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「画像入力ボード(フレームグラバ)」その2 [2022.12.27]
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シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第37回)
「画像入力ボード(フレームグラバ)」その2 [2022.12.27]

シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第37回)3Dセンシング

先月(2022年11月)、Matroxより、汎用デジタルインターフェース(以降、IF)規格「GigE Vision」の最新25Gbpsに対応した画像入力ボード「Matrox GevIQ」がリリースされました。
今年の初め(2022年2月)のコラム、第33回の「技術トレンド情報」にて、画像入力ボードの動向は、汎用IFの登場により衰退していくとの予測から、近年は、産業用カメラの高解像度化や高速化に伴い、CPU負荷を軽減できる画像入力ボードに再びスポットがあたり、復権してくるとの見方になってきたとの話をしました。
今回、リリースされた製品は、まさに、そのことを象徴したものとなりますので、今回あらためて、画像入力ボードの概要、変遷、最新の画像入力ボードについてご紹介いたします。

画像入力ボード(フレームグラバ)とは

画像入力ボードとデジタルIF規格

画像入力ボードとデジタルIF規格

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画像入力ボード(フレームグラバ)は、産業用カメラの映像信号をパソコンのメモリに取り込むために利用する、デジタルIF規格に対応したハードウェアデバイスです。
元々は、産業用カメラの映像信号が、アナログ信号であったため、AD変換を行うことが大きな役割でしたが、映像信号の伝送方式も、テレビ放送のようにアナログからデジタルへと進化し、昨今の産業用カメラは、すべてデジタル化されました。パソコンに標準搭載されている汎用IFも、映像データの伝送に耐えうる速度となり、インターネット接続のEthernetを利用した「GigE Vision」規格、マウスやキーボードなどのパソコンの外部機器を接続するUSBを利用した「USB Vision」規格が誕生し、産業用カメラ用IFとして利用できるようになりました。

現在、産業用カメラ用のデジタルIF規格としては、CameraLink、CoaXPress、GigE Vision、USB Vision、の大きく4つあり、CameraLinkとCoaXPressが、画像入力ボードを必須とする専用IFで、GigE Vision、USB Visionが、汎用IFとなります。
汎用IFも、画像入力ボードを利用することで、CPU負荷軽減できるほか、撮像開始などの外部信号に連動した撮像や、ボード上のプロセッサで処理を行わせることで高速化できます。

画像入力ボード(フレームグラバ)の変遷

画像入力ボードの市場動向

画像入力ボードの市場動向

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Matrox社製 画像入力ボードの変遷

Matrox社製 画像入力ボードの変遷

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画像入力ボードの世界市場では、Matrox社(現在Zebra社)製の画像入力ボードが、販売台数(20.0%)、金額(22.4%)と、共にトップシェアとなっています(2019年度実績:富士経済調べ)。
Matrox社は、1980年代から画像入力ボードを製造している老舗メーカですので、画像入力ボード、IF規格の動向を見るのには最適です。図3は、1990年からの同社製の画像入力ボードの全ラインナップを掲載した変遷図です。右側にブルーラインで表示されているボードが、現在リリース中のもので、画像入力ボードとしては、先に紹介したCameraLink、CoaXPress、GigE Visionの他、デジタルテレビ放送規格のUHD、HD、SDが残るものとなっています。
デジタルテレビ放送規格は、テレビ放送用カメラからの映像信号や、ビデオ機器からの映像信号、PCモニタの出力信号などを画像データとして取り込む場合に利用します。
伝送速度最大は、CoaXPress規格で4チャンネル使用時の最大4.8GB/secです。CoaXPress規格は、同軸ケーブルを使用し、1本のケーブルを1チャンネルとしますので、4チャンネル使用時とは、カメラとボードを4本のケーブルで接続した構成となります。1チャンネルの最大転送速度が、1.2GB/secで、4本並列利用で、4.8GB/secが最大です。
また、パソコンに画像ボードを装着するバスの規格としては、2005年ごろ製品が普及し始めた、PCI-Express規格が、現在主流の規格です。2010年に規格化された、Ver3.0が、1レーン(1伝送路)で、1GB/secを達成し、4レーン、8レーン、16レーンなどが、パソコン側の仕様で用意されており、それぞれ、Ver3.0で4レーンは、4GB/sec、8レーンタイプは、8GB/secとなってます。
画像入力ボードは、現在、最大4.8GB/secであるため、PCI-Expressバス側も、Ver3.0対応で、8レーンでも十分間に合う速度です。ちなみに、PCI-Expressバス規格は、1レーンの速度は、Ver3.0で、1GB/sec、Ver4.0では、2GB/sec、Ver5.0では、4GB/secと、Version毎で2倍となっています。

