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コラム|舞呉コボ郎のマイグレーション放浪記
第2回 メインフレーム to UNIX 編 / COBOL MOVEの深掘り 【後半】 [2024.7.1]
舞呉コボ郎のマイグレーション放浪記
前回「第1回 マイグレ創成期 編 / COBOL 一番重要なのはMOVEとIF」はこちら
COBOL編 ~「MOVEの深堀り」~
前回はMOVEとIFの概略を学んでいただきました。今回は、MOVEを深堀りします。IFの深堀りも今回記載予定でしたが、都合により次回まわしとさせていただきます。
MOVEの基本的な考え方
MOVEは基本項目同士で互いの属性が異なる場合に何らかの形式変換が行われて転記されます。属性の組み合わせによっては転記が許されずにコンパイルエラーになる場合もあります。
一方または両方が集団項目の場合は英数字転記になり、転記元よりも転記先の桁数が長い場合に空白が補われますが、それ以外の形式変換は行われません。
属性のバリエーション
「属性が異なる場合」と記述しましたが、COBOLで扱う属性の種類についても今回整理します。
たとえば、下記のように定義されたW-KOMOKUは何バイトの領域でどのようにメモリー配置されるのか?
といったことが分かるように説明したいと思います。
01 W-KOMOKU PIC 9(4) USAGE COMP-5.
良く使う項目属性のメモリー配置がどうなるかは頭に入れておくべきですが、それ以外は使うときにマニュアルを調べることができれば良いです。
下記の表と、以降の説明は、MOVE命令の各項目属性間の転記可否と転記仕様を記載したものです。以降は「転記マトリックス」と記載します。
- Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J for Eclipse のマニュアル
リファレンス>COBOL 言語リファレンス>第 2 部:プログラムの定義>手続き部>文>MOVE 文 から引用
送信側項目の項類 | 受信側データ項目の項類(関連する規則番号を各列に記載) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
英字 | 英数字編集/英数字 | 整数/整数以外 | 数字編集 外部/内部浮動小数点数 | 各国文字 | NCHAR以外の2バイト文字 | NCHAR2バイト文字 | ブール | UTF-8 | |
英字 | 適合/4c | 適合/4a | 非適合/3a | 非適合/3a | 適合 | 非適合/4e | 適合 | 非適合/3f | 適合 |
英数字 | 適合/4c | 適合/4a | 適合/4b | 適合/4b | 適合 | 非適合/4e | 適合 | 適合/3e | 適合 |
英数字編集 | 適合/4c | 適合/4a | 非適合/3a | 非適合/3a | 適合 | 非適合/4e | 適合 | 非適合/3f | 適合 |
整数 | 非適合/3c | 適合/4a | 適合/4b | 適合/4b | 適合 | 非適合/4e | 適合 | 非適合/3f | 非適合 |
整数以外 | 非適合/3c | 非適合/3c | 適合/4b | 適合/4b | 非適合 | 非適合/4e | 非適合 | 非適合/3f | 非適合 |
数字編集 | 非適合/3c | 適合/4a | 適合/4b | 適合/4b | 適合 | 非適合/4e | 適合 | 非適合/3f | 適合 |
各国文字 | 非適合 | 非適合 | 適合 | 適合 | 適合 | 適合 | 適合 | 非適合 | 適合 |
NCHAR以外の2バイト文字 | 非適合/4e | 非適合/4e | 非適合/4e | 非適合/4e | 適合 | 適合/4e | 適合 | 非適合/3f | 非適合 |
NCHAR2バイト文字 | 適合 | 適合 | 非適合 | 非適合 | 適合 | 適合/4e | 適合 | 非適合 | 非適合 |
ブール | 非適合/3c | 適合/4a | 非適合/3b | 非適合/3b | 非適合 | 非適合/3g | 非適合 | 適合/4f | 非適合 |
UFT-8 | 非適合 | 非適合 | 非適合 | 非適合 | 適合 | 非適合 | 非適合 | 非適合 | 適合 |
皆様がお使いのCOBOL製品のマニュアルにも上記と同様の転記マトリックスが記載されているはずです。
こちらについても、良く使う属性間の転記の仕様は頭に入れて置き、普段使わない属性を含むMOVEをコーディングする際などは、転記マトリックスで仕様を確認しましょう。
MOVEによって、転記元(送信側)項目の内部形式が、どのように変換されて、転記先(受信側)に設定されるかを知った上でコーディングすることが大切です。
特に、転記先項目をREDEFINESしたり、部分参照したり、集団項目転記で他の項目へ転記する場合は、物理的なメモリー配置が分かっていないと思わぬ不具合を引き起こすことがあるので注意しましょう。
転記マトリックスを使う前にUSAGE句について理解しましょう。 下記の様に定義された、「COMP-3」 とかが何を意味しているかです。
(COMPはCOMPUTIONALの省略形なので、USAGE COMP-3は、USAGE COMPUTIONAL-3と同意です)
