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データの力で競争力強化~成功事例から学ぶデータマネジメントキヤノンITソリューションズ 共想共創フォーラム2025イベントレポート

本セッションでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)におけるデータマネジメントの重要性とその進め方についてお話しします。また、複数システムに蓄積されたデータを統合・名寄せ整理し、それを根拠に顧客体験価値向上につながる対応や施策を行うことで、実際にお客さま満足度向上を実現した事例を紹介します。競争力強化のためのデータ戦略を探求し、ビジネスの未来を見据えた実践的な知識を得る絶好の機会です。

キヤノンITソリューションズ株式会社
デジタルビジネス営業本部 事業企画部 主任
楠山 雅典

セミナー動画(視聴時間:49分45秒)

DXの本質と、企業に求められるデータマネジメントとは

冒頭では、キヤノンITソリューションズの楠山が登壇し、DXの定義とその必要性について、社会背景を交えて解説しました。

DXが求められる背景

日本社会が直面する「少子高齢化」「労働人口の減少」「2025年の崖」といった構造的課題に対し、企業は業務効率化や生産性向上を急務としています。これを支えるのが、生成AIやデータドリブン経営といった先進的なIT活用です。

DXのステップ

DXは段階的に進めるべきものであり、以下の三つのステップがあります。

  • デジタイゼーション:アナログ業務のデジタル化(例:SFAツールの導入)
  • デジタライゼーション:業務の高度化(例:部門間での情報共有による提案力強化)
  • トランスフォーメーション:新たな価値創出やビジネスモデルの変革

データマネジメントの定義

DXを支える基盤として欠かせないのが、デジタルデータの活用です。デジタルデータの活用とは、「準備」「蓄積」「可視化」「連携・変換」「統合・管理」といった一連のプロセスを通じて、業務や意思決定に活かすことを意味します。こうしたデータ活用を実現するためには、次の3つの要素が不可欠です。

仕組みづくり
データを活用するための業務プロセスやルールの整備
体制
部門横断でデータを扱える組織的な連携と役割分担
システム構築
実際にデータを扱うためのIT基盤やツールの整備

これら3要素を包括的に整備し、連携させることこそが、私たちが考える「データマネジメント」です。

データマネジメントは、特定のツールを導入すれば完了するものではありません。むしろ、企業全体でデータを活かすための“土台”をつくる取り組みであり、DXを継続的かつ拡張可能に推進するための基盤となるものです。

キヤノンマーケティングジャパンが挑んだCRM刷新とD2C戦略

それでは、経営方針・戦略に紐づけてDXの目的・ゴールを定め、どのようにデータ活用の仕組み・体制・システムを進めていくのか。その具体的な取り組み例を、キヤノンマーケティングジャパン株式会社の常谷氏が語りました。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社のコンスーマー部門では、カメラや家庭用プリンターといった主力製品の市場縮小という厳しい現実に直面していました。スマートフォンの普及やペーパーレス化の加速により、従来の販売手法では限界があると判断し、顧客との直接的な関係構築を目指す「D2C(Direct to Consumer)」戦略に踏み切ったのです。

顧客情報の分散と統合の必要性

これまで、顧客情報は複数の会員組織や部門ごとのシステムに分散して管理されていました。たとえば、フォトサークルの会員情報とオンラインショップの購買履歴を突合するだけでも、複数のシステムを横断する必要があり、非常に手間がかかっていました。
このような状況を打破するために、すべての顧客情報を「キヤノンID」に統合。これにより、顧客は1つのIDで複数のサービスにアクセスできるようになり、利便性が大幅に向上しました。社内でも、デジタル施策の集約化が可能となり、個別最適から全体最適へとシフトする基盤が整いました。

顧客体験を高める「CXループ」の設計

CRM刷新の中核を担ったのが「CXループ」という考え方です。顧客の行動ステージ(認知→比較検討→購入→利用体験→アフター)に応じて、最適な情報やサービスを提供することで、継続的な関係性を築くことを目指しました。たとえば、比較検討ステージにいる顧客には、限定コンテンツや製品紹介を通じて購入意欲を高める施策を展開。利用体験ステージでは、写真教室やフォトコンテストの案内を通じて、製品の満足度を高める取り組みが行われています。
このような施策により、キヤノンIDの登録数は前年比で約10%増加。しかも、カメラや写真に高い関心を持つユーザー層の獲得に成功しており、D2C戦略の成果が数字としても表れています。

事業部門が“使い続けられる”システムをどう作るか

CRM刷新を支えるシステム構築を担当したのが、キヤノンITソリューションズの田中氏です。目指したのは、「事業部門が自ら使い続けられるシステム」の実現でした。

現場の課題を丁寧に拾い上げる

事業部門では、「欲しいデータはあるが使えない」「属人化した運用で継続性がない」「部門間の連携が乏しい」といった課題が山積していました。これらを解決するために、まずは現場の声を丁寧にヒアリング。KGI・KPIや重要顧客の定義、ペルソナ設計などを事業部門と一緒に整理し、システム設計に反映させました。

IT部門と事業部門の役割分担

システム構築では、IT部門と事業部門の役割を明確に分けることが重視されました。IT部門は初期設定や運用支援を担い、事業部門はUIベースで操作可能なツールを使って施策を実行。SQLやHTMLなどの専門知識がなくても使えるようにすることで、現場の負担を大幅に軽減しました。

データマネジメントの実践

この取り組みの中で、データマネジメントの概念が実務にどう活かされるかが明確になりました。

データの見える化
CXループに基づき、顧客の行動ステージをデータで補足。ターゲット顧客の定義情報とパラメータを事業部門がチューニングできる仕組みを実装。
安全性の確保
個人情報や機密情報は分離管理し、必要な人だけがアクセスできるように設計。
継続的な改善
パラメータの定期的な評価、ダッシュボードの導入、月次定例会での情報共有など、運用フェーズでも伴走支援を継続。

これらの工夫により、事業部門は「使える」「続けられる」システムを手に入れ、データに基づいた施策を自律的に展開できるようになりました。

今後の展望 

最後に、ディスカッションでは、D2C戦略の成果やデータ活用の課題と解決策について登壇者が意見を交わし、今後の展望として、より高度なパーソナライズ施策の展開や、データの継続的なチューニングが重要である点について共有しました。
本セッションを通じて、データマネジメントは、単なる理論ではなく、実業務に根ざした「価値創出の仕組み」となることをお伝えしました。データを整備し、活用できる状態にしておくこと、現場が使い続けられるシステムを構築すること、運用を継続的に支援していくことを、これからも続けてまいりいます。