現在、PCI-Expressバス規格は、市場では5.0が普及しており、8レーンで、32GB/secですので、バス側がボトルネックとなることはありません。ただし、映像データの場合、送られてくる映像データの配列を、CPUで変換する必要があります。画像入力ボードのようにCPU負荷をかけずに、DMA(ダイレクトメモリアクセス)でメモリに格納できるため、高解像度で高速なデータ伝送時に優位になります。

GigE Vision 25Gbps対応画像入力ボード「Matrox GevIQ」

25Gbps対応画像入力ボード「Matrox GevIQ」

25Gbps対応画像入力ボード
「Matrox GevIQ」

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画像入力ボード利用での高速化

画像入力ボード利用での高速化

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25Gbpsと聞くと、5G(第五世代移動通信システム)の最大伝送速度が25Gbpsとなり、1帯域での最大伝送速度となります。GigE Visionでは、1のコネクタを1ポートと称しますので、1本のケーブル接続で、25Gbpsを達成できます。GB/secの単位で表すと、3.2GB/secとなりますので、1ポート(1本のケーブル)で伝送できる速度としては、CoaXPress(1チャンネルで、1.2GB/sec)より高速となります。ただし、2本使って並列対応ができませんので、GigE Vision対応カメラとしての最大速度も、3.2GB/secとなります。

Matrox GevIQボードでは、独立2ポート搭載のため、25Gbps対応のカメラを2台または、HUBを使用し、1Gbpsや10Gbps対応のカメラを複数台接続可能です。また、汎用IFを利用すると、画像入力でのCPU負荷が大きくなり、撮像フレームの取りこぼしや、割り込みが多く発生し、結果、その後の画像処理を含めると、処理時間がかかり、且つ、バラつきが発生するため、画像入力ボードの利用をお勧めしています。
図5は、画像入力ボード利用での高速化の例です。上段は、10GigEカメラを2台接続して、処理を行った場合の各処理ごとの処理時間を示しています。下段は、25GigEカメラを1台接続した場合の、例です。いずれも、赤色部がボードを使用したときの処理時間ですが、いずれも高速に処理ができています。

画像入力ボードについては、以下のコラムにも併せてご覧ください。
1)「コラム第6回画像入力ボード(フレームグラバ)」 にて、過去のバス規格などの速度の変遷について、ご紹介しています。

2)「コラム第33回マシンビジョン市場動向・2023年予測(3)」にて、汎用IFの登場で、画像入力ボードは役割を終え、衰退していくとの予測から、復権するに至った動向などについてご紹介しています。

今回のまとめ

今回は、コラム第6回(Matrox画像入力ボードの変遷)から、2年経ちますが、各ボードの過去のリリース時期を確認しながら、リバイズいたしました。あまり、ご利用いただくことはないかと思いますが、Windows3.1やEISAバスなどを改めて記載していると、OSの変遷やバスの変遷を懐かしく感じました。

本年度最後のコラムが画像入力ボードという、かなりマニアックな内容ではありますが、まだまだ、続く一つの技術として押さえておいていただければと思います。コラムをお読みいただいている皆さま、2022年も残りわずかとなりましたが、1年間ありがとうございました。また、来年度2023年も、引き続き、最新情報からマニアックな情報まで、掲載してまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。それでは、良いお年を!

 

筆者紹介

シニアアプリケーションスペシャリスト 稲山

稲山 一幸(いねやま かずゆき)

エンジニアリング事業 シニアアプリケーションスペシャリスト

1992年住金制御エンジニアリング入社、Matrox社製品の国内総代理店立ち上げに参画、以降25年マシンビジョン業界に携わる。
2013年~2016年、キヤノン株式会社にてマシンビジョン関連の新製品開発のソフトウェアリーダとして従事。現在は、エバンジェリストとして活躍中。

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