このページの本文へ

ホテル業界コラム第3回 ロボットが働くホテルの未来図コラム

公開日:2025年4月2日

ホテル業界にあっても常套句のようになっている“人手不足”という言葉。コロナ禍で疲弊した業界も全体として業績は回復基調にあり、新規開業するホテルも目立っている。一方で人手不足の問題は深刻。ホテル関係者と会えば「募集の方はどうです?」「相変わらずです」と挨拶代わりのように会話が交わされる。

コロナ禍を経てますます際立つ運営形態・手法の画一化やブランド寡占。優勝劣敗という言葉のとおり求人でも“弾かれる”ホテルは多々存在する。他方、効率的な運営模索や資するシステムは日々研究され、DX化も進んでいるものの、やはりマンパワーが要のホテルビジネスにおいては予断の許さない状況が続いている。

ロボットスタッフに着せる制服?

こうした人手不足の問題はコロナ禍前のインバウンド活況時から叫ばれてきたが、そのもっと前からホテルと人の未来を見据えた取り組みをしている会社がある。福岡市に本拠を置くRocket Road 株式会社である。代表取締役社長の泉幸典氏との初めての出会いは、ホテル評論家になって少し経った頃だから7年くらい前になるだろうか。
 
当時、開口一番「ホテルでもロボットが活躍する時代が来ます!ロボットに着てもらうユニフォームも重要になります」「同じように見えるロボットですが、各々の役割を示す認識記号としてのユニフォームが必要になると考えています」と熱量高めに話した。当時、正直話が未来過ぎるなぁという印象であった。

Rocket Robot株式会社

当時はコロナ禍前でインバウンド活況のはしり、ホテル業界全体として盛り上がっていた。ネガティブな情報には蓋をするような向きもあり、“ホテルばかり造って人手はどうする”“インバウンド活況も山ありいずれ谷あり”などと書くと業界関係者から叱られるようなこともあった。
 
その後のさらなるインバウンド活況→ホテル激増→人手不足について問題の深刻化を筆者個人としてはメディアで指摘していくことになるが、ホテルとスタッフについて深く考察するにつれ、当時の氏の話を思い出すようになった。未来過ぎる話という印象から少し先の未来というくらいの認識の変化ではあったが。
 
Rocket Roadのスタートは2016年。「ROBO-UNI」(ロボユニ)というロボットの公式衣装ブランドを立ち上げ「ロボットの普及を想像するに、見かけは同じ裸のロボットが家やホテルやレストランにも学校にも、あらゆる所にいる場面を想像した」という。会社の実務としては、ロボットに限らず人間の着用する制服のデザインなども手がけ、ホテルの制服を請け負う事業も多数実績を有するが、ゆえにホテルのロボットスタッフ制服への思いは並々ならぬものがあるのだろう。

ホテルにとって制服とは

そもそもホテルにとっての制服とは何なのだろうか。筆者は蝶タイにスーツがトレードマークだが、仕事でホテルにいるとホテルスタッフに見えたのだろうか稀に場所など尋ねられることがある(今夜手品あるのですか?と温泉ホテルでおばあちゃんに聞かれたこともある)。ホテル男性スタッフ=蝶タイというイメージからと思われるが、かように制服にはそうした役割は大きい。

ホテルのイメージにとってスタッフが着用する制服は重要であるが、さらにデザイン性や非日常感も大切な要素。最も大切なのはホテルのイメージに合うデザインということになろうか。昨今、ライフスタイルホテルといわれるホテルでは、ジーンズやユニクロのカジュアルなファッションが制服というホテルも際立っているが、これもまたホテルのイメージという点がフォーカスされている。

無論、毎日着用するものだけに働きやすさや耐久性も大切だ。そうしたホテル制服について、これがロボットの制服となるとさらに複雑。精密な機器であり可動部分と布地の設計や熱の発生もあるだろう。とにかくロボットに布地を被せることは相当ハードルが高いことは想像に難くない。

福岡の会社では、デザインや縫製から熱、温度とセンサー、静電など多様な実証実験を重ねたデータをロボットメーカーへ提出、承認を経てロボットメーカーの公式衣装として採用された実績もある。とはいえまだまだ黎明期といえるロボット、さらにはロボットの制服である。ホテルのコンセプトを体現できるようなロボット制服という点と共に、制服は働く者のモチベーションを上げるといわれるが、ロボットのモチベーションも上げてくれるようなホテルで制服を着たロボットが量産され活躍する光景は未来図か。

制服を着たロボット

いま某地方都市でホテル取材をしているが、人口規模に見合わない大型ホテルの開業が続くエリアだ。具体的なホテル名やデータなど記すと他の取材に影響があるので伏せるが、地方中核都市にして交通インフラの整備も続く観光都市でもある。ゆえにホテル開業は当然の成り行きなのだろうが、人口規模に見合わないというのは働く人が集まらないという点でも問題をはらむ。

地元の求人業者に話を聞いてみるも「大都市ならまだしも地方都市で大型ホテルが開業するとスポイルのように既存のホテルから人がいなくなる」という。そこに小規模ホテルが求人をかけてものれんに腕押し状態なのは言わずもがな。大都市圏であれば取れる方策もあるが「この地で働く人のパイは決まっていますから」と前出の求人業者は肩を落とす。人材の奪い合いといった様相であるが、取材先の小規模ホテルでは新年会の社長挨拶が「大型の開業続きますが・・・他のホテルへ行かないで」だったという。

ホテル人手不足とロボット-未来を見据える責任

ますます危惧されるホテル業界の人手不足の解決にロボットが役割の一端を担えるのか。技術の進化とは別にホテルとホスピタリティーにおいてロボットは相容れないという意見もある。とはいえ、想像できなかった未来がスピーティーに近づき追い越す現実を様々なシーンで見てきた。省人化は人手不足の有効な対策であるが、ホテルだからこそ人の役割に近づけるロボットが働ける親和性も感じずにはいられない。

Rocket Road社内のロボット

ホテルのホスピタリティーとロボット制服について前出の泉氏に問うと「ロボットのホテルスタッフ制服の設計は確かにハードル高い仕事ですが、老若男女へ多様なサービスを提供するホテルのホスピタリティーにとって、安心してロボットと寄り添える記号としての制服の持つ意味合いは重要」と力説した。
 
働く人の不足など何のその「何とかなるだろう」と人の手当もままならないままホテルを造るだけ造る光景に、繰り返す時代そして主体のないある種の無責任さを感じるのは筆者だけだろうか。“人の豊かさをロボットと共に”というコンセプトには、少なくとも先の未来への人間がとるべき責任の一端と覚悟を垣間見るようだ。

筆者紹介

ホテル評論家 瀧澤 信秋

瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)
ホテル評論家

1971年生まれ。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。

関連するソリューション・製品

ホテルソリューション
キヤノンITソリューションズの提供するホテルソリューションでは、お客様の目的に合わせて「PREVAIL」と「Maries」の2つの製品をご紹介しております。
また、お客さまの目的に合わせて、様々なソリューションと連携し、最適なシステムをご提供しております。
(※デバイス型セルフチェックイン機は、オムロンソーシアルソリューションズ株式会社製と連携しております。その他製品との連携については、お問い合わせください。)
PREVAIL
ホテルシステム(PMS)の基本機能に加え、レベニューマネージメント機能とサイトコントローラー連動でインターネット予約サイトの販売をコントロール。販売機会を逃しません。また、バージョンアップにより、セルフチェックイン機やダイナミックプライシングサービスとの連動を実現。「PREVAIL(プリベイル)」がホテル経営を強力に支援します。