一括償却資産とは?
少額減価償却資産との違いやメリット・デメリット、仕訳方法などを徹底解説トレンド情報
公開日:2025年5月18日
経理業務において、一括償却資産と少額減価償却資産の区別は、資産管理と税務処理の両面で重要な意味を持ちます。
一括償却資産とは、特定の基準に基づき、購入した年度に全額償却できる資産のことです。これに対し、少額減価償却資産は、一定の金額以下の資産を指し、これもまた特別な償却方法が適用されます。
これらの資産は、企業の財務戦略において、節税対策として利用されることが多いですが、適用のルールを誤ると税務上のリスクを招くことにもなりかねません。そのため、メリットとデメリットを正しく理解し、適切な仕訳方法を身につけることが、企業経営においては不可欠です。
そこで今回は、一括償却資産と少額減価償却資産との違いや、メリット・デメリット、仕訳方法などを徹底解説します。企業の経理を担当する方は、ぜひ参考にしてください。
目次
一括償却資産とは?少額減価償却資産との違いも解説
一括償却資産とは、取得価格が10万円未満、または20万円未満の減価償却資産(国外リース資産やリース資産、少額な減価償却資産を除く)のことです。
一括償却資産では個別の減価償却をせずに、使用を開始した年から3年間にわたり、その年に一括償却資産に計上した資産の取得価額の合計額の3分の1を必要経費とするものです。
なお、対象となる資産の判別方法は、国税庁のWebページをご参照ください。
一括償却資産と少額減価償却資産との違い
一括償却資産と少額減価償却資産は、日本の税法における減価償却の特例ですが、適用条件や償却の方法が異なります。以下は一括償却資産と少額減価償却資産の違いを表で整理したものです。
項目 | 一括償却資産 | 少額減価償却資産 |
---|---|---|
定義 | 取得価額が一定以上の資産を、一括して償却する方法 | 取得価額が少額(一般的に30万円未満)の資産 |
償却方法 | 資産の取得年度を含めて、3年間で均等償却する | 必要に応じて全額を費用として計上可能 |
法的規定 | 所得税法および法人税法に基づく規定 | 所得税法および法人税法の特例措置 |
対象資産例 | 大型の設備や機械など | 文房具、工具、事務用品など |
メリット | 資産管理の簡略化 | 即座に費用として認識可能 |
制約 | 定められた年数内で償却しなければならない | 対象となる資産の価額に制限がある |
一括償却資産の特徴
一括償却資産には、以下の特徴があります。
-
✓個別の減価償却をせず、使用開始年から3年間で取得価額の合計額の3分の1を毎年必要経費に計上できる
-
✓すべての企業が利用可能
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✓償却資産税の申告対象資産にならない
少額減価償却資産の特徴
少額減価償却資産とは、中小企業者等が取得価額が30万円未満の資産に適用できる特例で、以下の特徴があります。
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✓取得した年度に全額を必要経費として計上できる(即時償却)
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✓青色申告を行っている中小企業者等に限られ、年間300万円までの資産取得に適用できる
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✓固定資産税(償却資産税)の課税対象となる
このように、一括償却資産は、原則として取得価格が20万円未満の固定資産を対象とし、3年間で均等に償却することができるため、耐用年数が3年を超えるものでも短期間で償却が可能です。これにより、節税効果を早期に享受できるメリットがあります。一方で、利益が下がる可能性があるため、金融機関からの融資や投資家からの出資を受ける際に不利になる可能性があります。
これに対し、少額減価償却資産は、中小企業者等が取得価額が30万円未満の資産を使い始めた年度に全額を損金にできる特例です。これにより、事業年度末に資産を取得した場合に通常は1ヶ月分の減価償却費しか計上できないものが、この特例を利用することで取得価額の全額を経費にできます。ただし、固定資産税の課税対象となる点に注意が必要です。
なお、少額減価償却資産の適用条件については、国税庁のWebページをご確認ください。
大企業における少額減価償却資産の経理処理方法
大企業における少額減価償却資産の経理処理は、中小企業向け特例の適用範囲外である点に注意が必要です。以下では、税制改正や内部統制要件を踏まえた最新の実務対応を解説します。
大企業が適用できる償却方法の基本原則
少額減価償却資産の特例適用をできない
資本金1億円超または従業員500人超の大企業は、30万円未満の資産の即時償却特例を利用できません。
そこで、代替手段として以下を活用します。
-
✓一括償却資産として計上し、20万円未満資産を3年で均等償却する
-
✓通常償却を行い、個別耐用年数に基づく定額法/定率法を活用する
実務上の選択基準と節税方法
以下は、取得価額別の適切な処理方法です。ぜひ参考にしてください。
取得価額 | 処理方法 | 税務メリット |
---|---|---|
~10万円 | 即時経費化 | 全額損金算入可能 |
10万~20万円 | 一括償却資産 | 3分の1ずつ計上・償却資産税非課税 |
20万~30万円 | 通常償却 | 耐用年数に応じた節税効果 |
グループ会社で対応する際のポイント
