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親子間リース取引第1回:子会社は新リース会計基準を適用する必要があるのか公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説


新リース会計基準をテーマにしたセミナーや、パネルディスカッションなどのイベントが、キヤノンITソリューションズ株式会社を含む多くの企業で開催されています。
​これらのイベントで集められたアンケート結果をみると、上場企業ではなく、その子会社からの参加がとても多いようです。
上場企業では、リース取引に関する契約書の調査や、各契約における「リースの識別」や「リース期間」の検討が終わり、グループ会計方針を作り始めている企業も多くなっているようです。
​しかし、子会社では、親会社の会計方針が決まり、具体的な指示が出るまで待っている状態の会社がとても多いようです。
​新リース会計基準の強制適用まで、あと1年3か月を切りました。
​残された時間がどんどんなくなっていく中で、もっと時間が経ってから、親会社から厳格な対応を求められたらどうなるのか。
​不安を抱えているように感じられます。
​そこでこのコラムでは、今回から数回にわたって、親子間でのリース取引に焦点をあてて解説をしたいと思います。
​その第1回となる今回は、新リース会計基準を適用する必要のある子会社について整理してみます。

子会社は会計基準を厳格に適用する必要があるのか

親会社としては、連結財務諸表を適切にするために、子会社に会計基準の厳格対応を求めることが多いように思います。
ここで重要なポイントは、親会社は親会社の連結財務諸表を適切にすることを目的としているということです。
言い換えれば、親会社としては子会社の個別財務諸表を適切にすることが目的ではないので、本来親会社が会計基準の厳格対応を求めるような指示をする必要はないということです。
したがって、子会社が、新リース会計基準に準拠していなければ、子会社が提出した個別財務諸表に対して、連結手続きで適切に修正する仕訳を加えて、親会社の連結財務諸表を作成すれば、連結決算上の問題はないのです。
もっとも、会計基準に準拠していないことで、子会社の経営に重要な判断ミスを引き起こすような取引については、会計基準に準拠した対応をすることが望まれます。これは管理会計上の観点による会計基準への準拠です。

ただしこの話には、重要な例外があります。
​それは、子会社が「法定監査」の対象会社であるかどうかです。

「法定監査」の対象会社とはどういう会社か

「法定監査」は、会社法の要求に基づく「会社法監査」と金融商品取引法の要求に基づく「金融商品取引法監査(以下、金商法監査)の二つがあります。

  • 会社法監査の対象会社
    • 大会社:以下のいずれかに該当する株式会社
      • (a)
        資本金が5億円以上
      • (b)
        負債総額が200億円以上
    • 監査等委員会設置会社
    • 指名委員会等設置会社
    • 任意で会計監査人を置いた会社(定款や株主総会決議で会計監査人を置いた場合)
  • 金商法監査の対象会社
    • 上場会社
    • 上場準備会社(IPO準備企業)
    • 店頭登録会社
    • 有価証券届出書の発行者
    • 所有者数が一定以上の株券等を発行する会社
      • (a)
        株券の所有者数が1,000人以上

        (ただし、資本金5億円未満の会社は除外)

      • (b)
        優先出資証券の所有者数が1,000人以上
      • (c)
        みなし有価証券の所有者数が500人以上

        みなし有価証券とは、信託受益権、合同会社・合名会社・合資会社の社員権、組合型ファンドの持分、電子記録で取引される債権、その他政令で定める権利(学校債など)です。

ここまで説明しなくても、「うちの会社は監査法人などによる会計監査は受けていないから、法定監査の対象会社じゃないよ」ということで、明確に理解されている方も多いと思います。

ただ、問題が起こりうるのは、新リース会計基準を適用することで、リース負債が計上され、それによって1.①(b)の「負債総額が200億円以上」になってしまうケースです。

会社法上の大会社を判定するのは、新リース会計基準を適用する前か後か

会社法監査の対象になるかどうかの判定をする際に、新リース会計基準を適用しなければ、負債総額が200億円未満になるが、適用すると200億円を超えるような場合には、どのような判定になるでしょうか。

中小企業会計要領を適用する会社は、新リース会計基準を適用する義務はありません。
​したがって、中小企業会計要領を適用する会社は、リース負債を計上しない貸借対照表を作成できます。
​しかし、実務的には、このような対応は、形式的、表面的あるいは技術的な対応であり、「大会社かどうかの判定を目的として会計基準を選択する」ことは会社法の趣旨に反するとされるようです。

また、中小企業会計要領は、次のように定義されています。

  • 中小企業のための会計基準
  • 大会社や上場準備企業を想定していない

したがって、大会社に該当する可能性が高い規模の企業が、大会社判定を避ける目的で中小企業会計要領を選択することは、中小企業会計要領の趣旨にも反し、実務上認められないのです。

ここまでの結論をまとめると以下のようになります。

  • 中小企業会計要領を適用できる会社は、新リース基準を適用しないことはできる
  • しかし、大会社判定を避ける目的で中小企業基準を選択することはできない
  • 監査法人は、会社の規模・利害関係者・開示の必要性から、適切な会計基準を要求する

つまり、
​「中小企業基準を適用すれば大会社判定を避けられる」という理屈は、法律上は成立し得るが、実務上は成立しないのです。

それでは次回以降の本コラムでは、

  • 法定監査の対象会社子会社とそうではない子会社が、個別財務諸表でどのような対応をするべきか
  • 親会社とのリース取引とグループ外企業とのリース取引とで、どのように対応をするべきか
  • そして、子会社で行った会計処理に対して、連結手続きでどのように対応するべきか

について、解説する予定です。

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著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。