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産業用照明について その1 [2021.05.27]
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シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第27回)
産業用照明について その1 [2021.05.27]

産業用照明

今回は、産業用照明についての話をしたいと思います。以前、マシンビジョンシステムを構築する上で最も重要となるのは、“撮像”であると説明したことがありますが(コラム第7回参照)、照明技術もその構成技術の一つとなります。特に成形品外観のキズや汚れの検出では、背景に対して欠陥部のコントラストを高く撮影できれば、例えば、背景が黒で、欠陥だけが白で撮像できれば、後段の画像処理は簡易になり、システム全体の検出性能も高めることができます。そのため、照明は、単に明るさを与えればよいというものではなく、対象ワークの素材や形状、表面状態、そして、光の特性を考慮し、最適な照明条件を検討する必要があります。今回は、マシンビジョンで利用される産業用照明の光源についてご紹介いたします。

光と光源

光源の種類

図1 光源の種類

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光とは、粒子的特徴をもつ電磁波のことで、太陽光が最も広域な波長域をもち、2nm~10メールの電波となります。太陽光が広域でも、我々の目で視ることができる光は、約380nm~760nmの波長域(可視光領域)となります。目視検査の代替として導入する外観検査では、可視光領域で判断できるキズや汚れの検出が基本となりますが、産業用途では、ヒトの眼で見ることのできない可視光外の近紫外、近赤外、さらには、広波長域を高分解能で撮影するハイパースペクトル分野の活用も増えています。産業用照明用の光源としては、LED照明の利用が最も多く、蛍光灯、高輝度放電灯のメタルハライド、近赤外領域での半導体レーザーなどが利用されています。カメラ側の撮像素子も、近紫外から可視光領域のCCD/CMOS素子及び、可視光から近赤外領域のInGus素子が準備されていますので、波長域に合わせ選定します(図1)。

光の単位の種類

図2 光の単位の種類

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光源は、波長域の他、粒子的特徴から光の量や強さの単位として、①光束(ルーメン:lm)、②光度(カンデラ:cd)、③照度(ルクス:lx)の3つで示され、①光束は、光源の源で単位時間あたりに放射される光の量で、②光度は、ある方向への光の強さとして、光束の立体角密度で示され、③照度は、光が対象に照射された単位面積あたりの入射する光束となります。カメラ撮像は、対象ワークに照射された光の反射光をとらえるため、特に③照度(ルクス)が重要となります。③照度は、「②光束」÷「光源から対象までの距離の2乗」で計算されますので、光束の立体角密度の値が大きく(光が収束している状態)、光源からの距離が近いほど、大きな値となります。そのため、部屋全体を明るくするのであれば、白熱球や蛍光灯のように全方向に照射するタイプでもよいですが、マシンビジョンのようにある限定領域を明るくしたい場合は、LED照明のような小型で指向性の高い光源の方が、目的のものに対してのみ照射でき、省スペースに設置できるため自由度も高く有利となります(図2)。

光源の用途

図3 光源の用途

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各光源の照度と選定イメージを図3に示します。LEDと蛍光灯では、蛍光灯の方が高い値で表示されていますが、これは、屋内での天井設置と床での場合で、産業用LED照明は、用途別に構成されたものでは、より近距離に設置できるため、照度は高くなります。また、ラインスキャンカメラでの撮像や露光時間が短く設定されている高速度撮像など高い照度を必要とする場合は、太陽光の100倍のメタルハライドなどが適しています(図3)。

今回のまとめ

今回は、照明の光源についてご紹介しました。近年画像AI、ディープラーニングの進化ともない、ある程度の撮像がなされていれば、あとはAIが認識してくれると思われがちですが、産業用途における、高精度要求に対しては、やはり、背景と欠陥(キズや汚れなど)をよりコントラスト高く撮影できることなど、照明を含めた撮像技術が重要となります。目的別の照射方法や機器選定については、次回ご紹介いたします。

 

筆者紹介

シニアアプリケーションスペシャリスト 稲山

稲山 一幸(いねやま かずゆき)

エンジニアリング事業 シニアアプリケーションスペシャリスト

1992年住金制御エンジニアリング入社、Matrox社製品の国内総代理店立ち上げに参画、以降25年マシンビジョン業界に携わる。
2013年~2016年、キヤノン株式会社にてマシンビジョン関連の新製品開発のソフトウェアリーダとして従事。現在は、エバンジェリストとして活躍中。

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