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✓連結決算対象全社で処理基準を統一すること
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✓海外子会社の資産も国内基準に準拠すること
-
✓
「SuperStream-NX」などの連結モジュールで、グループ全体の償却スケジュールを一元管理すること
内部統制強化の必須要件
電子帳簿保存法への対応
2025年度から領収書の電子保存が義務化されたことで、以下のシステム機能が求められます。
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✓購入日・金額・耐用年数の自動判定
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✓証憑データと会計システムの連携
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✓税務署提出用書類の自動作成
リスク管理のフレームワーク
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✓資産台帳と実地棚卸の差異分析
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✓除却時の内部承認フロー整備
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✓税務調査対応マニュアルの作成
税務調査に対応するための重要ポイント
否認リスクが高い事例
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✓20万円未満資産を経費処理
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✓耐用年数の過短設定
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✓証憑書類の不備(用途・日付・金額の記載漏れ)
対応チェックリスト
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✓償却計算明細書を3年間保存する
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✓資産管理台帳との突合作業を行う
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✓税務署への事前相談記録を整備する
一括償却資産のメリットと効果的な活用法
次に、一括償却資産のメリットと効果的な活用法について解説します。
一括償却資産のメリット4つ
一括償却資産の主なメリットとして、以下の4つが挙げられます。
1.短期間での減価償却が可能となる
一括償却資産は、取得価格が10万円以上20万円未満の資産を対象とし、3年間で均等に償却することができます。これにより、法定耐用年数よりも短期間で減価償却が完了し、早期に減税効果を享受できます。
2.償却資産税が非課税となる
一括償却資産は償却資産税の課税対象外となるため、税負担の軽減につながります。
3.会計処理を簡素化できる
一括償却資産は、取得価額を3等分して経費計上するだけなので、会計処理が比較的簡単になります。
4.すべての企業が利用できる
一括償却資産は、企業規模に関わらず利用できるため、多くの事業者が活用できます。
一括償却資産の効果的な活用法3つ
一括償却資産の効果的な活用法としては、以下の3つが挙げられます。
1.新規事業を立ち上げたとき
新規事業を始める際に必要な機器や設備を一括償却資産として処理することで、初期投資の負担を軽減できます。
2.事業拡大に伴う設備投資を行うとき
事業の拡大に必要な設備や機器の購入を一括償却資産として処理することで、短期間での減価償却を行い、税負担を抑えることができます。
3.節税対策したいとき
利益が出ている年に一括償却資産を多く購入し、その年の税負担を減らすことが可能です。
ただし、一括償却資産の活用は企業の財務状況や事業計画に応じて慎重に行う必要があります。また、税法の改正により適用条件が変わることがあるため、最新の情報を確認することが重要です。
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一括償却資産のデメリットと対策方法
次に、一括償却資産のデメリットと対策方法について解説します。
一括償却資産のデメリット2つ
一括償却資産の主なデメリットには、以下の2つが挙げられます。
1.利益が低下する
一括償却資産は、費用処理や償却期間を短くすることによる節税効果がありますが、経理上の利益が下がることになります。
2.残存価値の処理ができなくなる
一括償却資産を活用することで、売却や除却・廃棄の際に残存価値を個別に処理することができなくなります。
一括償却資産のデメリットの対策法
上記のデメリットの対策方法としては、以下の点が考えられます。
1.利益管理を徹底すること
一括償却資産を利用する際は、あらかじめ利益が下がることを考慮し、他の経費削減や収益向上の施策とバランスを取る必要があります。
2.資産管理を徹底する
一括償却資産を利用した場合には残存価値の処理ができなくなるため、資産の売却や廃棄を計画する際はその影響を事前に検討し、適切なタイミングで行うことが重要です。
