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DXはなぜビジネスに深いイノベーションを起こすのかキヤノンITソリューションズ 共想共創フォーラム2025イベントレポート

DXとAIはビジネスや社会の根本を変えようとしています。それはイノベーションとどう関係するのでしょうか。
デジタル化やAIが内包する原理に触れながら、それがバリューチェーン、顧客との関係、組織や人材のあり方にどのように影響し、深いイノベーションを起こすのか、実例を交えて解説します。

東京大学 未来ビジョン研究センター 客員教授
株式会社IGPIグループ シニア・エグゼクティブ・フェロー
西山 圭太 様

セミナー動画(視聴時間:50分24秒)

こんな方におすすめ

  • 経営層・DX推進担当者
  • IT・技術開発部門
  • 人事・組織開発担当者
  • 製造業・交通インフラ事業者

DXはなぜビジネスに深いイノベーションを起こすのか

2025年6月に開催された本セミナー「DXはなぜビジネスに深いイノベーションを起こすのか」では、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授・西山圭太氏が、DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質とそのインパクトについて、理論と実例を交えて解説しました。

  • DXの原理

    DXとは単なる業務のデジタル化ではなく、「課題の解き方」そのものを変えること。AIやクラウド技術により、課題解決のプロセスが分解・再構築可能になっています。

  • イノベーションの源泉は探索能力

    DXによって、従来の業種やサービスの枠を超えたソリューションが高速に探索可能となり、ビジネスの本質が「製品の足し算」から「探索能力の掛け算」へと変化しています。

  • 共創の重要性

    顧客との関係性は「競争」から「共創」へ。自社のサービスをレイヤー構造に位置づけ、他社と連携しながら価値を創出することが求められます。

  • 組織と人材の未来

    AIの進化により、分業の境界が揺らぎ、組織はフラット化。働き方も「configurable(柔軟に構成可能)」となり、個人の探索能力が組織の力となります。

DXの原理:課題解決の「解き方」を変える

図:デジタル化とは何か

DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は、単なる業務のデジタル化ではなく、「人間の課題をどう解くか」という根本的なアプローチの変革にあります。従来、コンピュータは万能のように見えても、人間の課題をどう伝えるかが難しく、課題解決のプロセスには大きな隔たりがありました。

しかし、AIやクラウド、ソフトウェア技術の進化により、課題の「解き方」そのものを分解・構造化し、探索可能な形に変えることができるようになりました。これにより、業務やサービスの提供方法だけでなく、組織構造や人材の役割、顧客との関係性までもが変化します。

  • DXは「課題の解き方」を変えることで、従来の業務構造を根本から再設計する。
  • コンピュータと人間の課題の間にあったギャップを、AIやクラウド技術が埋める。
  • レイヤー構造による分解と再構成が、探索能力を飛躍的に向上させる。
  • configurableな仕組みが、柔軟なサービス提供と組織運営を可能にする。
  • DXの原理を理解することで、業種や業務の枠を超えたイノベーションが実現する。

DXの原理とは、課題を直接解くのではなく、「どう解くか」を解き、柔軟に構成可能な(configurable)仕組みを構築することです。これにより、従来の業種や業務の枠を超えたイノベーションが可能となり、真の価値創出につながります。

DXとイノベーション:探索能力が価値を生む

図:DXとイノベーションの関係は?

DXがもたらす最大の変化は、ビジネス課題に対する「探索能力」の飛躍的な向上です。従来のビジネスは、既存の製品やサービスの延長線上で課題を解決していましたが、DXではクラウドやAIなどのデジタルツールを活用することで、課題の「解き方」自体を分解・再構築し、より広範で柔軟なソリューションを高速に探索できるようになります。

この探索能力は、業種や業務の枠を超えたイノベーションを可能にし、顧客のニーズにリアルタイムで応える新しい価値を創出します。Amazonのクラウドサービス(AWS)は、意思決定や課題解決のプロセスをモジュール化し、探索可能な仕組みに変えた好例です。Netflixは、視聴体験の最適化を探索能力で支え、組織文化まで変革しました。ダイセルは、熟練工のノウハウをソフトウェア化し、他業種にも展開可能なプラットフォームを構築しました。

  • DXは「課題の解き方」を分解・再構築し、探索能力を高めることで価値を生む。
  • クラウドやAIの活用により、業種の枠を超えた高速なソリューション探索が可能になる。
  • AmazonやNetflix、ダイセルなどの事例は、探索能力がビジネスモデルや組織文化を変えることを示している。
  • 探索能力は、顧客ニーズにリアルタイムで応える柔軟性とスケーラビリティを提供する。
  • DXの本質は、製品の足し算ではなく、探索能力の掛け算によるイノベーションにある。

