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DXはデジタル化からビジネスイベーションへのシフトが鮮明に―DX動向調査結果を踏まえたビジネスイノベーションの提言―前半INNOVATION INSIGHTS イノベーションのヒント

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公開日:2025年4月18日

要旨

  • キヤノンITソリューションズ株式会社(以下「弊社」)は、経済産業省による2018年の『DXレポート』発表から5年が経過した区切りとして、これまでの国内企業によるDXの取り組みを総括し、今後のDXのあり方を考えるタイミングであると考えた。
  • そこで、国内事業会社における、DXの現在地や取り組みに対する評価、これからの取り組みなどを把握することを目的に、国内事業会社の経営層やマネジメント層600名超を対象に、「DX動向アンケート調査※」を実施した。
  • 本調査では、弊社独自の「DX進度マトリクス」を用いてDXへの取り組み状況を確認し、「デジタル化による生産性向上の成果は一定程度出ており、今後国内企業は、“ビジネスイノベーション”をめざすDXを加速する」ことを確認した。
  • しかしながら、“ビジネスイノベーション”は容易ではない。現場まかせの改善とは異なり、各社各様のイノベーションのアイディアとビジョン・戦略が必要で、創出難度が高いためである。そこで、本レポートでは、調査結果を整理・考察したうえで、「ビジネスイノベーション推進に向けた提言」も加えた。提言は、「自社の想いと特性に合う航路を描く」「顧客体験価値と利益方程式に注目してビジネスモデルを発想する」「長期取組施策・短期実現施策の組み合わせでロードマップを描く」などである。本レポートを、“ビジネスイノベーション”を推進・加速する際のヒントにしていただけると幸いである。
  • 「DX動向アンケート調査」は、2024年4月26日~5月7日に、マイナビニュース(TECH+)登録者パネルを対象にインターネットで実施。有効回答数は616人。集計・分析は、上記のうち、企業規模300人以上の企業にお勤めの308人(業種は多様)を抽出して実施した。

DX動向調査結果

本レポートでは、「ビジネスイノベーション」は、DXを含む多様な施策による、変革活動を表現している。また、DXのXを意味する「トランスフォーメーション」は、DXにより変革された状態を表現している。

DXの現在地は、“D”と“X”に因数分解した「DX進度マトリクス」で確認できる

弊社は、この定義において、「データとデジタル技術を活用して」という部分と、「変革し、競争上の優位性を確立」という部分が重要な要素と着目した。そこで、データとデジタル技術の活用度合いを「D(Digital)軸」、変革の進展度合いを「X(Transformation)軸」として、この2軸からなる「DX進度マトリクス」を考えた(図1)。

2018年12月に経済産業省が公表した「DX推進ガイドライン」では、以下のようにDXを定義している。

『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』

図1 キヤノンITソリューションズが提唱する「DX進度マトリックス」
図:ビジネスイノベーション推進センターが掲げる「DX進度マトリクス」

この図で、D軸・X軸ともに進展している企業を「デジタルトランスフォーメーション実践企業」、X軸のみ進展している企業を「トランスフォーメーション実践企業」、D軸のみ進展している企業を「デジタル化実践企業」、D軸・X軸のいずれも進展していない企業を「DX未実践企業」と分類した。

DX調査結果①

DXの現在地は、“D”状態が39%、“X”取組中が52%

「DX動向アンケート調査」ではまず、DXの取り組み段階について尋ねた(図2)。このなかで、②デジタル化の途上(デジタル技術を使い、生産性の向上に取り組み中:29%)③デジタル化実践企業(デジタル技術を使い、生産性の向上は実践したが、ビジネス創造はまだ:10%)という合計39%の企業については、前述の「DX動向マトリクス」において、「DX未実践企業」から「デジタル化実践企業」に移行している、あるいは、移行完了している企業群ととらえられる。

図2 DXの取り組み段階別 企業割合

一方、④DX実践企業への途上(生産性の向上は成果を出し、ビジネスモデル変革や新事業創造に取り組み中:13%)⑤トランスフォーメーション実践企業(新しいデジタル技術は使っていないが、ビジネスモデル変革は実現した:6%)⑥DX実践企業への途上(データ統合等であらたな事業創造が始まり、デジタル技術で拡充中:18%)⑦DX実践企業(全社戦略に沿って推進し、生産性の向上も、あらたなビジネス創造も実現した:15%)の合計52%の企業については、X軸において未進展の領域から進展している途中、あるいは、進展完了した企業群ととらえられる。

DX調査結果②

効率化目的企業の62%、ビジネス変革目的企業の38%の企業が成果ありと評価

次に、「DX動向アンケート調査」では、「DXにおける当初の目的ごとの成果有無」について尋ねた(図3)。これによると、当初の目的として「業務効率化・生産性の向上」を挙げていた企業217社中135社(約62%)が成果ありと評価している。一方、当初の目的として「競争上の優位性を確立するためのビジネスモデル変革」については106社中39社(約37%)、「あらたな製品・サービス・ビジネスの創出」については97社中37社(約38%)が成果をあげたと評価している。

図3 DXの当初目的ごとの成果有無

これらから読み取れるのは、業務効率化(「DX動向マトリクス」におけるD軸方向の進展)は過半数の企業が達成したと評価しているのに対し、ビジネス変革(「DX動向マトリクス」におけるX軸方向の進展)は全体として取り組み途上にあるということである。

