- コラム
コラム|需要予測にAIは活用できるのか?
~需要予測にAIを効果的に活用するためのポイントとは?~[2022.2.17]
昨今、経済・社会環境は急激に変化し続けています。それによっておこる社会課題やトレンドに対し、需要予測・需給計画は柔軟に対応していく必要があります。
そこで本コラムでは、需要予測・需給業務の担当者や最新のトレンドを学びたい方向けに、今後必要とされる需要予測・需給計画の取り組みやポイントについて、弊社コンサルタント独自の視点で解説します。
需要予測にAIは活用できるのか?
昨今のデジタル技術の急速な進歩に伴い、DX(デジタルトランスフォーメーション)への投資は今後さらに進んでいくでしょう。DXを支える技術の1つとして注目されているのがAIです。企業はこの厳しい時代を勝ち抜くため、AIを活用して業務効率化や競争優位性を創出しようとしています。AIの活用範囲は多岐に渡りますが、今回はその中でも需要予測の領域に着目して、需要予測にAIを効果的に活用するためのポイントについてお話します。
AI(人工知能)とは
現在多くの人たちが「AI」という言葉を一度は耳にしているかと思います。AIの歴史は意外と古く1950年代から研究されている技術です。また、「AI」の他に「機械学習」、「ディープラーニング」という言葉を耳にした方もおられるのではないでしょうか。「AI」、「機械学習」、「ディープラーニング」の詳細については専門書等に任せることにして、ここではざっくりとお話ししたいと思います。「AI」、「機械学習」、「ディープラーニング」は包含関係にあります。AIは「知的な機械,特に,知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術(※)」と言い表されるように、概念的な広い定義がなされています。一方、機械学習はAIに関わる分析技術の一つであり、膨大なデータからルールやパターンを学習する技術を指します。学習の力のあるAIが機械学習と言えるのではないでしょうか。また、ディープラーニングとは、機械学習を実行するアルゴリズムの一種で、これまでのアルゴリズムとの違いは特徴量の抽出を自動的に行える点です。需要予測で言えば、売上を予測したい場合、天気や気温等々が特徴量に該当し、売上に関係する情報として自動で抽出してくれる点です。これまでは、天気や気温等々は売上に影響する指標であると機械に指示しなければいけませんでしたが、ディープラーニングでは機械に指示するのではなく機械が独自で判断してくれます。では、需要予測におけるAIについてもう少しお話しを進めていきたいと思います。
- ※ 出典:人工知能学会公式サイトより
需要予測分野におけるAI活用について
我々を取り巻く社会環境や市場環境は急激に変化しています。この変化に追随できなければ、機会損失や不要コストが多発し会社存続にも影響を及ぼす可能性があります。例えば、近年の物流現場では、在庫削減の施策として「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ配送する」ジャストインタイム物流(多頻度小口配送)を進めてきましたが、結果として物流オペレーションの負荷増大、さらに、トラックドライバー不足による「物流危機」と呼ばれる新たな社会課題が加わったことで、これまでと同じ方法では物流現場が立ち行かなくなりつつあります。製造現場においても深刻な人手不足になってきており、特に労働集約型の生産ラインでは、需要変動への柔軟な対応が難しくなってきています。
このような課題を解決するためにより高精度な需要予測が求められてきており、それを実現するための方法としてAIの活用が期待されています。製造・流通業以外にも金融業など様々な分野・領域でAIを活用した需要予測が行われています。需要予測の精度を上げるためには膨大なデータをスピーディーに効率よく分析する必要がありますが、コンピュータのデータ処理速度が飛躍的に向上したことにより、AIの活用でそれがより現実的となりました。さらにこれまでAIは専門的知識がないと扱いにくい技術領域でしたが、近年ビジネスユーザでも扱えるAIツールが登場してきたことも需要予測にAIを活用する企業が増えてきた理由の1つと言えるでしょう。
需要予測にAIを活用するポイントは?
AIの活用が様々な分野・領域で急速に普及してきましたが、AIを活用して需要予測を行えば高精度の結果が得られるのでしょうか?結論から言えば「NO」です。やり方次第では期待したほどの精度が得られない可能性もあります。そもそもどんなに頑張っても従来の予測精度を上回らない、あるいは下回る可能性もあります。また、AIを活用した需要予測はだれでもすぐにできるのでしょうか?
