ホーム > コラム・レポート > コラム > シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第28回)
産業用特殊レンズ~テレセントリックレンズ~ [2021.06.30]
  • コラム

シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第28回)
産業用特殊レンズ~テレセントリックレンズ~ [2021.06.30]

産業用特殊レンズ

今回は、産業用の特殊なレンズ、特に小さいものを撮像するためのレンズについてお話したいと思います。第26回コラムの「産業用レンズについて」で紹介したように、カメラのレンズは、基本的に撮像素子のサイズよりも大きな対象物を撮像するために用いられますが、今回は、撮像素子と同等または、それよりも小さな対象物を撮像する際に用いられる、特殊なレンズをご紹介いたします。

対物レンズとマクロレンズ

光源の種類

図1 テレセントリックレンズ(※1)

画像を拡大する

カメラに搭載される撮像素子は、1インチや1/3インチなどの大きさで、撮像素子より小さなものを撮像する場合には、①対物レンズや、②マクロレンズが用いられます。例えば、1インチの素子であれば、12.7mm x9.6mmのサイズのため、対象物が、それより小さいものを撮像する場合に用います(図2)。

対物レンズは、顕微鏡撮像で用いられるレンズで、産業用カメラマウントに変換するアダプタが提供されています。特徴は、顕微鏡と同じく、超高倍率な撮像に適しています。被写界深度が浅く、ピント調整が難しいものになります。また、対物レンズは、高価である点も挙げられます。焦点の合っている領域とボケ領域では、距離が異なることを示すため、距離による分離を行う際には、被写界深度が浅いことが有利となる場合もあります。広範囲な領域を移動しながら撮像する場合は、AF(オートフォーカス)を活用する場合もあります。また、全体の焦点を合わせる場合は、複数撮像での焦点合成を行います。マクロレンズは、対物レンズと比べ、倍率が少ないですが、構造が簡易で比較的安価であるため、小さなものの撮像には最も利用されるレンズです。ただし、こちらも被写界深度が浅いため、ピント調整はシビアです。また、遠くのものと近くのもので、大きくサイズが異なり、レンズ歪もあるため、測長などで利用する場合は、キャリブレーション処理が必要になります。

テレセントリックレンズ

撮像素子のサイズ

図2 撮像素子のサイズ

画像を拡大する

テレセントリックレンズ(図1)は、カメラに搭載される撮像素子と同サイズのものを撮像する際に用いられます。特徴は、対象物からの平行光のみを像化する仕組みのレンズであるため、周囲からの入射光の影響を受けず、同サイズの遠くのものと近くのものを、同サイズで共にピントがあった状態で撮像できます。これは、遠くにあるものも、近くにあるものも、同じサイズで撮像できることから、特に画像による計測や測定、形状認識に適しています。撮像素子サイズよりも大きな対象物を撮像する高倍率レンズも提供されています、テレセントリックレンズでは、レンズの横から照明を入射し、ミラーで反射させたて撮像を行う同軸落射照明が利用されています(図3)(図4)。

対物レンズとマクロレンズの構造(1)

画像を拡大する

図3 対物レンズとマクロレンズの構造(1)

対物レンズとマクロレンズの構造(2)

画像を拡大する

図4 対物レンズとマクロレンズの構造(2)

周辺光量差

図5 周辺光量差(※1)

画像を拡大する

ここでは、テレセントリックレンズ(ヴイ・エス・テクノロジー社製)を例に撮像画像例をご紹介します。同軸光のみを撮像することから、ハレーションなど起こさず、周囲光の影響を受けない安定した撮像が行えます(図5)。

レンズ分解能と被写界深度

図6 レンズ分解能と被写界深度(※1)

画像を拡大する

サイコロ上部と背景のメジャーが共にピントが合っていることがわかりますが、高さの異なるサイコロを撮像した場合でも、どの高さにも、ピントがあい、距離に依存なく、サイコロの大きさは、正しい比率で撮像ができています(図6)。

テレセントリックレンズの種類

可変倍率テレセントリックレンズ

図7 可変倍率テレセントリックレンズ(※1)

画像を拡大する

可変倍率テレセントリックレンズ
可変倍率により、全域で高テレセン性能を維持したテレセントリックレンズです(図7)。

大型センサー向けテレセントリックレンズ

図8 大型センサー向けテレセントリックレンズ(※1)

画像を拡大する

大型センサー向けテレセントリックレンズ
イメージサークルサイズ21~45Φで大型センサー対応テレセントリックレンズです。高解像度、高コントラスト、大口径Fマウント対応でラインセンサーでも利用可能です(図8)。

SWIR(近赤外)対応テレセントリックレンズ

図9 SWIR(近赤外)対応テレセントリックレンズ(※1)

画像を拡大する

SWIR(近赤外)対応テレセントリックレンズ
近赤外波長域(1000nm-1600nm)対応のテレセントリックレンズもリリースされています。光学倍率(1.0x~4.0)及び、同軸落射照明対応となります(図9)。

高倍率テレセントリックマイクロスコープレンズ

図10 高倍率テレセントリックマイクロスコープレンズ(※1)

画像を拡大する

高倍率テレセントリックマイクロスコープレンズ
光学倍率10倍で顕微鏡と同等の解像力をもつテレセントリックレンズです。WD 55mmでの撮像が可能で顕微鏡ではできなかったスペースを確保できることから、装置やシステムへの搭載が容易となります(図10)。

超小型テレセントリックレンズ

図11 超小型テレセントリックレンズ(※1)

画像を拡大する

超小型テレセントリックレンズ
業界最小・最軽量(※2)のSマウントテレセントリックレンズです。3.45μm素子による高分解能で、小型、軽量を実現したものも登場しています(図11)。

今回のまとめ

今回は、特殊レンズ~テレセントリックレンズ~についてご紹介しました。小さなものを撮像する際には、対象ワークが撮像素子全面に映ればよいということではなく、高精細で、被写界深度が高く、周囲外光の影響を受けないものとして、テレセントリックレンズは、まさに理想的なレンズといえます。次回は、照明についての続き(その2)をご紹介したいと思います。

※1 画像提供:株式会社ヴイ・エス・テクノロジー様 (https://vst.co.jp/)
※2 2019年 株式会社ヴイ・エス・テクノロジー様調べ

 

筆者紹介

シニアアプリケーションスペシャリスト 稲山

稲山 一幸(いねやま かずゆき)

エンジニアリング事業 シニアアプリケーションスペシャリスト

1992年住金制御エンジニアリング入社、Matrox社製品の国内総代理店立ち上げに参画、以降25年マシンビジョン業界に携わる。
2013年~2016年、キヤノン株式会社にてマシンビジョン関連の新製品開発のソフトウェアリーダとして従事。現在は、エバンジェリストとして活躍中。

関連するソリューション・製品

ホーム > コラム・レポート > コラム > シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第28回)
産業用特殊レンズ~テレセントリックレンズ~ [2021.06.30]