DX調査結果③

DXの成功要因は戦略・戦術・リーダーシップ・モチベーション

次に、「DXの成功要因」について尋ねた(図4)。これによると、DXの成功要因として、「明確な戦略と具体的な戦術・施策」「経営者・DXリーダーのリーダーシップ」「DX推進メンバーのモチベーションの高さ」などが上位に挙がっていることがわかる。

図4 DXの成功要因

DX調査結果④

DXの目的は、デジタル化からビジネスイノベーションへのシフトが鮮明

アンケートでは、「当初のDXの目的」と「今後のDXの目的」をあわせて尋ねた(図5)。この回答結果を対比してみると、「業務効率化・生産性の向上」という目的を挙げているのは、当初217社から今後167社と23%減少しているのに対し、「競争上の優位性を確立するためのビジネスモデル変革」「あらたな製品・サービス・ビジネスの創出」の合計については、当初203社から今後251社へと23%増加し、対称的な増減を示している。このことから、DX取り組みの目的を、「業務効率化(D軸方向の進展)」から「ビジネスモデル変革(X軸方向の進展)」へシフトさせる動きが鮮明になっていると読み取れる。

図5 DX当初目的と今後の目的、推進上の課題

DX調査結果⑤

戦略欠如と人材不足がDX推進の課題

さらに、「DX推進上の課題」に対する回答(図6)において「DXビジョン・戦略の策定と見直し」「DX推進人材の確保・育成」が目立っていることと合わせて考察すると、ビジネスイノベーションを進めようとする際に、戦略の欠如(未策定)と人材の不足が課題として認識されていることが窺える。

図6 DX推進上の課題

DX調査結果⑥

生成AI には、生産性向上のほか、あらたな視点・アイディア提示にも期待

本アンケートでは、DX取り組みにおける「生成AIへの期待と懸念」についても付加的に尋ねた(図7)。
この回答結果を見ると、生成AIに対しては、生産性向上・デジタル化の強力なツールとしての効果のほか、新たな視
点の提示、アイディア創出、議論の壁打ちなどへの期待があり、DX動向マトリクスにおけるD軸方向への進展に対する
効果だけでなく、X軸方向の効果についても期待していることが読み取れる。

図7 生成AIへの期待と懸念 

DX調査結果⑦⑧

DX人材不足を補うITベンダーに対し、ビジネス知見・提言力不足に不満

さらに本アンケートでは、DX 取り組みにおける「IT ベンダーの活用領域」「IT ベンダーへの不満」についても尋ねた。
この設問は、DX を実際に取り組む際に、自社だけでなく、IT ベンダーを起用しているケースが多いことをふまえて設け
たものである。
まず、「IT ベンダーの活用領域」については、「全社のDX ビジョン・戦略の策定」「DX 施策の実装・開発・テスト」
の回答が目立った(図8)。

図8 ITベンダーの活用領域

ビジョン・戦略策定という最上流の部分から、現場における取り組み推進まで、幅広い段階でITベンダーの貢献を期待している様子がわかる。
これに対し、「ITベンダーへの不満」については、「ビジネスに対する知見の不足」「提言力の不足」「デジタル技術に対する知見の不足」という回答が目立った(図9)。大いにITベンダーの貢献を期待しているものの、実際には自社ビジネスへの理解やDXに関する専門性が不足していて、期待通りに貢献してくれないという不満が生じていることが読み取れる。

図9 ITベンダーへの不満

DX調査結果⑨

ITベンダーには、「ビジネスイノベーションの推進力」が期待されている

続けて尋ねた「今後のITベンダーへの期待」における回答(図10)では、前問の回答への裏返しとして「ビジネスに対する知見」「DXに関する提言力」への回答が上位に挙がっている。やはり、DX取り組みにおいて起用するITベンダーに対しては、単なる技術面でのサポートではなく、自社の実情を理解しながらDXに関する専門性を発揮してくれるような、「ビジネスイノベーションを推進する知見・提言力」が期待されていることがわかる。

図10 今後のITベンダーへの期待

DX調査結果のまとめ

これまでの回答結果をいったんまとめる。まず、DX取り組み企業全般において、単なるデジタル化(DX動向マトリクスにおけるD軸方向の進展)についてはある程度の成果を獲得し、今後はビジネスイノベーション(X軸方向の進展)で成果を上げたいと考えている企業が増えている。

さらに、ビジネスイノベーションの推進においては、ビジョン・戦略の策定や取り組み人材の確保が課題になっている。それらの課題を補完してもらうためのITベンダーの起用に際しては、単なる技術面でのサポートにとどまらず、自社ビジネス理解に基づきながらDX専門性を発揮してもらうという期待をしている。しかしながら、その期待は充足されていないのが現状であるといえる。


キヤノンITソリューションズは、お客様のビジネス環境や経営戦略に関する”想い”を起点に、ビジネスデザインとビジネスサイエンスにより、お客さまとともに競争優位の確立に邁進します。この「共想共創ステーション」を通じて、私たちビジネスイノベーション推進センターの取組を随時発信しますのでご待ください。

筆者紹介

写真:ビジネスイノベーション推進センター センター長 増田 有孝
増田有孝
ビジネスイノベーション推進センター
エグゼクティブパートナー

野村総合研究所にて、経営・DXコンサルティングを担当。キヤノンITSに入社後、ビジネスイノベーション推進センターを立ち上げ、DXコンサルティング事業を指揮。コンサルタントの育成にも注力。

  • ビジネスイノベーション推進センター:VISION2025で掲げる「ビジネス共創モデル」を推進するために組成した組織。ビジネスとIT技術に長けた“ビジネスデザイナー”、数理技術に長けた“ビジネスサイエンティスト”から成る“DXコンサルタント集団”。

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