このように、一括償却資産の利用は会社の税務戦略において有効な手段の一つですが、そのデメリットを理解して適切な対策を講じる必要があります。
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一括償却資産を活用する際に注意すべきポイント4つ
一括償却資産を利用する際の注意点には、以下の4つが挙げられます。
- 取得価額の範囲を確認すること
- 償却方法を適切に選択すること
- 除却時の取扱いに注意すること
- 月割りで計算しないこと
それぞれ解説します。
1.取得価額の範囲を確認すること
一括償却資産は、取得価額が10万円以上20万円未満の資産に適用されます。この範囲を超えると一括償却の対象とならないため、注意が必要です。
2.償却方法を適切に選択すること
一括償却資産の償却方法には「申告調整方式」と「決算調整方式」の2つがありますが、いずれかを選択した後は変更できないため、注意が必要です。
なお、「申告調整方式」と「決算調整方式」については後述します。
3.除却時の取扱いに注意すること
一括償却資産は、除却した場合に残存簿価を除却損に計上することはできません。あくまでも、予定通り3年間で均等償却を行う必要があります。
4.月割りで計算しないこと
一括償却資産の減価償却費は月割りせずに、年度ごとに3分の1を損金算入します。
これらの点を踏まえ、一括償却資産の適用を検討する際は会計処理の簡略化や税務上のメリットを享受する一方で、上記の注意点を理解し、適切な管理を行うことが重要です。
また、クラウド会計システムを活用することでこれらの処理を、正確かつ効率的に行うことができるため、おすすめです。
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一括償却資産の仕訳方法と計算例
一括償却資産の仕訳方法には、「決算調整方式」と「申告調整方式」の2つがあります。以下では、それぞれの仕訳方法と計算例を解説します。
決算調整方式
決算調整方式とは、一括償却資産を購入した年度に資産勘定に計上し、3年間で均等に償却する手法です。
決算調整方式の仕訳例
パソコンを現金15万円で購入した場合の仕訳
購入時の仕訳
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
一括償却資産 | 150,000円 | 現金 | 150,000円 |
決算時(年度末)の仕訳
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 50,000円 | 一括償却資産 | 50,000円 |
決算調整方式の仕訳は、購入後の3年間毎年同じ金額で行います。
申告調整方式
申告調整方式とは、購入時に全額を経費に計上し、法人税申告書で償却費を調整する手法です。
申告調整方式の仕訳例
パソコンを現金15万円で購入した場合の仕訳
購入時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
消耗品費 | 150,000円 | 現金 | 150,000円 |
決算時の仕訳
申告調整方式では決算時の仕訳は行わないのが特徴です。購入した年度の法人税申告書で、2年目と3年目の経費にあたる100,000円を加算調整し、2年目と3年目の法人税申告書では、それぞれ50,000円を減算調整します。
上記のような仕訳方法を用いることで、一括償却資産の会計処理を適切に行うことができます。ただし、実際の会計処理には複雑な要素が含まれることがあるため、詳細な手続きについては会計の専門家に相談することをおすすめします。
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一括償却資産を節税に活かすためのポイント
一括償却資産を節税に活かすためには、以下のポイントがあります。
- 一括償却資産の適用範囲を理解すること
- 少額減価償却資産の特例も考慮すること
- 経理処理の簡略化に活かすこと
- 固定資産税の節税に活かすこと
- 資金繰りの改善に活かすこと
それぞれ解説します。
1.一括償却資産の適用範囲を理解すること
取得価額が10万円以上20万円未満の固定資産を一括償却資産として処理することができます。これにより、3年間で購入費を損金にすることが可能です。
2.少額減価償却資産の特例も考慮すること
青色申告を行っている中小企業や個人事業主は、30万円未満の資産を全額損金に算入できる特例があります。この特例の限度額を使い切った後、一括償却資産を利用することで、節税効果を最大化できます。
3.経理処理の簡略化に活かすこと
一括償却資産は、月割り計算をせずに年度ごとに3分の1を損金算入することができるため、経理処理が簡単になります。これにより、経理担当者の負担を軽減し、間違いのリスクを減らすことができます。
4.固定資産税の節税に活かすこと
一括償却資産として処理した固定資産は、固定資産税の対象から外れるため、固定資産税を節約できます。
5.資金繰りの改善に活かすこと
短期間で損金を計上できるため、資金繰りに余裕を持たせることができます。特に資金繰りが厳しい時には、一括償却資産を利用することで、経費を多く計上し、税負担を軽減することが可能です。
これらの方法を適切に活用することで、一括償却資産を節税に有効に活かすことができます。ただし、税制は頻繁に変更されるため、クラウド会計システムをソフトを導入して、これらの処理を効率化するのがおすすめです。
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