結論から言えばこちらも「NO」です。AIを活用するにはまだまだ障壁があると思います。そこで、需要予測にAIを活用し成功させるポイントを以下にまとめてみました。
①データの蓄積・管理
②データ整備
③予測モデル設計・チューニング
- ①データの蓄積・管理
- 需要予測の精度を上げるためには様々なデータを準備する必要があります。予測精度向上に繋がるデータかどうかは別にしてまずはデータをかき集める、少なくとも人が需要予測をする上で参考にしているデータは蓄積することが望ましいでしょう。しかしながらデータはそう簡単に収集できない可能性があります。そもそも望むデータがあるのか、欲しい粒度であるのか、電子化されているのか、自社内に取込可能かなど確認すべきことは色々あります。最終的には自社システム内へデータを取込み蓄積・管理ができるシステム基盤を整備・構築する必要があります。
- ②データ整備
- ①で蓄積したデータからAIで利用できるデータを作成する必要があります。①で蓄積したデータをただ単に機械に読み込ませればよいという訳ではありません。AIで利用できるようにデータを整備し、品質を高めるための作業が必要になります。専門的な分析者でも、このデータ整備に大半の時間を費やすといっても過言ではありません。逆に言えばこのデータ整備の結果次第で需要予測の精度が大きく変わってしまうとも言えるでしょう。
- ③予測モデル設計・チューニング
- ②で整備したデータを基に学習モデルの構築・評価を行う必要があります。②で整備したデータの質が悪いとそれに基づいて構築されたモデルの信頼性も低く予測精度も期待できません。ですので、②の重要性がわかるかと思います。ところが②を適切に整備してモデルを構築したとしても予測精度が最初からよいとは限りません。モデル設計の見直し、チューニングを行い何度も学習を重ねて予測精度を高めていく作業が必要になります。
このように需要予測にAIを活用し成功するには様々な準備、作業が必要となります。①についてはシステム構築投資が必要になる場合もあるでしょう。②、③についてはAIツールで専門的な知識がなくてもある程度は作業が可能になってきていますが、まだまだ専門知識を有する人に任せた方がよいというのが実情ではないでしょうか。
おわりに
AIによる需要予測に過度な期待は禁物です。結局、AIによる需要予測も従来型の需要予測同様に過去データをもとに未来を予測するため、過去データに含まれない事象への対応には限界があります。需要予測を使う側がこういったリスクを認識した上で日々の業務に活用していくべきです。また、需要予測で大事なことは、どのような予測方法であっても予測精度をチェックし精度を一定に保つ作業を継続的に行っていくことです。上述のポイントで言えば、②のデータを再整備、③のモデルの再構築・再チューニングを継続的に行うことが重要であると言えるでしょう。
繰り返しになりますが、AIによる予測手法は万能ではありません。効果があるのかもやってみないとわかりません。プロジェクトとしてAI活用を考えている場合、まずはPoC(実証実験)で効果測定を行ってから、導入可否の検討をすることをお勧めします。
筆者紹介
青山 行宏(あおやま ゆきひろ)
R&D本部 数理技術部 シニアコンサルティングスペシャリスト。
米国PMI認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル。需要予測・需給計画ソリューション FOREMAST(フォーマスト)の開発およびシステム導入プロジェクトに従事。
関連書籍など
在庫管理のための需要予測入門
FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。
在庫管理のための需要予測入門
キヤノンシステムソリューションズ株式会社数理技術部[編] 淺田 克暢+岩崎 哲也+青山 行宏[著] ■出版社:東洋経済新報社 ■発売日:2004年12月22日 ■ISBN:4492531874 ■価格(税込):1,980円
関連するソリューション・製品
- FOREMAST 大量の在庫を抱えているのに欠品や納期遅れが発生していませんか?「キャッシュフロー経営」が叫ばれる中、多くの企業で在庫削減が重要な経営課題となってきています。しかし一方で、お客さまからの即納・短納期要求は益々強くなってきており、欠品の発生が企業経営に大きな影響を与えるケースも増えてきました。FOREMASTは、科学的な需要予測に基づく在庫補充計画と、需給計画・実績情報の共有支援、問題の見える化により、欠品なき在庫削減の実現を支援します。