01 W-KOMOKU1 PIC 9(04)V9(03) USAGE COMP-3.
なお、COBOL製品やコンパイル指令によって、COMP-nの意味合いが下記説明内容と異なる場合がありますので、お使いのCOBOL製品で確認してください。例えば、COMP-4が単精度の内部浮動小数点となるCOBOL製品があります。
下表は Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J を例として、数値として使用される「USAGE句」毎に、「PIC句の例」に記載した定義を行った項目に値12を設定した場合のメモリー配置を示しています。同じ12であってもメモリー配置はさまざまですね。
符号についても勉強しておきましょう。
- 「バイナリ」項目で符号をもつ形式と浮動小数点は、負数が格納された場合は符号部のビットが「1」となります。
- 「内部10進数」項目は、PIC句にS(符号)を含む場合は、右端の4ビットに符号が設定されます。
正の場合は16進で「C」、負の場合は16進で「D」が通常は設定されます。
PIC句にS(符号)を含まない場合は、右端の4ビットに16進で「F」が設定されます。
※内部10進数の符号は、COBOL製品によって異なる場合がありますので、お使いのCOBOL製品のマニュアルで確認してください。 -
「外部10進数」項目は、PIC句にS(符号)を含む場合に、分離符号か重ね符号かをSIGN句で指定することができます。
SEPARATEを指定すると分離符号となり、値が正の場合は文字「+」が、負の場合は文字「-」が符号に設定されます。
SEPARATEが指定されないと重ね符号となり、SIGN句の指定によって、項目の左端か右端のバイトに数値と符号を合わせた意味を持つコードが設定されます。
コボ郎の経験からは、99%以上はSIGN句を省略しているので、項目の右端が重ね符号の形式を使用されています。稀に項目の左端が分離符号の形式を使用されています。
それ以外の2つの形式は実物を見たことないですが、すべての形式について具体的に見ていきましょう。
上表のメモリー配置では、「0」と「2」の重ね符号を記載しましたが、重ね符号の一覧を記載しておきます。
符号を付加する前の左端または右端の値 | 符号付の値を表す文字 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
正の値 | 負の値 | |||||
文字集合(ASCII) | 文字集合(EBCDIC) | 文字集合(ASCII) | 文字集合(EBCDIC) | |||
符号(ASCII) | 符号(EBCDIC) | 符号(EBCDIC) | 符号(ASCII) | 符号(EBCDIC) | 符号(EBCDIC) | |
0 | 0(30) | {(7B) | {(C0) | p(70) | }(7D) | }(D0) |
1 | 1(31) | A(41) | A(C1) | q(71) | J(4A) | J(D1) |
2 | 2(32) | B(42) | B(C2) | r(72) | K(4B) | K(D2) |
3 | 3(33) | C(43) | C(C3) | s(73) | L(4C) | L(D3) |
4 | 4(34) | D(44) | D(C4) | t(74) | M(4D) | M(D4) |
5 | 5(35) | E(45) | E(C5) | u(75) | N(4E) | N(D5) |
6 | 6(36) | F(46) | F(C6) | v(76) | O(4F) | O(D6) |
7 | 7(37) | G(47) | G(C7) | w(77) | P(50) | P(D7) |
8 | 8(38) | H(48) | H(C8) | x(78) | Q(51) | Q(D8) |
9 | 9(39) | I(49) | I(C9) | y(79) | R(52) | R(D9) |
- Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J for Eclipse のマニュアル
リファレンス>COBOL 言語リファレンス>第 1 部:概念>COBOL言語の概念>データの字類および項類>文字の表現および基数の選定>DISPLAY 形式 (COBOL)から引用
- ※ 重ね符号はCOBOL製品によって異なる場合がありますので、お使いのCOBOL製品のマニュアルで確認してください。
ここまでで、転記マトリックスを使うために前提となる知識の習得ができましたので、転記マトリックスの使用方法をみていきましょう。
まず、転記元の項目が列Aのどこに合致するのか、転記先の項目が行1のどこに合致するかを調べます。列Aや行1に登場する項類や字類はCOBOL製品によって異なります。皆様がお使いのCOBOL製品のマニュアル記述に合わせて読み替えてください。
ここでは、Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J に準じて説明しますので、必要に応じて下記箇所も参照してください。
- Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J for Eclipse のマニュアル
リファレンス>COBOL 言語リファレンス>第 1 部:概念>COBOL 言語の概念>データの字類および項類 - Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J for Eclipse のマニュアル
