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企業の成長をけん引するバックオフィスDX~効果的な進め方とポイント~バックオフィスDX

公開日:2025年11月17日


現代のビジネス環境において、企業の持続的な成長に「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は必要不可欠な取り組みとなりました。多くの企業がその重要性を認識し、取り組みを開始している一方で、「何から手をつければ良いのか分からない」、「期待したほどの効果が得られない」といった課題に直面している企業も少なくありません。 DXは全社を巻き込む壮大なプロジェクトであり、その推進には大きな困難が伴います。しかし、成功への確かな一歩を踏み出すための、効果的な進め方が存在します。それが、企業の土台を支える「バックオフィスからDXを始める」という考え方です。 本稿では、DXの本質を改めて問い直し、着実に成果を出すための推進ステップを解説します。そして、なぜバックオフィスがDXの「最初の成功体験」を積む場として最適なのか、その理由と、バックオフィスDXがもたらす全社的な成長へのインパクトについて、具体的な進め方のポイントとともに詳しく解説します。

DXの本質とは?単なる「デジタル化」との違い

DXについて議論する際、まず押さえておくべきはその本質です。DXは、単に紙の書類を電子化したり、ITツールを導入したりする「デジタル化」と同義ではありません。 経済産業省の定義によれば、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています。 つまり、DXの本質は「デジタル技術を活用した企業全体の変革」にあります。アナログな情報をデジタルデータに置き換えるだけでは不十分であり、そのデータを活用して業務プロセスを効率化し、ひいては新たな顧客価値の創出やビジネスモデルの変革へとつなげ、市場における競争優位性を確立することこそがDXの本質です。この本質を理解することが、DX成功への第一歩となります。 

DX推進を成功に導く3つのステップ

壮大な目標であるDXを一挙に成し遂げようとすると、計画が頓挫しがちです。そこで、DXを以下の3つのステップに分解し、段階的に進めていくアプローチが効果的です。

デジタイゼーション(Digitization)

最初のステップは、アナログ・物理的な情報をデジタル形式に変換することです。例えば、紙で保管していた契約書や請求書をスキャンしてPDF化する、会議の議事録を手書きからテキストファイルでの作成に切り替える、といった取り組みがこれにあたります。これはDXの基礎となる、いわば「デジタル化の入り口」です。

デジタライゼーション(Digitalization)

次のステップは、特定の業務プロセス全体をデジタル技術やITツールを用いて効率化・自動化することです。デジタイゼーションで作成したデジタルデータを活用し、業務の流れそのものを変革します。例えば、クラウド型の会計システムを導入し、請求書発行や購買申請から上長の承認、そして経理部門での仕訳処理までを一気通貫でオンライン化するようなケースが該当します。これにより、特定の業務プロセスにおける生産性が飛躍的に向上します。

デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)

最終ステップが、本質的な意味でのDXです。デジタライゼーションによって部門や業務ごとに最適化されたプロセスを、さらに組織横断的に連携させ、ビジネスモデルそのものを変革し、新たな価値を創出します。例えば、バックオフィス業務の自動化によって得られた正確な財務・人事データを、営業やマーケティングデータとリアルタイムに連携させ、データに基づいた経営判断を可能にします。さらには、効率化によって生まれた人的リソースを、より付加価値の高い戦略的な企画業務へ再配置する、といった全社的な変革が可能となります。

この3つのステップを順に踏むことで、企業は着実にDXを推進していくことができます。

なぜ「バックオフィス」から始めるべきなのか?

DXを推進する上で、最初の取り組みとして最も適した領域が、経理、人事労務、総務といったバックオフィス業務です。その理由は大きく2つあります。

理由①:定型業務が多く、効率化・自動化しやすい

バックオフィスには、請求書の発行・処理、給与計算、勤怠管理、経費精算、各種申請業務など、毎月・毎年決まった手順で行われる定型業務(ルーティンワーク)が数多く存在します。これらの業務はルールが明確であるため、RPA(Robotic Process Automation)やクラウドサービスといったデジタル技術との親和性が非常に高く、自動化・効率化の効果を出しやすいという特徴があります。複雑な判断を伴う非定型業務が多いフロントオフィス(営業、マーケティングなど)に比べ、比較的スムーズにデジタル技術を導入し、成果に結びつけることが可能です。

理由②:コスト削減などの効果が数字で明確に表せる

DXの推進には、当然ながらITツール導入などの初期投資が必要です。経営層の理解を得て予算を確保するためには、その投資対効果を明確に示す必要があります。その点、バックオフィスDXは効果測定が非常に容易です。 例えば、「ペーパーレス化による紙代・印刷代・保管コストの削減額」や、「システム導入による業務時間短縮を人件費に換算した削減額」など、具体的な数値を算出することができます。「月間〇〇時間の残業削減」、「年間〇〇万円のコストカット」といった明確な成果は、経営層への説得材料として非常に強力であり、次のDX投資への弾みにもなります。 


このように、「効果を出しやすく、その効果を可視化しやすい」バックオフィスは、全社的なDXの成功事例を作るための「スモールスタート」の場として、まさに最適な領域と言えます。

バックオフィスDXが全社的な変革をけん引する

バックオフィスDXのメリットは、単なる業務効率化やコスト削減にとどまりません。その最大の価値は、全社的なDXを推進する強固な土台を形成する点にあります。 経費の申請、勤怠の打刻、給与明細の確認など、バックオフィスが提供するサービスは、役員から現場の社員まで、ほぼ全ての従業員が日常的に利用するものです。これらの業務がデジタル化され、スマートフォンからいつでもどこでも申請できるようになったり、面倒な手続きが簡素化されたりすれば、多くの従業員が「デジタル化は便利だ」、「DXは自分たちの働き方を良くしてくれる」と、そのメリットを直接的に体感することができます。 この「成功体験の共有」によって、DXに対する従業員の心理的なハードルを下げ、組織全体の変革に対する前向きな意識を醸成します。一部の部署だけで進めるDXとは異なり、全社に広がるバックオフィスDXは、従業員一人ひとりのITリテラシーの向上にもつながり、「もっと他の業務も効率化できないか?」といったボトムアップの改善提案を生むきっかけにもなります。 さらに、正確かつリアルタイムに蓄積されたバックオフィスのデータは、経営や現場の意思決定を支える貴重な情報資産となります。このデータを活用する文化が根づけば、企業はデータドリブンな経営へと大きく舵を切ることができるはずです。 バックオフィスDXは、個人の生産性向上と、全社レベルでの変革への機運を高める、まさに「企業変革のけん引役」としての役割を担うことができるのです。 

おわりに

DXはもはや、一部の先進企業だけのものではありません。変化の激しい時代を勝ち抜くすべての企業にとって、避けては通れない重要な経営戦略です。 そして、その壮大な変革への道のりは、自社の足元を支えるバックオフィスの変革から始まります。バックオフィスDXは、目に見える成果を出しやすく、そこで得られた成功体験と効率化によって生まれたリソースは、必ずや次の変革への大きな推進力となるはずです。 本稿でご紹介した効果的な進め方とポイントが、企業の成長をけん引するバックオフィスDXの第一歩を踏み出す一助となれば幸いです。 

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著者プロフィール

辻・本郷税理士法人ロゴ画像

辻󠄀・本郷 税理士法人
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