学省)
社会人の大学等における学び直し講座情報等を発信しているポータルサイトです。ビジネスから暮らし・趣味に関することまで、幅広く講座を紹介しています。
会社は、助成金や学習コンテンツを受けるなどにより、コスト増を抑えながら、社内のリスキリングを進めることができます。これらの公的支援を積極的に活用するべきです。
さて、本稿では、これまでリスキリングの効果的な進め方について説明してきました。次回以降は、リスキリングを進めることによって人事DXを実現した事例について紹介していきます。
著者プロフィール
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。