探索能力を軸にしたDXは、単なる業務効率化ではなく、ビジネスの構造そのものを変える力を持っています。これにより、企業は自社の枠を超えた価値創出が可能となり、真のイノベーションが実現します。

DXと共創:顧客との関係性の再構築

DXの進展により、企業と顧客の関係性は「提供者と受け手」という一方向の構造から、「共に価値を創る」双方向の関係へと変化しています。デジタル化が進むことで、業務の一部が他社のサービスに依存するようになり、企業は自社の価値をどこで発揮するかを再定義する必要があります。

図:なぜ共創が求められるのか:デジタル化には引力がある

このとき重要になるのが「共創」の視点です。自社のサービスやプロダクトを柔軟に構成可能(configurable)にし、顧客のニーズに応じて組み替えられるようにすることで、顧客との関係性はより深く、継続的なものになります。Netflixやダイセル、みちのりホールディングスの事例では、顧客との接点を単なる提供ではなく、共に探索する場として再設計し、ビジネスモデルそのものを変革しています。

また、AIや生成AIの登場により、顧客との共創はさらに加速しています。企業は自社のビジネスをレイヤー構造の中に位置づけ、他社や顧客とデータや機能を共有しながら、より良いソリューションを共に探索することが可能になります。これにより、業種の垣根を越えた新しい価値創出が実現します。

  • DXは顧客との関係性を「競争」から「共創」へと変える。
  • configurableなサービス設計により、顧客ニーズに柔軟に対応できる。
  • 他社との連携やプラットフォーム化が、価値創出の鍵となる。
  • AIや生成AIの進化が、共創のスピードと質を高めている。
  • 自社のビジネスをレイヤー構造に位置づけることで、共創の可能性が広がる。

組織と人材の未来:セルフマネジメント型へ

DXの進展とAIの急速な発達は、企業組織の構造と人材の役割に大きな変化をもたらしています。従来の縦割り・階層型の組織では、役割分担が明確で、意思決定は上位者が担うものでした。しかし、AIが「課題の解き方」を理解し、補完・代替できるようになったことで、分業の境界が揺らぎ、組織はよりフラットで柔軟な構造へと移行しています。

この変化に対応するためには、組織と人材を「セルフマネジメント型」に再設計する必要があります。つまり、働く人が自ら情報を収集し、学び、判断し、チームを構築できる環境を整えることが重要です。Netflixの「No Rules Rules」に代表されるように、ルールや決裁に依存せず、コンテクスト(経営環境)を共有することで、個々の判断力と創造性を最大限に引き出すことが可能になります。

  • DXにより、組織は縦割りからフラットな構造へと変化する。
  • AIの進化が分業の境界を揺るがし、役割の再定義が必要になる。
  • セルフマネジメント型の働き方が、柔軟で創造的な組織文化を育む。
  • コンテクスト共有が、ルールに頼らない意思決定を可能にする。
  • 探索能力を持つ人材が、DX時代の価値創出の中心となる。

このような組織では、残業が減り、余裕が生まれ、社員が積極的に工夫やチャレンジを行う文化が育まれます。探索能力を持つ人材が中心となり、業種の垣根を越えた価値創出が可能となるのです。DXは、単なる技術導入ではなく、働き方そのものを変革する力を持っています。

まとめ

図:まとめ:組織と人材をセルフマネジメント型にする

本セミナーを通じて明らかになったのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質が「業務のデジタル化」ではなく、「課題の解き方を変える」ことにあるという点です。AIやクラウド、ソフトウェアの進化により、従来の業務プロセスや組織構造、顧客との関係性が根本から再設計可能となり、探索能力を軸にした新しい価値創出が可能になります。

DXは、業種や業務の枠を超えたソリューションを高速に探索し、顧客のニーズにリアルタイムで応える柔軟性を提供します。その結果、企業は「製品の足し算」ではなく「探索能力の掛け算」によって、真のイノベーションを実現できます。

さらに、DXは顧客との関係性を「競争」から「共創」へと変え、企業は自社のサービスをレイヤー構造の中に位置づけ、他社や顧客と連携しながら価値を創出することが求められます。組織と人材の面では、セルフマネジメント型の働き方が重要となり、個人の探索能力が組織の力となる時代が到来しています。

DXを単なる技術導入ではなく、ビジネスの構造改革と捉えることで、企業は持続的な競争優位と新しい価値創造を実現できるのです。

ポイントまとめ

  • DXの本質は「課題の解き方」を変えることであり、単なる業務のデジタル化ではない。
  • 探索能力の向上が、業種の枠を超えたイノベーションと価値創出を可能にする。
  • 顧客との関係性は「共創」へと進化し、柔軟なサービス設計が求められる。
  • 組織はフラット化し、セルフマネジメント型の働き方が重要になる。
  • DXは技術導入ではなく、企業の構造改革と文化変革の起点である。

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