リファレンス>COBOL 言語リファレンス>第 2 部:プログラムの定義>データ部>ファイル記述項およびデータ記述項>データ記述項の骨組み>PICTURE 句
列Aまたは行1の記述内容 | 識別方法の概要 |
---|---|
英字 | PICTURE文字列に「A]が指定されている場合。 表意定数 SPACE |
英数字 | PICTURE文字列に「X]が指定されている場合。 表意定数 SPACE,QUOTE「”」,LOW-VALUE,HIGH-VALUE,ZERO(転記先がD列とE列以外の場合),英数字文字列 ※英数字転記で表意定数が用いられる場合は、転記先項目のバイト数分だけ該当文字が設定される。 01 W-KOMOKU-ZERO PIC X(04). MOVE ZERO TO W-KOMOKU-ZERO この命令でW-KOMOKU-ZEROに4桁の「0」が下記のように設定される。 |
英数字編集 | PICTURE文字列に「A」や「X」、編集記号(「B」、「0」、「/」)を含む場合。 ※厳密な条件はマニュアル参照 |
整数 |
PICTURE文字列に「9」が含まれ、かつ、「 V(仮想小数点)」を含まない場合。表意定数ZERO(転記先がD列またはE列の場合)。整数の数字文字列。 ※USAGEはDISPLAY,COMP,COMP-4,BINARY,COMP-3,PACKED-DECIMAL,COMP-5,COMP-X |
整数以外 |
PICTURE句が存在する場合は、PICTURE文字列に、 「9」と「V(仮想小数点)」を含む場合。整数以外の数字文字列。 ※USAGEはDISPLAY,COMP-1,FLOAT-SHORT,COMP-2,FLOAT-LONG,COMP-3,PACKED-DECIMAL |
数字編集 |
PICTURE文字列に「9」や編集記号(0、「B」、「/」、「Z」、「*」、「+」、「,」、「.」、「-」、「CR」、「DB」、「\」)を含む場合。 ※厳密な条件はマニュアル参照 |
各国文字 |
PICTURE文字列に「N」が指定され、かつ、USAGE句に「NATIONAL」が指定されるか、USAGE句を省略してコンパイル指令NSYMBOL"NATIONAL"が指定される場合。 ※UTF-16のBMP(基本多言語面) がエンコードに用いられ、1文字が2バイトで表現される |
NCHAR以外の2バイト文字 |
コンパイラ指令DBCS=3が指定され、かつ、PICTURE文字列に「G」が指定され、かつ、USAGE句に「DISPLAY-1」が指定される場合。 ※コンパイラ指令で指定したCOBOL方言によってはUSAGE句省略時の既定値がDISPLAY-1となる場合がある |
NCHAR2バイト文字 |
NCHARコンパイラ指令NCHAR=2またはパラメータを省略されたNCHARが指定され、 かつ、PICTURE文字列に「N」が指定され、かつ、USAGE句に「NCHAR」が指定されるかUSAGE句が省略された場合。 |
ブール | PICTURE文字列に「1」が指定されている場合。 |
UTF-8 | PICTURE文字列にU(n)が指定されている場合。 |
数字編集の外部浮動小数点 |
PICTURE文字列に「E」が含まれ、「+」、「-」、「9」、「.」、「V」で構成されている場合。 (定義例)01 01 W-KOMOKU-6 PIC +9999.99E+999. |
下記のMOVEを例に転記マトリックスを使ってみます。
01 W-KOMOKU-FROM PIC 9(4) VALUE 12.
01 W-KOMOKU-TO PIC S9(5)V9(02) USAGE COMP-3.
MOVE W-KOMOKU-FROM TO W-KOMOKU-TO.
- 1.転記元は整数、転記先は非整数なので、交差箇所を見ると、「適合/4b」となっていることがわかります。
- 2.後述説明の4.bに記載されている内容のうち、条件に該当する箇所赤点線で囲んだ箇所を下記に抽出し、それに従った転記を図示します。
転記マトリックスとそれが示す引用箇所を記載します。
- Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J for Eclipse のマニュアル
リファレンス>COBOL 言語リファレンス>第 2 部:プログラムの定義>手続き部>文>MOVE 文 から引用
- ※ 下記のMicro FocusTM Visual COBOL 9.0J for Eclipseのマニュアルに記述されている楕円内のEnt/MFなどの記述は対応するコンパイル指令で設定するCOBOLの方言に対応しています。
- ※ なお2バイト文字を含む転記については、Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J マニュアルの下記箇所を参照してください。
- Micro FocusTM Visual COBOL 9.0J for Eclipse のマニュアル
リファレンス>COBOL 言語リファレンス>第 3 部:追加トピック 2 バイト文字サポートの Micro Focus 拡張>手続き部>MOVE 文 (DBCS)
今回は細かい説明が多かったのですが、マニュアルを読み解くために役立つ情報が提供できたのではないかと思います。
項目属性をしっかり押さえ、マニュアルに記載されている転記規則が理解できるようになることが大切です。
⇒次回へ続く
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